狂犬病予防法により、犬の飼い主には1年に1回、狂犬病の予防注射が義務づけられています。
狂犬病ワクチン接種そのものに問題はあると思います。
しかし、法律で定められているにもかかわらず、接種しない方が多いのも事実です。
狂犬病予防法
犬の所有者(所有者以外の者が管理する場合には、その者。以下同じ。)は、その犬について、厚生労働省令の定めるところにより、狂犬病の予防注射を毎年一回受けさせなければならない。
次の各号の一に該当する者は、二十万円以下の罰金に処する。
二 第五条の規定に違反して犬に予防注射を受けさせず、又は注射済票を着けなかつた者
狂犬病ワクチン接種の現状
厚生労働省発表のデータ(1)から
- 登録頭数・・・6,226,615頭
- 接種頭数・・・4,441,826頭
- 注射率・・・71.3%
平成30年度の厚生労働省によるデータです。未接種頭数は約180万頭になります。登録すらされていない場合がありますので未接種頭数は実際はもう少し増えるはずです。
狂犬病接種率の推移は次の通りです。
年度 | 狂犬病ワクチン接種率 |
平成30年度 | 71.3% |
平成29年度 | 71.4% |
平成28年度 | 71.4% |
平成27年度 | 71.8% |
平成26年度 | 71.6% |
平成25年度 | 72.6% |
国内での狂犬病発生時に蔓延を予防するために狂犬病ワクチン接種率の目標は70%とされています(2)。
近年狂犬病ワクチン接種率は低下していますが何故か毎年ギリギリのラインで70%をクリアしています。
ペットフード協会によるデータ(3)から
ペットフード協会による調査では犬の飼育頭数は8,903,000頭というデータがあります。このデータから考えると未接種頭数は約450万頭、接種率は49.9%になります。
病気等により接種が猶予される場合があります。また多頭飼いの場合もありますが、少なくとも数百万人が飼い犬に狂犬病ワクチンを接種していないことになります。
毎年数百万人が法律違反
狂犬病予防法により、犬の飼い主には1年に1回、狂犬病の予防注射が義務づけられています。
数百万人が飼い犬に狂犬病ワクチンを接種していないと推測されますので、毎年数百万人が法律違反をしていることになります。
時々、ニュースで狂犬病予防法違反で逮捕されたという報道がありますが、多くは多頭飼いで保健所からの注意に従わない悪質な場合や別件での逮捕です。従って一般の飼い主さんが狂犬病予防法違反で逮捕されることはまずありません。(接種しないことを推奨しているわけではありません)
行政の対応
狂犬病ワクチン接種を行っていない飼い主に対しては年度終わりが近づくと市町村から督促のハガキが送られることになっています。
しかし、当院周辺の市町村では送付していない市長村の方が多いです。
病気等により狂犬病ワクチン接種ができない場合は、市町村に狂犬病予防接種の猶予証明書を提出する必要があります。
しかし、当院周辺の市町村では全て提出は不要とのことでした。
まとめとして
数百万人が飼い犬に狂犬病ワクチンを接種していないと推測されますので、毎年数百万人が法律違反をしているにもかかわらず、処罰されることが無い状態が続いています。また行政の飼い主さんに対する注意、指導は十分とは言えない状態です。
- 飼い主さんは狂犬病ワクチン接種の必要性を認識していない
- 数百万人が狂犬病予防法に違反し、行政が認識しているにもかかわらず、ほとんど処罰されない
こういう状況に関しては取るべき施策は次のようなものになると思います。
- 飼い主さんに対して狂犬病ワクチン接種の重要性を認識させる
- 狂犬病予防法を厳格に適用するために罰則を強化する
- 現状にそぐわない法律は改正する
私は現在の狂犬病対策は現実的なものではないので①②は無意味であると考えます。私は法律を尊重するという考えですので、毎年数百万人が法律違反をし、行政が認識しているにもかかわらず処罰されない状態が続いているのは異常であると考えます。(憲法9条で戦力不保持の規定がありながら自衛隊という軍隊が存在し、賭博が禁止されているにもかかわらず、パチンコのCMが大量に流される日本では法律違反を指摘する方が野暮なのかもしれませんが)
狂犬病対策が現実に即したものになることを期待します。
参考文献
(1)厚生労働省 都道府県別の犬の登録頭数と予防注射頭数等 平成30年度
(2)狂犬病について 参考資料3 農林水産省消費・安全局
(3)ペットフード協会による全国犬猫飼育実態調査 2018年