日本では狂犬病ワクチン接種は全頭に義務付けられています。
家からほとんど出ない室内犬でも外飼いの犬でも関係ありません。
私は狂犬病ワクチン全頭接種は無意味であると考えます。
私は飼い主に対して「接種の必要はない」という説明はしていません。
日本における狂犬病の発生状況と関連する法律を説明し、飼い主さんに判断を委ねています。
狂犬病ワクチン接種に関しては以前、3回記事にしました。
狂犬病ワクチン接種に関してまとめます。
Contents
狂犬病に関する私の主張
狂犬病ワクチン接種、狂犬病対策に関する私の主張は以下の通りです。
狂犬病ワクチンに関して
- 室内飼いの犬に狂犬病ワクチン接種は不要
- 野犬の集団が存在する地域や病原巣となる野生動物(アライグマ、キツネ、タヌキ等)が多数生息している地域で外飼いの犬には狂犬病ワクチン接種を義務付け
狂犬病対策に関して
- 検疫体制の強化
- 野生動物の分布域の調査、野生動物に狂犬病が発生した場合のマニュアル作成等、森林型の狂犬病発生に備えた対策を強化する
詳細は下記の記事を参照して下さい。
狂犬病ワクチン接種の問題点
毎年死亡事例が発生
狂犬病ワクチンは副反応の確率は低く、効果が期待できる優秀なワクチンです。
しかし、毎年死亡事例が発生しています。
死亡事例には室内犬も多く含まれます。
室内犬の死亡事例に関しては、私は必要の無い接種での痛ましい事例であると考えます。
狂犬病TCワクチン「KMB」による死亡事例
2002年~2022年 70件
https://www.vm.nval.go.jp/public/detail/3764
狂犬病ワクチン-TCによる死亡事例
2002年~2022年 52件
https://www.vm.nval.go.jp/public/detail/3261
日生研狂犬病TCワクチンによる死亡事例
2002年~2022年 34件
https://www.vm.nval.go.jp/public/detail/3262
松研狂犬病TCワクチンによる死亡事例
2002年~2022年 37件
https://www.vm.nval.go.jp/public/detail/3264
これらは報告として上がっているものだけですので、獣医師や製薬会社が報告しなかった事例は含まれません。
ワクチン接種後の詳細な経緯は不明ですので全ての事例で因果関係が立証されているわけではありません。
接種率70%の目標
狂犬病ワクチン接種の接種目標は70%です。
実際は70%を下回っているはずですが、毎年目標はクリアしたことになっています。
70%という目標は集団免疫獲得のためです。
日本国内での蔓延を予防するための目標ということですが、おかしな話です。
犬は人とは異なり、通勤、通学をしませんし、狂犬病はエアロゾル感染しないので、散歩等で他の犬や野生動物に近づかなければ狂犬病に感染することはありません。
散歩にも行かない室内犬は日本では狂犬病に感染する確率は0%でしょう。
終戦後、日本で狂犬病が多数発生したのは所有者不明の野犬が多数存在し、飼い犬の多くが外飼いであったためです。
室内犬が大多数の現在の日本で狂犬病が蔓延するとは考えにくいです。
このような状況で室内犬を含めての集団免疫状態を形成する必要性は全くありません。
(そもそも他の犬と接触が無いような犬まで含めて群と定義するのは適切なのでしょうか?)
補足:ウイルスを含むエアロゾルの吸入による感染は報告されているそうですが極めてまれです。
https://www.forth.go.jp/topics/2023/2023_0131.html
https://www.eiken.co.jp/uploads/modern_media/literature/2018_06/001.pdf
犬にとってのトラウマ
狂犬病ワクチン接種は犬にとってトラウマになる可能性があります。
当然ですが、ワクチン接種は犬にとって痛いものです。
当院ではおやつを与えたり、気をそらしたりすることで犬が気づかない間に接種を終わらせるようにしています。
しかし、おやつを食べない犬や警戒心の強い犬、他院で全く配慮されずに注射を打たれ続けた犬に対しては誤魔化すことは難しいです。
このような犬は無理やり抑えつけて接種を行いますが、このような事を毎年続けると犬にとっての大きなトラウマとなります。
このような犬は動物病院に来ることを極度に嫌がり、飼い主さんを咬むようになったりするため、動物病院に連れて来れなくなることがあります。
具合が悪くなっても動物病院に連れて来れず、必要な治療が受けられず、寝たきり状態になってようやく治療を開始する事例もあります。
このようなことは犬にとっても飼い主さんにとっても不幸なことです。
必要な注射であれば、仕方の無いことかもしれませんが、必要の無い注射で犬にトラウマを植え付けることは動物愛護の観点からも避けるべきであると考えます。
狂犬病ワクチン接種は利権なのか?
当院での全売上に占める狂犬病ワクチン接種の売上は約2%です。
他の動物病院も大きくは変わらないでしょう。
現在、狂犬病ワクチン接種に経営を依存している動物病院は少ないでしょう。
当院は狂犬病ワクチン接種が廃止されても経営的には全く困りません。
しかし、多くの獣医師が現在のワクチン接種事業に異議を唱えないのであれば利権であるとの謗りを免れないと考えます。
動物病院以外には製薬会社、狂犬病の鑑札を作成する業者が狂犬病ワクチン接種に関与していますが、この人達が狂犬病ワクチン接種事業に経営を依存しているかどうかはわかりません。
狂犬病侵入リスク
東京大学の杉浦教授等のグループによる報告では狂犬病の侵入リスクは次のように試算されています。
動物検疫所を通じて正規に輸入されるイヌネコによるもの
78,199年に1回
米軍関係のイヌネコの輸入によるもの
153,503年に1回
ロシア船によるイヌの不法上陸によるもの
161,652年に1回
https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2015/153111/201517006A/201517006A0001.pdf
国際貨物コンテナ迷入動物によるもの
368,864年に1回
https://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/topics_20201110-1.html
狂犬病が日本に持ち込まれた場合
日本に狂犬病が持ち込まれる場合として想定されるのは北朝鮮、ロシア等によるテロ行為でしょう。
仮に日本人が日本で犬に咬まれて、狂犬病を発症し、咬んだ犬が特定されない場合は大ニュースとなるでしょう。
近隣の住民で「室内犬」を飼っている人はどうしたら良いでしょうか?
仮に狂犬病ワクチン接種を受けていない場合、すぐに動物病院に連れていき、ワクチン接種を受けるべきでしょうか?
よく考えて下さい。
咬んだ犬がわかっていません。近所をうろついているかもしれません。
動物病院に犬を連れていく行為そのものが危険です。(飼い主さんにとっても犬にとっても)
当然、動物病院の待合には多数の犬がいます。
犬に近づかなければ感染する可能性が無いにもかかわらず、このタイミングで動物病院に行くことは感染する機会を増やす行為です。
日本で狂犬病が発生しても「室内犬」であれば、狂犬病ワクチン接種の有無にかかわらず、何もする必要はありません。(散歩はやめておきましょう)
このように考えると狂犬病対策において「室内犬」と狂犬病ワクチン接種とは、ほぼ関係が無いことがわかると思います。
補足:
実際には「狂犬病予防法 第三章 第十条」の「けい留」命令が出ると考えられますので、近隣の犬は外出禁止となるはずです。
投書に対する日本獣医師会の反論
平成15年に朝日新聞に「狂犬病 無駄な予防接種をやめよ」という投書が載りました。
春になると憂鬱な気分にさせられる.医学的に無意味でありながら,「20万円以下の罰金」の力を背景に強制される,狂犬病の予防接種が始まるからである.全国約550万ともいう犬の飼い主が,この予防接種で負担させられる金額は年に200億円にも及ぶ.
狂犬病は人畜共通のウイルス感染症だ.犬に自然に発生するものではなく,感染源となる動物がいない限り被害は起きない.国内では70年以降,人及び犬を含む家畜,野生動物に狂犬病の発生はなく,ウイルスは存在しない.
にもかかわらず,なぜ毎年,犬にワクチンの接種をしなければならないのか.現に,狂犬病のない英国,アイルランド,北欧諸国ではこうした措置はとっていない.それどころか豪州とニュージーランドでは禁止されている.接種を強制する国は,ウイルスが犬や野生動物に存在する国・地域に限られるのである.
http://nichiju.lin.gr.jp/mag/05605/06_05.htm
略
この投稿に対する反論が次のものです。
かなり昔の記事ですが日本獣医師会のサイト
( http://nichiju.lin.gr.jp/ekigaku/kyouken.html ) からリンク
がありますので公式見解と考えて良いと思います。
3月27日付「私の視点」で,狂犬病について加沼戒三氏は「無駄な予防注射はやめるべきだ」と主張しているが,反論したい.
狂犬病は,日本では56年のイヌ,57年のネコを最後に,58年以降は発生していない.世界でも数少ない清浄国と言えるのは,ワクチンの接種など,さまざまな対策をしてきた先人の努力の賜だ.だが,最近は発生してもおかしくない状況がある.「予防注射は無駄」とはいえない.
狂犬病は,人を含めたすべての哺乳類がかかる.発病すると悲惨な神経症状を示した後,100%死亡する.地球上で最も危険なウイルス感染症だ.日本の近隣各国を含めたアジア,アフリカ,北中南米,欧州などで狂犬病は現実に発生している.人の発病死は,年間3万3千件と報告されているが,実数は十数万とも見られる.狂犬病を発生していない日本,英国,豪州などは例外といえる.
http://nichiju.lin.gr.jp/mag/05605/06_05.htm
狂犬病撲滅にワクチン接種が大きく寄与したのは事実ですが、そのことと現在も同じようにワクチン接種が必要かどうかは別問題です。
狂犬病清浄国は世界でも少数です。
感染対策は地域によって異なるのは当然であり、現在の日本の状況に応じた感染対策が必要です。
感染から発病までの潜伏期間は平均1~2カ月間で,その間の診断は不可能だ.突然発病して1週間から10日で死に至る.人に対する有効な治療法は,動物にかまれた後,できるだけ早くワクチン注射をすることしかない.抗狂犬病免疫グロブリンを併用すれば,治療効果が高まるが,日本にはほとんどない.
狂犬病の発生防止対策は大きく分けて二つある.一つは英国や豪州などで取られている水際作戦で,動物検疫の厳密実施だ.この場合,国内のイヌには予防注射をしないが,入国するイヌには免疫獲得の事前確認が必要になる.野生動物は輸入が禁止される.
だが,病原体が検疫をすり抜けた場合は大打撃を受ける.最近,英国や豪州で,狂犬病にきわめて近いリッサウイルスが入り込み,感染症を起こしていることが明らかになっている.
もう一つは,日本のように動物検疫と国内でのイヌの予防注射を併用することだ.動物検疫は英国や豪州ほど厳しくなく,日本ではイヌ,ネコ,キツネ,スカンク,アライグマが対象で,他の野生動物はフリーパスだ.病原体の侵入を許す危険性はあるが,最も人に感染させやすいイヌに免疫をつければ,国内の流行は阻止できる.
http://nichiju.lin.gr.jp/mag/05605/06_05.htm
狂犬病に感染した野生動物が検疫をすり抜けた場合、その野生動物と接触する可能性のある動物が最も危険です。
それはイヌでしょうか?
通常は野生動物を飼育するために輸入した飼い主です。
仮に検疫をすり抜けた野生動物から飼い主が感染した場合は大ニュースとなり、対策が取られます。
この場合、飼い主が犬を飼っていた場合はその犬も監視対象となりますが、野生動物と飼い主(野生動物と接触した動物)をどうするかが一番の問題になります。
狂犬病に感染した野生動物が検疫をすり抜け、逃げ出した場合は大変なことになるでしょう。
野生動物間での狂犬病封じ込め策については規定がありませんので、マニュアル作成は喫緊の課題です。
しかし、このことと「室内犬」への狂犬病ワクチン接種とは何の関係もありません。
日本では「イヌ、ネコ、キツネ、スカンク、アライグマ以外の野生動物はフリーパス」と書いてありますが誤解を招く表現です。
「サル、プレーリードック、イタチアナグマ、タヌキ、ハクビシン、コウモリ、ヤワゲネズミ」は持ち込みが禁止されており、その他の動物に関しても規制があります。
https://www.maff.go.jp/aqs/animal/aq11-5.html
「最も人に感染させやすいイヌに免疫をつければ,国内の流行は阻止できる」とあるように狂犬病ワクチン接種の目的は狂犬病の”蔓延”予防です。
この目標設定そのものがズレてます。
狂犬病はヒトにとって致死的な感染症ですので、国内で1例でも発生するようなことがあってはいけません。
現在の日本では犬による狂犬病の蔓延は考えにくいにも関わらず、未だに戦後と変わらない目標設定で狂犬病対策が行われています。
狂犬病は日本では大正時代,年間3千件以上発生していたが,22年からイヌへの予防注射を徹底すると,約10年間で撲滅寸前にまで抑えた.だが,戦時中に対策がおろそかになると,戦後は年間約1千件に激増.50年に現行の狂犬病予防法が制定され,予防注射拡大の結果,7年で撲滅した.その有効性は証明済みだ.
http://nichiju.lin.gr.jp/mag/05605/06_05.htm
狂犬病ワクチンの有効性は否定しません。
しかし、ワクチンの有効性と全頭接種が必要なこととは別問題です。
戦後に狂犬病が激増したのは飼い主不明の野犬が多数存在したのが大きな要因の一つです。
そのため野犬の捕獲、狂犬病ワクチン接種と同時に飼い主登録も行われています。
飼い犬の多くが外飼いであったということも感染が拡大した要因です。
現在の日本の状況とは大きく異なります。
狂犬病ウイルスやリッサウイルスが日本に侵入する可能性は高まっているといえる.その理由は(1)近隣各国を含め世界での発生が減っていない (2)多数の愛玩用野生動物が検疫なしに輸入されている (3)不法に入る動物が年々増加している,などである.
http://nichiju.lin.gr.jp/mag/05605/06_05.htm
「(3)不法に入る動物が年々増加している」というデータは私の手元には無いので真偽はわかりませんが、仮に事実であれば必要な対策は検疫体制の強化です。
日本では,家畜への検疫が厳密だったにもかかわらず,00年に宮崎市で口蹄疫が92年ぶりに発生した.水際作戦の難しさを物語る出来事だと言える.
万一狂犬病が日本で発生した場合,口蹄疫や牛海綿状脳症(BSE)の発生時とは比べられないほどの大混乱と経済的負担が起きるだろう.イヌの飼い主が1年に1度,予防注射に約3千円払うのは,大パニックに対する保険だと思えば,そう高い代価ではない.
http://nichiju.lin.gr.jp/mag/05605/06_05.htm
口蹄疫は空気感染を起こしますし、汚染された器具、飼料、人等を介しても感染する非常に感染力の強い感染症ですので、引き合いに出すのは不適切です。
「イヌの飼い主が1年に1度,予防注射に約3千円払うのは,大パニックに対する保険だと思えば,そう高い代価ではない」とありますが、パニックを起こさないように啓蒙活動を行うのが獣医師の役割です。
不適切な説明で飼い主さんに恐怖を植え付けるべきではありません。
なんとも投げやりな結論に閉口してしまいます。
必要の無い狂犬病ワクチン接種による死亡事例や犬に与えるトラウマに関する視点が欠如していて非常に残念です。
私は法律を遵守しますので飼い主さんに積極的に非接種を推奨しているわけではありません。(毎年数百頭以上に接種を行っています)
しかし、現在の狂犬病対策は現実に即したものではないので改めるべきであるという立場です。
一体いつになったら、冷静な議論ができるようになるのでしょうか?