名古屋市立大学公衆衛生学の鈴木貞夫氏のPCR検査論がBuzzfeedに掲載されていますので検証します。
「保健所がやってほしいと思う検査をやってください」
この取り組みに対し、疫学調査に詳しい名古屋市立大学公衆衛生学の鈴木貞夫教授は「保健所がやってほしいと思う検査をやってください、というのが私の希望です」と語る。
https://www.buzzfeed.com/jp/yutochiba/softbank-pcr
「現在の『研究目的』という唾液PCR検査の説明は、医療行為ではないということを別の言葉に言い換えただけ。様々な条件をクリアした上で、関係各所と連携し、必要な人に必要な検査を提供してほしいというのが私の考えです」
ソフトバンクグループが行うPCR検査についての論評です。
ソフトバンクグループのPCR検査が「研究目的」となっているのは臨床診断用認可を受けていない検査キットを用いるためであると考えられます。
国内で認可を受けている検査キットを用いず、独自のルートで検査キットを調達することで行政検査用の検査キットの供給に影響を与えないようにする狙いがあると考えられます。
鈴木氏は「保健所がやってほしいと思う検査」をやるべきという考えのようです。
行政検査の対象外となり、検査を受ける事ができずに困っている人達が多数いることを認識できていないようです。
必要な検査とはどのような検査か、それを見極める上で鈴木教授が改めて強調するのは検査を受ける段階で予想される陽性率である検査前確率(事前確率)の重要性だ。
https://www.buzzfeed.com/jp/yutochiba/softbank-pcr
クラスターなどが発生した場所にいた人や、感染者の濃厚接触者等が基本的には事前確率が高いと判断される。
現在では、感染が拡大する地域の繁華街において、キャバクラやホストクラブなど接待を伴う飲食店で働く人々などもこうしたカテゴリーに分類される。
新型コロナウイルス感染症の専門家分科会も7月6日、16日とPCR検査の対象を3つのカテゴリーに分け、行政検査は原則として有症状者と無症状かつ事前確率の高い人に対して行う方針を明示した。
ソフトバンクの唾液PCR検査は無症状者に提供されることを前提としている。だが、この点については「事前確率が低い人にやるのであれば、そもそもの考え方が間違っているので、賛成できない」と言う。
ソフトバンクのPCR検査の対象は行政検査の対象外となる人達です。
当然事前確率の低い人達(分科会の定義で)が対象となります。
民間企業のソフトバンクが需要のある所を狙い、サービスを展開するのは当然のことです。
そのこと自体を批判するのは筋違いです。
地域にラーメン屋が少ないのでラーメン屋を開業しようとしている人に無関係な人が「ラーメン屋ではなく、うどん屋をしろ」と言っているようなものです。
離島をコロナから守れ!「おがさわら丸」乗客にPCR検査、到着前に判定
https://www.tokyo-np.co.jp/article/48309
医療体制が脆ぜい弱じゃくな東京都・小笠原諸島(小笠原村)を新型コロナウイルスから守るため、島に渡る唯一の交通手段の定期船「おがさわら丸」で11日、乗客へのPCR検査が試行的に始まった。乗船前に唾液を採取し、船が島に到着する前に感染の有無を調べる。陽性反応があった人は船内で隔離し、島へのウイルス持ち込みを防ぐ。
検査は都や村、ソフトバンクグループが運営する検査センターなどが協力して実施する。
感染対策にも寄与しますので批判されることでは無いと考えます。
「基本的に今、足りていないのは検査前確率が高い人への検査です」
https://www.buzzfeed.com/jp/yutochiba/softbank-pcr
「例えば、名古屋市では現在、かなり検査体制が逼迫しています。たとえクラスターの中にいたとしても、症状が確認できなければ検査ができないような状況であるのは事実です。名古屋市保健所の職員と先日話をしたところ、彼らも検査体制の拡充を望んでいる。ソフトバンクのこうした取り組みは、様々な条件をしっかりとクリアしてもらった上で、必要としている人々に提供していただく分には社会的な意義があると思います」
鈴木氏は行政検査のキャパシティが不足している認識があるのならば、システムの見直しを含め検査体制の拡充を主張すべきです。
(主張する相手は分科会や政府になるでしょう)
ソフトバンクの検査は検査対象が異なりますので全く関係ありません。
「財力や影響力を駆使してやっていただきたいのは、無症状の方へ検査を行い、その収益を医療現場へ寄付するということではなく、自治体や保健所と話し合い、調整をしながら、現場で望まれている検査を拡充するための努力です」
https://www.buzzfeed.com/jp/yutochiba/softbank-pcr
行政検査へのソフトバンクの参加、協力を提案しているのでしょうか?(許されるとは到底思えません)
鈴木氏が仲介するのであれば話は別ですが。
ソフトバンクグループの孫正義会長は8月5日、自身のTwitterに「我社設立の唾液PCR検査で陽性反応者を発見。 ある保健所に確定検査依頼したら『発熱等の症状が出るまで病院によるPCR検査は不要』と断り。 感染拡大防止には積極検査と隔離が良策と思いますが…?」と投稿した。
https://www.buzzfeed.com/jp/yutochiba/softbank-pcr
この発信から見えるのは、ソフトバンクグループが保健所等と「陽性疑い」の結果が出た場合の対応について調整できていない実態だ。
鈴木さんは、「陽性の疑いがある人が出たらどうするのか、そのルートを予め作っておくことが重要です」と語る。
孫氏の投稿からはソフトバンクの検査で陽性確定として良いので検査は不要ということなのか、ソフトバンクの陽性結果を根拠として検査を行うことを保健所が拒否しているのかは不明です。
(陽性となった人の濃厚接触者の検査はどうなっているのか等疑問が残ります)
Buzzfeedや鈴木氏がどのように解釈をしているのかは不明です。
(保健所が検査を拒否していると解釈しているようにも読めます)
Buzzfeedや鈴木氏は事前確率の高い検査は必要という立場です。
ソフトバンクのPCR検査で陽性となった人の事前確率はほぼ100%です。(ソフトバンクのPCR検査キットの精度が大幅に劣るものでなければ)
従ってこの人は検査が必要な人に該当するはずです。
ソフトバンクは検査が必要な人を保健所の代わりに見つけたわけですので、批判するのは筋違いです。
「大前提として、検査は『野良化』してはダメなんです。陽性であろうと、陰性であろうと、しっかりと保健所が結果を把握して、連絡が取れるようにしたり、必要であれば行動の制限をお願いすることが可能な状態にあることが重要です。合わせて、陽性率等を正確に把握するためにも分母と分子を正確に捉えなくてはいけない。これは、最低限のラインです」
https://www.buzzfeed.com/jp/yutochiba/softbank-pcr
「野良検査には明確に反対します。必要なのは論争ではなく、円滑に回すためのシステムの構築です。善意に基づきやるならば、社会的な意義があることをやっていただきたい。そうでないのなら、保健所に負担をかけるだけです」
「野良検査」という下品な言葉を使っています。
行政検査を神格化したいのでしょうか?
ソフトバンクは陽性者を見つける手助けをしているとも言えますので批判すること自体筋違いです。
鈴木氏は保健所の負担になるので、ソフトバンクは陽性者を見つけるなと考えているのでしょうか?
ソフトバンクのPCR検査は行政検査の対象外となるような人達ですので陽性となるのは日本全国で1日に10人にも満たないでしょう。
この程度で保健所が負担になるのであれば、既にシステムは破綻しているも同然です。
ソフトバンク以外にも民間の病院では陰性証明書提出のためのPCR検査を行っています。
陰性の場合は保健所への報告義務はありません。
鈴木氏はこういう検査にも反対なのでしょうか?
聖路加国際病院
http://hospital.luke.ac.jp/topinformation/news/20200624.html
海外渡航先当局より、新型コロナウイルス感染症PCR検査結果証明書(陰性証明書)の提出が求められる方(高校生以上)に対し、証明書の発行を行います。
大事なのは、「誰でも、いつでも、何度でも」可能な検査ではない
注目を集めるキャッチフレーズに、鈴木教授は「検査数を10倍にすることで、誰でも、いつでも、何度でも検査することはできるのか?」と疑問を呈す。
https://www.buzzfeed.com/jp/yutochiba/softbank-pcr
世田谷区民は約90万人。住民全員が、まるでいつでも、何度でも検査が受けられる体制を目指すようなキャッチフレーズが一人歩きする危険性を危惧する。
「世田谷区民が誰でも、いつでも、何度でも検査可能になるというならば、どう考えても、1日あたり数万件以上の検査が必要です。それは本当にできるんですか?という話です。単なるキャッチフレーズです、と言うのであれば、それはあまりに不誠実でしょう」
キャッチフレーズを掲げることは悪いことではありません。
キャッチフレーズは住民に政治家の意図を伝えるためのものです。
今後の推移に注目し、目標が達成できない場合に批判すれば良いでしょう。
ところでBuzzfeedや鈴木氏は政府が4月に掲げていた目標を達成していないことはどのように考えるのでしょうか?
PCR検査、倍増へ 首相が方針 病床も約5万床確保
https://www.asahi.com/articles/ASN466FX8N46UTFK01Q.html
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、安倍晋三首相は6日夕の政府対策本部で、感染の有無を調べるPCR検査の体制を1日2万件へ倍増する方針を表明した。また、急増する感染者の対応に向けて、病床を現在の約2万8千床から約5万床まで確保を増やす考えを示した。
検査数2万件は7月22日にようやく達成しましたが、それ以降の目標設定は行われていません。
病床5万床の目標は未だに達成されていません。
https://www.stopcovid19.jp/
キャッチフレーズを掲げる事自体を批判するのは筋違いです。
批判は目標が達成できなかったことに対して行うべきです。
「本当に大事なことは、必要な人に必要な検査をすることであって、誰でも、いつでも、何度でも検査が受けられることではありません」
https://www.buzzfeed.com/jp/yutochiba/softbank-pcr
「とにかく検査を増やせ、ではなく、検査件数がたとえ大幅に増えなくとも、感染対策ができるシステムを作る必要があります。第1波の際は、それで成功したので、感染爆発が起こらずに済んだ。これまでの取り組みを踏まえず、ただ検査を増やせばいいという主張は肯定できません」
「国民の行動変容」と「クラスター対策」だけでは感染爆発を抑えられなかったため、緊急事態宣言が発令されたのですが忘れてしまったのでしょうか?
必要な人にも充分に検査をできていない現状はどのように考えるのでしょうか?
検査数 | 陽性者数 | 陽性率(%) | |
8月22日 | 228 | 36 | 15.8 |
8月21日 | 210 | 54 | 25.7 |
8月20日 | 170 | 46 | 27.1 |
8月19日 | 95 | 31 | 32.6 |
8月18日 | 75 | 35 | 46.7 |
名古屋市の検査状況です。
人口は229万人です。
陽性率の高さと検査数の少なさは異常です。
一体今まで何をやっていたのでしょうか?
http://www.city.nagoya.jp/kenkofukushi/page/0000126920.html
PCR検査の識別能力は100%ではなく、資源は有限
事前確率が低い人に対してPCR検査を行い、陰性であることを1つの「証明書」として社会経済活動を回していくと主張する人々も一部にはいるが、「陰性証明という考え方そのものがナンセンス」とした上で、あえて、この考え方に潜む落とし穴を指摘する。
PCR検査の感度(陽性を正しく陽性と判断する割合)が70%と低いので、特異度(陰性を正しく陰性と判断する割合)がどれだけ高くても、偽陰性(陰性でない人を陰性と判定すること)の人に「陰性証明」を渡してしまうことを鈴木教授は危惧する。
https://www.buzzfeed.com/jp/yutochiba/softbank-pcr
偽陰性である感染者が、「陰性証明」を得た場合、感染が広がる恐れもある。
日本独自の珍説「偽陰性者が感染を広げる」という主張です。
Buzzfeedは何度もこの珍説を披露しています。
この珍説が本当ならば大発見だと思いますので誰か(峰氏や岩田氏)に論文を書いてもらい、世界中の人々に無駄な検査をしないように呼び掛けてみてはいかがでしょうか?
「PCR検査の識別能力は100%ではありません。そのため、現段階では感染者と非感染者を完全に分けることは不可能です。検査を行う中には感染者が混ざっているかもしれず、その人を見逃すことで陰性証明が出されないとも限りません」
https://www.buzzfeed.com/jp/yutochiba/softbank-pcr
「そうしたリスクを回避するために、検査を2回やればいいじゃないか、と主張される方もいます。ですが、検査を2回やると言うことは、全体として検査することのできる人の数は2分の1になるということです」
検査回数を増やすのは感度を上げることにつながります。
ただし事前確率の低い人(分科会の定義で)に立て続けに2回検査しろという意味ではありません。(検査しても構いませんが)
臨床診断の場で偽陰性が疑われる場合や陽性結果が患者にとって負担の大きい場合は複数回検査すべきというのが複数回検査の考え方です。
コロナウイルスPCR検査に限らず、臨床検査は通常このような考え方で行います。
鈴木氏は臨床のことはよくわからないのでしょう。
「このように説明しても、『検査キャパシティを増やせばよい』と主張されるかもしれませんが、それは全く別の議論であり、そのような主張は筋が違います。検査は有限である、その前提に立って、議論を進める必要があります」
https://www.buzzfeed.com/jp/yutochiba/softbank-pcr
「検査は有限である」と検査拡充を牽制するほど検査を行っているわけではありません。
これだけの検査数で日本の資源は枯渇してしまうのでしょうか?
国名 | 人口当たりのPCR検査件数順位 | GDPランキング |
パキスタン | 147 | 41 |
ジンパブエ | 148 | 114 |
トリニダードトバゴ | 149 | 113 |
チュニジア | 150 | 96 |
日本 | 151 | 3 |
https://www.worldometers.info/coronavirus/
感染拡大を防止する上では、積極的な検査と隔離を行うしかないという意見も存在するが、それは新型コロナウイルスが蔓延し、感染爆発が起きている状況においてのみ有効と鈴木教授は言う。
https://www.buzzfeed.com/jp/yutochiba/softbank-pcr
「すでにウイルスが蔓延し、感染爆発が起きている状況では、むしろ積極検査と隔離しかできることはない。そのような状態にならないよう、努力をしているのが現在の日本です。感染が拡大しているポイントと、そうではないポイントに分け、感染拡大を防ぐためにクラスター対策を行っています」
感染爆発が起こると5月の大阪のようにPCR検査待ち10日というような状況になります。
感染爆発が起きてから、積極的な検査と隔離を行うのは不可能です。
未だに「国民の行動変容」と「クラスター対策」だけで何とかなると考えているのは頭がどうかしているのでしょう。
鈴木氏は終始いかにも御用学者というような説を展開しました。
こういう学者ばかりでうんざりします。