以前、公衆衛生の視点と臨床医の視点について記事にしました。
新型コロナワクチン接種に関する臨床医の視点と公衆衛生(防疫)の視点について考えます。
Contents
臨床医の視点で検査実施について考えることの問題点
新型コロナは無症状感染者が存在し、無症状感染者からも感染します。
従って臨床医の判断で新型コロナを除外するのは困難です。
中部病院では臨床医の判断で新型コロナを除外できると考え、入院患者に検査を義務づけていなかったため、クラスターが発生し、17人が犠牲になりました。
県立中部病院で大規模クラスター発生の経緯とは 発端の患者、PCR検査せず入院
沖縄県立中部病院は1日の会見で、新型コロナウイルスのクラスター(感染者集団)が発生した経緯を説明した。発端となった患者は細菌感染症との診断で入院前にPCR検査を受けておらず、マスクをせずにリハビリ目的で病室外を歩き回っていたという。
患者は、5月12日に一般病棟へ入院した。その後、この病棟をコロナ対応病棟に転換することになり、患者たちを他の病棟に分散させていた24日に患者のコロナ感染が判明した。結果として他の病棟に感染が広がった。病院は改善点としてコロナ患者かどうかを問わずたんを吸引する際は窓を大きく開けて換気し、職員が高機能のN95マスクを装着すると決めた。入院患者については、全員PCR検査を受けてもらうようにしたという。患者のマスク着用は「注意喚起が不十分だったところがある」と認めた。
クラスターは5月24日から6月17日にかけて発生。死者17人は県内で最多だった。7月1日、新たに職員1人が関連の感染だったと判明し、感染者は患者と職員で計51人になった。
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/779698
沖縄タイムス 2021年7月2日
臨床医の視点で新型コロナの無症状者検査に反対するロジックは次のようなものです。
- 臨床診断の場では事前確率を重視し、検査を行うかどうかを決める
- 臨床医が不要と考える検査を行わない理由は事前確率の低い検査では偽陽性が大量に発生するから(ベイズの定理)
ところが新型コロナPCR検査の特異度は非常に高いため、事前確率が低い場合に偽陽性が大量に発生することはありません。
中部病院の事例でわかるように無症状感染者が存在する新型コロナを臨床医の判断で除外できると考えるのは間違いです。
臨床医の視点で無症状者検査に反対するロジックは破綻しており、新型コロナの検査実施に関しては臨床医の視点で考えるべきではありません。
偽陽性事例が発生した場合でも患者本人に健康被害が発生することは考えにくく、偽陽性による患者本人の社会的、経済的損失が大きい場合は再検査を行うことで損失の軽減は可能です。
(患者本人の不利益を軽減するためには臨床医の関与は必要です)
ワクチン接種に関する臨床医の視点と公衆衛生(防疫)の視点
新型コロナワクチン接種を受けるかどうかを迷っている方は多数おられるかと思います。
かかりつけ医に予約を入れ、当日の接種直前まで迷う方がいるかもしれません。
かかりつけ医に「接種するかどうかを迷っている」旨を伝えた場合に、かかりつけ医に次のように言われた場合、患者さんはどのように考えるでしょうか?
流石の木下氏でも臨床の場で「つべこべ言わずに打て」とは言わないと思います。
「つべこべ言わずに打て」というのは臨床医の視点ではなく、公衆衛生(防疫)の視点です。
公衆衛生(防疫)の視点では国家としてワクチン接種は必要な事業であり個人の多少の不利益は置いといて「つべこべ言わずに打て」という主張は成り立つようにも思えます。
ところが木下氏は検査に関しては臨床医の視点で「事前確率の低い場合は検査をすべきでは無い」と主張します。
木下氏は検査に関しては臨床医の視点、ワクチン接種に関しては公衆衛生(防疫)の視点というようにポジションを使い分けています。
公衆衛生(防疫)の視点のみでワクチン接種を推進することの問題点
新型コロナワクチン接種に関しては次のような点に注意が必要です。
- 新型コロナは年齢により、重症化率が異なる
- 都会と地方では医療の逼迫具合が異なる
- 生活環境により、感染リスクが異なる
- 新型コロナワクチンは従来のワクチンとは異なり、未知の部分が多く、副反応割合も高い(インフルエンザワクチンと比べると)
- 新型コロナワクチン接種による副反応の因果関係を立証するのは困難
このような点を考慮すると公衆衛生(防疫)の視点から「社会全体のことを考えてワクチン接種しましょう」と言われてもスッキリしない人が多いでしょう。
ワクチン接種によるメリット、デメリットは個人により大きく異なりますし、社会全体のことを考えてワクチンを接種しても副反応に対する補償が期待できないので個人の負担が大きすぎます。
デルタ株に対してはワクチン接種による感染予防効果は低い可能性が出てきました。
またワクチン接種による集団免疫の獲得は難しいと考えられるため、公衆衛生(防疫)の視点のみでワクチン接種を推進するのは無理があります。
ワクチン接種率「6~7割」でも集団免疫難しく 尾身氏
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA16DBZ0W1A710C2000000/
政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は16日夜のNHK番組で、多くの人が免疫を持って感染しにくくなる「集団免疫」の獲得について、国民全体の6~7割がワクチン接種を完了しても難しいとの認識を示した。
2021年7月16日
臨床医の視点から考えるワクチン接種
みなさま、はじめまして。「こびナビ」の吉村健佑です。
私たち「こびナビ」は、新型コロナウイルス感染症に対するワクチンの正確な知識をお伝えすることを目的として集まったプロジェクト・チームです。
略
新しいワクチンを接種するのは勇気のいることです。安全性に不安を感じる方がおられるのはとてもよくわかります。一方で、医療や行政の現場の厳しい状況を目の当たりにすると、個人を、そして社会をこの病気から守る必要があることを痛感します。ワクチンは感染から身を守る強力な盾になり得ます。では、私たちはどうやってワクチンを打つかどうかを決めればよいのでしょうか。
私は、一人ひとりがワクチンに関する正確な情報を理解し、自分で判断できるようにすることが大切だと思います。十分な情報がない中で、いつの間にか自分の順番が回って来て、ワクチンを打つかどうか決めざるを得ない状況は避けなければいけないと思うのです。
そこで、私は同じ危機感を持つ仲間とともに、このワクチンに関する正確な情報の収集と発信をするプロジェクト「こびナビ」の準備を始めました。メンバーは全員無報酬で、全力でこの作業にあたっています。ある仲間は日本で新型コロナ患者の診療をしながら、またある仲間は海外で医学研究をしながら、必死につくり上げたのがこの「こびナビ」です。
私たちは新型コロナウイルス感染症やそのワクチンのことを正確に学べる世の中を作っていきたいと思っています。多くの方々がこのワクチンの正確な情報を得て、自分の意思で接種を決断し、新型コロナの困難を乗り越えられるまで、あきらめず、たゆまず活動していきます。「多くの人が健康でいられる世の中」を目指して。
https://covnavi.jp/about/
「一人ひとりがワクチンに関する正確な情報を理解し、自分で判断できるようにすることが大切」とあるように個人の属性は大きく異なりますのでワクチン接種を行うかどうかは自らで判断することが重要であると考えます。
これは患者本人の意思を尊重する考え方(臨床医学の考え方)であり「こびナビ」の理念そのものは正しいと考えます。
(「こびナビ」が理念通りの活動を行っているのかは知りませんし、「つべこべ言わずに打て」と主張する「こびナビ」運営メンバーの木下氏の考え方とは矛盾しますが)
検査に関しては公衆衛生(防疫)の視点でワクチン接種に関しては臨床医の視点で
検査に関しては公衆衛生(防疫)の視点でワクチン接種に関しては臨床医の視点で考えるのが適切であると考えます。(新型コロナについては)
検査に関しては「つべこべ言わずに検査」した所で患者にとって大きな不利益が生じ、取り返しがつかない(補償ができない)事態を招く可能性は低いと考えます。
ワクチン接種に関しては「つべこべ言わずに打った」所で思いもよらぬ副反応が生じ、取り返しがつかないことが起こる可能性があり、補償されるかどうかも定かではありません。
ところが木下氏のように検査に関しては臨床医の視点、ワクチン接種に関しては公衆衛生(防疫)の視点で論じる方が多数います。
検査に関しては臨床医の視点、ワクチン接種に関しては公衆衛生(防疫)の視点で論じる人
前半の尾身氏の「無症状者にPCR検査しても感染は抑えられない」は公衆衛生(防疫)の話です。
後半の「大事なのは医師が、症状や既住から感染を疑う時に必要な検査が受けられる事です」は臨床診断の話です。
上で述べたように新型コロナPCR検査は特異度が非常に高い検査ですので、臨床診断の考え方を公衆衛生(防疫)に適用するのは間違いです。
また「無症状者にPCR検査しても感染は抑えられない」のであれば東京五輪の検査や空港検疫は何故行うのでしょうか?
ワクチンを接種した人には個人の利益以外に何らかの権利が発生する(発生させよう)と考えるのは公衆衛生(防疫)の考え方です。
デルタ株に対する感染予防効果に疑いが出てきましたのでワクチン接種者に対して何らかの権利を与えることは留保しておいた方が良いと考えます。
「医師に意見するには医師免許を見せよ」と言いかねないような人です。
臨床医でありながら患者さんと対話するつもりが無さそうです。
新型コロナワクチン接種に関しては患者さんとの対話が重要であると考えますが「こびナビ」の中にも患者さんと対話ができなさそうな人がいます。
対話ができない臨床医?
「ワクチンのメリットしか言わないから信用できない」「ワクチン接種のデメリットを知りたい」と考えるのは次のような人達ではないかと思います。
- ワクチン接種に反対で他の人への説得材料としてデメリットを探している人
- ワクチン接種を受けたくなくて、自らの選択を正当化するための理由を考えている人
- セールストークに警戒心を持つ人
- 自らの意思決定の過程を重視する人
①②の人には説明を尽くしても意味が無い可能性があります。
③は「Amazonのレビューで☆5だけが付いている商品は避ける」という考え方で自らの専門外の分野に関してはセールストークに乗らないという考えを持っている人です。
こういう人はデメリットを聞くと逆に安心し、ワクチン接種を受ける可能性があります。
④は全ての情報を知った上で意思決定を行いたいと考える人で、とにかく情報を集めようとしているのかもしれません。
これら以外にも様々な考え方をする人がいるでしょう。
ワクチン接種には必ずしも反対ではないがワクチン接種のデメリットを知りたいと考えるのはおかしなことではありませんし、矛盾はしていません。
臨床医であれば患者さんと対話を重ねることで患者さんや家族が「何を気にしているのか」「何を知りたいのか」「何故知りたいのか」を考える習慣が身に付くはずです。
木下氏は「こびナビ」の広報係を務めているつもりかもしれませんが「こびナビ」の理念(一人ひとりがワクチンに関する正確な情報を理解し、自分で判断できるようにすることが大切)に反していますし、ワクチン接種の足を引っ張っているようにしか見えません。
新型コロナワクチン接種は個人の意思を尊重すべき
新型コロナワクチン接種に関しては副反応に対する補償が期待できず、デルタ株に対してはワクチン接種による感染予防効果は低い可能性が出てきました。
このような状況で公衆衛生(防疫)の視点のみでワクチン接種を推進するのは無理があります。
新型コロナワクチン接種は個人の意思を尊重すべきであると考えます。
ちなみに私の両親は新型コロナワクチンを2回接種済です。
(田舎で感染リスクが低く、医療逼迫もしていませんが持病がある高齢者の重症化リスクを考えるとワクチン接種のメリットは大きいと考えられます)