コロナウイルス感染症

尾身茂氏の発言をファクトチェック

BuzzFeed及びニュースで報道された尾身茂氏の発言の真偽をチェックしてみます。

毎週検査よりも自己隔離が実効再生産数を減少させる

チェック対象

デメリットを説明する上で尾身会長は世界5大医学雑誌の1つ、「ランセット」に掲載された論文の結果に言及した。

イギリスの医学者らが執筆した論文では、発症時に自ら自宅待機するだけで「実効再生産数」(1人の感染者が平均して感染させる人の数)を約30%低下させることができる一方、人口の5%に毎週検査を行い、陽性者を隔離したとしても、「実効再生産数」は2%しか低下しないと報告されている。

https://www.buzzfeed.com/jp/yutochiba/senmonka-bunkakai-2-2?origin=shp

結論

[ミスリード]
尾身氏は「(ランダムに)人口の5%に毎週検査 」というほとんど誰も提案していないような検査方法を持ち出し、藁人形論法となっています。

尾身氏が参考とした論文を見てみます。
https://www.thelancet.com/journals/laninf/article/PIIS1473-3099(20)30457-6/fulltext

この論文に書かれていることはシミュレーションモデルを用いた推定です。
この数値が正しいかどうかの検証は必要です。

尾身氏がこの論文を根拠に「自宅隔離」と「検査」の有効性を比較しているのであれば間違いです。
「自宅隔離」を行う人は発症している人ですので当然罹患率が高いです。(罹患率100%と解釈してよいかは論文からは読み取れませんでした)
一方、「検査」を行う人はランダムに決めますので罹患率は低いです。
罹患率が異なる集団に対して行う「操作」の有効性を比較するのは不適切です。
またこのシミュレーションモデルでは人口の5%に毎週検査を行う場合、検査を受けた人以外で発症者が出てもその人達は自宅隔離等を行わないということになっています。
検査だけで実行再生産数がどの程度変化するかを見ていますので、このような前提条件となっています。
この点にも注意が必要です。

この論文での「(ランダムに)人口の5%に毎週検査」というのはどのような場合に行う検査を想定したものなのかは不明です。
事前確率の低い無症状者への検査を議論する場合に「(ランダムに)人口の5%に毎週検査」を想定する人はほとんどいないと思います。

[結論]
尾身氏は「(ランダムに)人口の5%に毎週検査」というほとんど誰も提案していないような検査方法を持ち出し、藁人形論法となっているためミスリードとしました。

偽陽性は事前確率が低いほど増える

チェック対象

偽陽性は検査前確率(事前確率)が低くなればなるほど、増えてくる。それが、この検査の特徴です

https://www.buzzfeed.com/jp/yutochiba/senmonka-bunkakai-2-2?origin=shp

結論

[誤り]
偽陽性は事前確率が低いほど起こりにくい。

尾身氏の特異度の定義を見ると「特異度とは感染していない人を正しく陰性と判定する率を意味する」とあります。
尾身氏の定義に基づき、PCR検査で偽陽性が出る場合を考えます。
偽陽性の原因としては検体の取り違え、検体の汚染、回復過程でのウイルス断片の検出等があります。
これらはいずれも感染者が多い(事前確率が高い)地域での検査で起こります。
感染者がほとんどいない地域では検体を取り違えても、検体を汚染しても陽性検体そのものがほとんどありませんので偽陽性が起こる可能性は低いです。
また回復過程にある感染者も少ないため、ウイルス断片の検出による偽陽性も少なくなります。

ニュージーランドでは40,000件以上連続で陽性者0(偽陽性0)、Jリーグでは6,000件以上連続で陽性者0(偽陽性0)等、偽陽性は事前確率が低いほど起こりにくいということを裏付けるデータが多数得られています。

[結論]
偽陽性は事前確率が低いほど起こりにくく、尾身氏の発言は誤りと判定しました。

検査を繰り返し行っても問題は解決しない

チェック対象

偽陽性や偽陰性の問題について、「もう一度検査を行えば問題ない」といった声があるのも事実だ。これについて尾身会長は、以下のように説明した。

「偽陽性者がいたら、もう1回検査すればいいじゃないかと。それは一つの理屈ですよね。もう一回検査をしろ、そうすれば解決すると」

「しかし、本人は自分が偽陽性かどうかわからない。誰が陽性者で誰が偽陽性者か、それは神様しか知らない。そうすると、全ての陽性者に対してもう一度検査をする必要があります」

https://www.buzzfeed.com/jp/yutochiba/senmonka-bunkakai-2-2?origin=shp

結論

[判定不能]
尾身氏の発言の真意が不明。

「本人は自分が偽陽性かどうかわからない。誰が陽性者で誰が偽陽性者か、それは神様しか知らない」とありますが、再検査をすれば良いのではないかという意見に対する反論にはなっていません。
突然神様が登場するのも理解不能です。

「そうすると、全ての陽性者に対してもう一度検査をする必要があります」とあり、話がループして終了しています。

[結論]
尾身氏の発言の真意が不明なので判定不能としました。

[捕捉]
尾身氏が考える特異度99.9%を採用し、偽陽性が連続する確率を計算すると0.0001%となります。
従って偽陽性が疑われる場合、再検査を行うと偽陽性はほとんど起こらないと考えられます。(実際の特異度はもう少し高いと考えられます)

PCR検査の感度は70%未満

チェック対象

「検査自身の能力だけでなく、検体が取れないといった技術的問題で、陽性者のうち30%が見逃される。ウイルスがあまり排出されていない時期に検体を採取すると、(見逃しは)もっと大きくなります」

https://www.buzzfeed.com/jp/yutochiba/senmonka-bunkakai-2-2?origin=shp

結論

[誤り]
PCR検査の感度が70%未満ではクラスター対策は不可能。

PCR検査の感度が70%未満であればクラスター対策は不可能です。
詳しくは下の記事を参照して下さい。

コロナウイルスPCR検査の感度が70%でクラスター対策は可能なのか? コロナウイルスPCR検査の感度70%というのはPCR検査の感度、特異度はほぼ100%、検体採取成功率70%と同じ意味です。詳しくは下の...

「尾身氏が30%は見逃される」としている根拠が不明です。
また尾身氏はPCR検査の感度に関して正しく理解していない可能性があります。
PCR検査抑制論を唱える人達の多くは「PCR検査の感度は70%」であると主張しています。
この場合の感度は検体採取(手技、タイミング)、検体輸送、PCR検査の全ての工程を含んでのものです。
ところが尾身氏は感度70%からさらに検体採取のタイミングで感度が低下するとしています。

コロナウイルスPCR検査の陽性、陰性の定義の問題点 PCR検査の偽陰性について記事にしました。 https://tatsuharug.com/pcr-false-negative ...

[結論]
尾身氏が感度70%未満としている根拠が不明です。
PCR検査の感度が70%未満であればクラスター対策は不可能ですので誤りとしました。

偽陰性者が感染を広げる

チェック対象

「偽陰性になると、本人は良かったと思って出歩く可能性がある。そうすると、感染を広げるリスクとなります」

https://www.buzzfeed.com/jp/yutochiba/senmonka-bunkakai-2-2?origin=shp

結論

[根拠不明]
感染を広げる根拠とされているのは尾身氏の推測。

偽陰性と判定された人の置かれた状況により、その人のふるまいは異なると考えられます。
コロナウイルス感染症に関して偽陰性と判定された人の方が検査を受けていない人よりも活動的になり、感染を広げるというエビデンスはありません。
またこの主張とPCR検査の感度が70%未満という主張が事実であれば、クラスターを収束させるのは絶対に不可能です。

[結論]
偽陰性になると出歩く可能性があるというのは尾身氏の推測であり、根拠に乏しいと判断しました。

感染流行地域での全員検査は現実的ではない

チェック対象

感染流行地域でのみ、全員に検査を行うべきという意見もあるが、尾身会長はそれも「現実的ではない」という。

東京都内では、新宿区の繁華街などで感染が拡大している。仮に新宿区民35万人全員に対して検査を行う場合、5日で行うならば1日7万件、東京都民1400万人を対象とすれば、1日280万件の検査が必要だ。

必要な検査員の数やコストだけでなく、偽陽性を含む陽性者への対応にかかる保健所や医療機関のコストを考慮した場合、必要な人材・物資・資金は膨大なものとなる。

結論

[誤り]
大規模検査の実施例はあります。

現時点で東京都民全員の検査の有用性は低いと考えられます。
ここでは新宿区民35万人の検査について考えます。

武漢では1日当たり50万人の大規模検査を行いました。
武漢の場合は感染流行期の大規模検査ではありませんが参考にはなります。
新宿区で行った場合、武漢の場合よりも多くの陽性者が発見されることが想定されます。
陽性者の扱いは武漢のようなコンテナ病院を建設するのか、自宅隔離とするのか等検討課題はあります。

武漢で約137億円かけて989万人にPCR検査を実施、その結果は?

では、武漢市はどのようにそれを成し遂げたのだろうか?記者会見で、武漢市衛生健康委員会の王衛華副主任は、「武漢モデル」について説明した。

まず、内部のポテンシャルが発掘された。人員を動員し、市全域の検査機関が当初の23機関から、63機関に増えたため、1日当たりの検査能力が大幅に向上した。

次に、中国全土の資源を調達した。第三者検査機関の検査スタッフは419人から1451人に増え、設備は215台・セットから701台・セットへと増加。スタッフが交代で勤務し、設備をフル稼働させることで、24時間態勢で検査が実施された。

3つ目に新たな手法も採用された。省、市の専門家の論証を経て、複数の検体を一度に検査する「集合検査法」(Pooling)を採用することで意見が一致。1度に5人以下の検体に抑えて、同手法を実施した。そうすることで、短期間で検査效率を向上させた。

上記の3点を採用し、武漢市の検査能力は1日当たりの30万人から100万人まで一気に向上した。

http://j.people.com.cn/n3/2020/0603/c94475-9697190.html

このような実施例がありますので参考にすべきです。
武漢では989万人の検査に137億円かかりました。

総予算1.7兆円…「Go Toキャンペーン」とは?

第一次補正予算にて事業総額1兆6,794億円が計上されており、旅行商品を最大半額相当補助する「Go To Travelキャンペーン(予算約1.1兆円)」や、飲食代を2割相当補助する「Go To Eatキャンペーン」、イベントなどのエンターテインメントを2割相当補助する「Go To Eventキャンペーン」などが実施される予定です

https://www.travelzoo.com/jp/blog/go_to_campaign/

Go Toキャンペーンに1.1兆円の予算が割かれています。
武漢と東京の物価の違いを考慮してもコスト面で検査はできませんは通用しないと思います。

ニューヨーク州では日常的に大規模検査が行われています。

ニューヨーク州には至る所に検査場があり、居住者であれば、誰でも無料で、回数制限なく検査を受けることができます。ニューヨーク州での検査は一日あたり7万件が可能ですが、8月末までにさらに増える予定です。

https://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000188995.html

[結論]
陽性者の扱いは検討課題であるが、大規模検査の実施例があるため誤りとしました。

感染拡大を防ぐために旅行を控える必要はない

チェック対象

GoToトラベルキャンペーンの実施に懸念の声があがる中、政府の新型コロナウイルス対策の分科会の尾身茂会長が「旅行自体に問題はない」との見解を述べました。

https://toyokeizai.net/articles/-/363373

結論

[誤り]
政府が感染拡大のリスクを認め東京都民は旅行を控えるべきであると判断しました。

新型コロナウイルスの感染拡大で直撃を受けた観光業界を支援する「Go To トラベル」事業。全国一律の開始が一転、東京を対象から外すことが決まった。

https://www.asahi.com/articles/ASN7K74ZVN7KULFA02X.html

政府にハシゴを外された形になりました。
最後にtwitterの声を紹介します。

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