コロナウイルス感染症

ベイズの定理を悪用し、コロナウイルスPCR検査の有用性を否定する医師達

以前ベイズの定理を用いて事後確率を計算する時の注意点を記事にしました。

ベイズの定理を用いてPCR検査の有用性を考える際の注意点 コロナウイルスPCR検査を行う場合に事前確率が低いと考えられる場合には検査を行うべきではないと主張する人達がいます。その理由としてベイ...

近頃はコロナウイルスPCR検査の特異度を99%として計算する人は減ってきましたが、中には未だに99%として計算する人がいます。
あまりに悪質なのでまとめます。

ベイズの定理を悪用する手口

コロナウイルスPCR検査の偽陽性は検体取り違え以外ではほとんど起こり得ません。
特異度がほぼ100%ということに多くの人は異論が無いようです。

コロナウイルスPCR検査の偽陽性について PCR検査については間違った報道が多いです。 https://tatsuharug.com/laboratory-technic...

特異度ほぼ100%を99%や99.9%とするのは、その人に依ります。
計算に用いるのでなければ99%であろうが99.9%であろうが大きな問題ではありません。
ところがベイズの定理を用いる場合、99%、99.9%、99.99%、99.999%では結果は大きく異なります。
ベイズの定理を悪用する人は、このことをわかった上でほとんど100%を99%や99.9%として計算します。
彼らが99%、99.9%とするのには全く根拠はありません。
99%、99.9%という特異度は低すぎるのではないかという指摘には、この数字は仮定に過ぎないという言い訳をします。
これがベイズの定理を悪用する手口です。

コロナウイルスPCR検査の特異度

PCR検査の原理を考えると偽陽性は検体取り違え以外はほとんど起こらないと考えられます。

武漢の大規模調査では989万9828人を検査して陽性者は300人です。
陽性率は0.003%になります。
http://j.people.com.cn/n3/2020/0603/c94475-9697190.html

武漢の大規模調査で陽性者300人が全て偽陽性だとしても特異度は99.997%となります。
以降コロナウイルスPCR検査の特異度を99.997%、感度70%として計算してみます。
(実際はもう少し高いでしょう)

データから見るコロナウイルスPCR検査の特異度 コロナウイルスPCR検査の特異度を99%や99.9%という不適切な仮定で計算し、無症状者に対するPCR検査に反対している医師達の記事を...

特異度90%

東京大学公共政策大学院 鎌江伊三夫特任教授

上図を見てほしい。左の20人中10人が感染している(有病率50%)状態で、感度70%、特異度90%の検査をしたとする。感染している10人のうち3人が陰性(偽陰性)、感染していない10人のうち1人が陽性(偽陽性)になる。この検査で陽性となった人の中で実際に感染している人の比率(陽性的中率)は88%だ。

一方、検査を受ける人の数が多く有病率が9%と低い右の集団では、陽性的中率は41%に下がってしまった。陽性判定の半分以上が「ぬれぎぬ」を着せられたわけだ。病気の人を探したいのに当たりが半分以下では困る。ならば、検査前に有病率が高い集団になるよう絞り込まなければいけない。

https://diamond.jp/articles/-/234135?page=2

有病率9%、感度70%、特異度99.997%で計算すると陽性的中率は99.96%です。
当然ですが計算上も偽陽性はほとんど起こりません。
コロナウイルスPCR検査の特異度が90%というトンデモない仮定をしているのは世界中でこの人くらいかもしれません。

東北大学大学院医学系研究科発達成育医学講座胎児医学分野 研究室長 室月淳氏

追記です。最近発見しました。

罹患率2%、感度70%、特異度99.997%で計算すると陽性的中率は99.79%です。
偽陽性者は1%も出ません。

上記の計算を元にPCR検査を否定しています。
不適切な仮定で間違った計算をし、それを元に偽陽性が何百人もでてきて、医療崩壊が起こるという主張です。
「1日1万件以上の検査など狂気の沙汰」とまで言っています。
当然、このツイートの訂正は行っていません。
最近の投稿を見てみます。

1日1万件以上の検査を行っても陽性反応すらほとんど出なかった武漢の検査を政治的デモンストレーションであると決めつけています。
もちろん根拠は無さそうです。

偽陽性がほとんど出ないのは武漢に限ったことではありません。
ニュージーランドでは4万件以上連続で陽性者0(特異度100%)でした。
岩手県、福井県、福島県でも1,000件以上連続で陽性者0(特異度100%)でした。
Jリーグは6,000件以上連続で陽性者0(特異度100%)でした。
世界各国、日本国内においても偽陽性はほとんど出ていません。

これらの事実を室月氏はどのように説明するのでしょうか?
室月氏の一連の発言は非常に悪質ではないでしょうか?

特異度99%

九州大学教授 馬場園明氏

一方、特異度は感度より高いが、特異度が100%の検査は理論上、存在しない。理由はこうだ。仮に、特異度が99%だったとしよう。4月11日現在の日本の感染者数は、総人口1億2595万人対して6129人であるので、感染者の確率は2万人に1人ということになる。 表1に示すように、PCR検査で感染者をを正しく陽性と判定できるのは計算上、0.7人になる。この場合、偽陰性者は0.3人とほとんど発生しない。

一方、この場合の非感染者は1万9999人であるが、特異度が99%ならば、1%は誤って陽性になるので、偽陽性者が1万9999人×0.01=199.99人発生する。陽性反応的中率は、検査で陽性とされた真陽性者0.7人÷(真陽性者0.7人+偽陽性者199.99人)= 0.35%に過ぎない。この場合、数多くの偽陽性者が不適切な自宅隔離を余儀なくされることになる。

https://www.jcer.or.jp/blog/babazonoakira20200415.html

罹患率0.005%、感度70%、特異度99.997%として計算すると陽性的中率は53.85%です。

感染者非感染者
検査陽性0.70.599
検査陰性0.319998
総数119999

偽陽性者が1人出るかどうかという数字になります。
「日本人全員を対象にした大規模PCR検査をしろ」なんてことを言ってる人は、ほとんどいないと思うのですが罹患率0.005%というおかしな仮定で計算しています。

それにしてもこの人は凄い。
「特異度は感度より高いが、特異度が100%の検査は理論上、存在しない。理由はこうだ。」の後に一切その理由を書いていません。
誰かチェックしないのでしょうか?

EARLの医学ツイート  東北医科薬科大学病院感染症内科  福家良太氏

罹患率0.5%、感度70%、特異度99.997%として計算すると陽性的中率は99.15%です。
計算上ほぼ偽陽性は起こりません。
普通は1度の検査で陽性確定とはしないと思います。
患者への負担が大きい場合、再検査は必ず行うはずです。
この医師はたった1回の検査で確認もせずに重要なことを決定するのでしょうか?

感染症専門医 岩田健太郎氏

罹患率1%、感度70%、特異度99.997%で計算すると陽性的中率99.58%です。
このツイートでいろいろな人からの批判を受け、「特異度99%は仮定の話です」と言って逃げてます。

診断病理医  峰 宗太郎氏

編集Y:仮に東京都民1000万人(※実際には推計1398万人です)が全員検査を受けたとしますよね。現在のPCR検査の陽性率が5%(7日間移動平均、データはこちら)ですから、仮にこれをそのまま当てはめて、50万人いたとしましょう(これはあくまで計算上の仮定です、ご注意ください)。

https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00164/052700002/?P=2&mds

例のごとく、計算上の仮定として言い逃れできるようにしています。

……で、全員検査を受けても、このうちの3割が偽陰性になるわけですか。15万人の陽性の人が、自分の感染に気づけず、診療・隔離もされないことになりますね。

(こちらが分かりやすいです→ PCR検査の特性と限界:神奈川県医師会)

編集Y:1000万人の1%は10万人、仮に50万人の感染者がいるとして、全員にPCR検査をすると、正しく陽性と判断される人が35万人、間違って陽性と判断される人が10万人、陽性なのに陰性だと判断される人が15万人。うーむ。

https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00164/052700002/?P=2&mds

参考として神奈川県医師会の「コロナ通信」というページを紹介しています。
当初「コロナ通信」では特異度99%で計算していました。
その後、特異度99.9%で計算し直していましたが、最終的に「コロナ通信」そのものが消えてなくなりました。
編集Yは「コロナ通信」のページを参考にし、特異度99%で話をしています。

:その仮定だと、実際の感染者数をすごく大きく取っていますから分かりにくいですね。たとえば実際の感染者が1万人だったとすると、問題はさらに深刻になりますよ。

編集Y:あっ、今度は偽陽性の人、本当は感染していないのに「大変だ!」となる人の割合が跳ね上がるのか。

:そうです。感染者は1万人しかいないのに、間違って陽性だと判断される人が10万人出てしまうことになります。感染者1万人のうち検査で陽性と判断されるのは7000人。つまり、検査で「陽性だ」と言われた人の中で、本当に治療が必要な陽性の人は、たったの6.5%しかいないことになります。

https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00164/052700002/?P=3&mds

峰氏の計算→罹患率0.1%、感度70%、特異度99%で陽性的中率6.5%。

罹患率0.1%、感度70%、特異度99.997%で計算すると陽性的中率95.89%です。
間違って陽性だと判断される人が10万人なんてことは有り得ません。
「コロナ通信」が消滅してハシゴを外された形になっていますが、あくまで仮定の計算ですと言い逃れするのでしょうか?

医療法人社団悠翔会 佐々木淳氏

【1】なぜ一般市民はPCR検査をしちゃいけないの?
もし、みなさんがPCR検査を受けて「陽性」の判定を受けた場合、実際に新型コロナに感染している確率はどのくらいになるかご存じですか?

①99%
②70%
③6.5%

答えは③。

PCR検査が陽性になったとしても、実際に新型コロナに感染している確率はわずか6.5%、つまり15人中14人は、検査結果が陽性であっても、新型コロナではない、ということになります。

ここでは計算しやすくするために1000人に1人が感染状態であると仮定します。

新型コロナのPCR検査の場合、感度は50~70%(ここでは70%で計算)、特異度は99%程度であると想定します。

10万人の市民全員にPCR検査を実施しました。
PCR検査の感度は70%ですから、100人の感染者のうち70人は陽性に出ます。一方、30人は陽性にはなりません。この人たちは感染しているのに検査結果は陰性なのです。
しかし、9万9900人の感染していない人も全員が検査を受けています。PCR検査の特異度は99%ですから、このうち1%(つまり999人)は病気でないにも関わらず陽性と診断されてしまうということになります。

10万人の検査を実施して、結果が陽性になるのは、実際に感染している100人のうちの70人と、感染していない9万9900人のうちの999人。合わせて1069人です。しかし、この中で実際に感染していたのは70人だけですよね。
検査結果が陽性になった人のうち、わずか6.5%しか本当の感染者がいない、ということになります。

https://www.yushoukai.org/blog/pcr

罹患率0.1%、感度70%、特異度99.997%で計算すると陽性的中率95.89%です。
例のごとく、特異度99%という仮定には明確な根拠はありません。
このようなページを参考にして、同じような話を多くの医師が拡散するのでしょう。
あまりにも悪質です。

特異度99.9%

感染症専門医 忽那賢志氏

今日から新型コロナPCR検査が保険適用に PCRの限界を知っておこう

PCR検査の感度70%・特異度99.9%として1000万人(うち真の感染者4400人)を検査した場合

この表の見方ですが、新型コロナウイルス感染症の患者さんが4400人いると仮定して、PCR検査で陽性と出るのが3080人です。残り1320人は「本当は新型コロナウイルス感染症なのに検査で陰性」と判断されます。
新型コロナウイルス感染症ではない人は999万5600人ですが、このうち998万5604人は陰性と判定されますが、9996人は「本当は新型コロナウイルス感染症ではないのに検査で陽性」と判定されます。
つまり、1320人の真の患者が見逃され、その10倍の1万人の偽陽性が生じるわけです。

https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20200306-00166273/

有病率0.044%、感度70%、特異度99.997%で計算すると陽性的中率91.13%です。

PCR検査陽性PCR検査陰性
新型コロナウイルス感染症患者3080
検査で陽性となった感染者
1320
検査で陰性となった感染者
4400
本当の感染者
非感染者300
検査で陽性となった非感染者
9995300
検査で陰性となった非感染者
9999560
本当の非感染者
3380
PCR検査で陽性だった人
9996620
PCR検査で陰性だった人
10000000
検査を受けた人

陽性的中率は90%を超えてます。
偽陽性者が真の陽性者の10倍になるということはありません。
特異度99.9%とする根拠は明示されていません。

神奈川県医師会

現在ページは消滅しましたが「コロナ通信」というページがあり、そこでPCR検査についての記載がありました。
上記の忽那医師のものを流用しています。
「100%に限りなく近い値として、特異度99.9%として計算してみます。」とあります。
特異度99.99%や99.999%ではなく、特異度99.9%とする根拠は明示されていません。
神奈川県医師会として、このようないい加減なことを配信していたことをしっかりと記録に残しておきます。

新型コロナウイルス感染症対策分科会会長 尾身茂氏

2020年7月6日の西村大臣の会見に尾身氏も同席し、PCR検査について語っています。

尾身氏は、未だにPCR検査の特異度を99%と仮定しています。
驚くべきことに実際はこれよりも特異度は低いと考えていると語っています。
もちろん根拠は無さそうです。

同じスライドに下水のPCR検査の話があります。
下水中からもコロナウイルスのRNAが検出でき、地域の感染状況を知ることができるという話ですが、当然のことながらPCR検査が非常に高精度であるという前提があります。
尾身氏はPCR検査の精度が高くないと考えながら、下水でのPCR検査が参考になるという話をスライドで示しています。
矛盾を感じないのが不思議で仕方が無いです。

罹患率1%、感度70%、特異度99.997%で計算すると陽性的中率99.58%です。

感染あり感染なし合計
PCR検査陽性700.29770
PCR検査陰性3099009930
合計100990010000

偽陽性は0.297人となり、罹患率1%の場合は、全く検査に問題はありません。
知識をアップデートできないのならば、さっさと身を引いて欲しいです。

東邦大学医学部・東邦大学医療センター大森病院
教授 中田 雅彦氏

最近報道された東京や大阪、宮城での新型コロナウイルスの抗体保有率の結果では、東京は、わずか0.1%の人しか抗体を持っていませんでした。つまり、1000人に1人しか感染していなかった可能性があったということです。

ここでは、あくまでも抗体を持っている人の割合が、感染してた人の割合と同じとして計算します。

その場合、上の図のように、
陽性的中率は41%です。

http://tiny-life.org/pcrpregnancy/

有病率0.1%、感度70%、特異度99.997%で計算すると陽性的中率95.89%です。

東京都では、一年間に約10万人の妊婦さんがお産をしています(最近少し減ってきましたが)
もし、10万人全員にPCR検査をしたらどうなるでしょうか。
計算上は、170人の妊婦さんが検査陽性です。
そして、そのうちの6割、つまり、100人は本当は感染していないことになります。

http://tiny-life.org/pcrpregnancy/

10万人あたり100人が感染(有病率0.1%)、感度70%、特異度99.997%の場合
73人が検査陽性です。
そのうち70人が感染者で3人が非感染者です。

妊婦さんの場合、偽陽性が大きな問題になるのであれば、1度の検査で陽性確定とせずに再度検査を行うようにすれば、問題は無いと思います。
院内感染を制御する上で妊婦や入院患者へのPCR検査が必要なのは自明です。

中核病院にPCR検査機 和歌山県が新型コロナ対策強化

和歌山県は、県内の複数の地域中核病院に、新型コロナウイルスのPCR検査結果が1時間半程度で判明する機器を導入する。別の病気やけがで搬送された救急患者らの感染有無を病院が把握することで、医療従事者が不慮に感染することを防止する。今月下旬から順次運用を開始する。

検査対象は、入院が必要な救急患者や手術前の患者、出産前の妊婦、感染の可能性がある医療従事者ら県が指定した人。病院の検査で陽性となった場合は、県などが重ねて検査するとしている。

https://www.agara.co.jp/article/61184

コロナウイルスPCR検査の特異度を100%とした場合

7月5日段階で岩手県ではPCR検査の件数は1009件で陽性者0人です。
ニュージーランドでは48,000~72,000件連続で陽性者0人です。
陽性者が0ですのでPCR検査の特異度は100%です。
ベイズの定理で特異度100%として計算すると事前確率がどんな値であっても(0を除く)陽性的中率(事後確率)は100%です。
特異度がほぼ100%と考えるのならば、わざわざベイズの定理で計算しなくても陽性的中率はほぼ100%と考えるのが妥当だと思います。

追記
罹患率の低い地域(感染者がほとんどいない地域)では人為的ミスでの偽陽性はほぼ起こりません。
陰性検体どうしを取り違えても偽陽性にはなりません。
陰性検体で陰性検体を汚染しても偽陽性にはなりません。
PCR検査の原理上、罹患率の低い地域ではさらに特異度が高くなります。

まとめると

ベイズの定理を悪用する医師達をまとめました。
彼らはコロナウイルスPCR検査の特異度がほぼ100%であることを認めながら、明確な理由もなく特異度99%や99.9%で計算を行っています。
彼らは根拠の無い特異度99%や99.9%での計算結果を元に無症状者へのPCR検査は無意味であると主張します。
科学者にあるまじき非常に悪質な行為です。

追記
全国民にPCR検査を実施すべきとは考えてはいません。
岩手県のように感染者がほとんどいない地域で大規模検査を行っても意味は無いでしょう。
間違った根拠でPCR検査抑制論を唱える人達を見過ごすわけにはいかないので記事にしました。

この記事が気に入ったらフォローして下さい