上久保氏の集団免疫説同様、メディアで取り上げられることが増えてきた高橋氏の「感染7段階モデル」について検証します。
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7段階モデル図
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/07/7-64.php
新型コロナは、全国民の関心事ながら「木を見て森を見ず」の状態で全体像が見えてこない。そこで、ファクト(事実)を基に、全体像が見通せ、かつ数値化できるモデルを作ろうと思った。それが「感染7段階モデル」だ。新型コロナの感染ステージをStage0からStage6までの7段階に分けて、それぞれに至る確率やそれに関わる要因を見える化したものだ。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/07/7-64_1.php
日本では暴露した人が多いが自然免疫で98%治癒
新型コロナの患者数を予測するために使えるデータが現状では非常に限られる。かかった人の重症化率や死亡率という最も基本的なデータすらない。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/07/7-64_3.php
CFRや人口呼吸器使用率である程度のことはわかるはずです。
新型コロナの全体像を把握するためには、全国の暴露者数を推計することが大切なので、①全国民1億2644万人、②年代別患者数の実数値、③抗体陽性率推計値(東京大学の推計と神戸市民病院の推計)を使って、パラメータである暴露率(新型コロナが体内に入る率)をいくつか設定し、動かしながら、実際の重症者や死亡者のデータに当てはまりのよいものを探るシミュレーションを行った。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/07/7-64_3.php
シミュレーションの結果の概略はこうだ。
まず、国民の少なくとも3割程度がすでに新型コロナの暴露を経験したとみられる。暴露率はいろいろやってみたが、30~45%が妥当だろう。そして、暴露した人の98%がステージ1かステージ2、すなわち無症状か風邪の症状で済む。すなわち自然免疫までで終了する。
高橋氏は国民の30~45%が曝露したというシミュレーション結果を元にして7段階モデルを説明します。
ステージ1とステージ2のそれぞれの割合は不明です。
自然免疫で治る人の比率が欧米より日本人(アジア人)のほうが高く、その結果「軽症以上の発症比率」が低くなるが、抗体陽性率も低くなる。自然免疫力(特に細胞性免疫)の強化にBCGの日本株とロシア株が関与した可能性は高いとみている。
https://toyokeizai.net/articles/-/363402?page=4
「(暴露した人の)軽症以上の発症比率」については、自然免疫力が標準分布と仮定し、シミュレーションの結果を当てはめると、自然免疫で処理できる率が日本人は98%で、対応できないのは2%ということになる。
自然免疫で処理できる率が98%とありますので「曝露≒感染」と考えてよさそうです。
補足
自然免疫と細胞性免疫(獲得免疫)は異なりますので高橋氏の「自然免疫力(特に細胞性免疫)」という表現は不適切です。
「国民の30~45%が曝露(感染)した」という仮定は適切なものなのか検討します。
コロナウイルスは伝染力が弱く、日本では感染が広がりにくい
新型コロナウイルスは、初期から中盤までは、暴露力(体内に入り込む力)は強いが、伝染力と毒性は弱く、かかっても多くの場合は無症状か風邪の症状程度で終わるおとなしいウイルスである。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/07/7-64_1.php
日本では、新型コロナにかかった人が次の人にうつしても、その大半が自然免疫で処理され、次の人への感染につながらない。すなわち新型コロナ感染のチェーンが切れやすい。よほど多くの人に暴露を行わないと、そこで感染が途切れる可能性が高い。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/07/7-64_4.php
高橋氏はコロナウイルスは「伝染力と毒性は弱い」と主張します。
また「大半が自然免疫が処理され、次の人への感染につながらない」とあります。
「コロナウイルスの伝染力は弱く、日本人は感染しても他の人に感染させにくい」という主張です。
このことが事実であれば、どのようにして短期間の間に国民の30~45%がコロナウイルスに曝露することができたのでしょうか?
日本国民の30~45%が曝露するということ
日本国民の30~45%が曝露するというのはどういう状況であるかを考えてみます。
https://covid19-projections.com/brazil
死亡者が10万人を超えているブラジルの感染状況を見てみます。
ブラジルは実行再生産数が1.5以上の期間が4月初めまで2ヶ月以上続き、それ以降1前後を推移しています。
ブラジル貧困地域を襲う新型コロナ、悪夢のシナリオが現実に
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-05-26/QAWVENT1UM0W01
ブラジルの新型コロナウイルス感染者数は世界で2番目の多さとなった。感染は集中治療室(ICU)どころか清潔な水さえ十分ではない貧困地域に広がっており、今回のパンデミック(世界的大流行)で最も憂慮すべき問題の一端を示している。
感染は当初、富裕層が住む地域や外国人旅行者との接触が多い主要都市に限られていたが、そこから内陸部に広がり、マラニョン州などにも拡大した。同州は人口の2割が極貧状態にある。
同州の保健当局者カルロス・ルラ氏はインタビューで「手を洗うせっけんや水がない地域もある」と語り、「人々にマスク着用について伝えたり、せきやくしゃみのエチケットを教えたりすることがどうやってできようか」と訴えた。
ジェトロ、ブラジルでの新型コロナ感染拡大の背景について
https://www.jetro.go.jp/biznews/2020/07/6c85c36352b28621.html
社会面の問題について、ブラジルの貧困格差や国民の特徴を例に挙げて説明した。都市部には多くの貧困層が暮らしているファベーラやコルチッソといった不法占拠のスラム化した土地があり、そこでは衛生管理が難しいため、感染拡大につながっているのだという。近田研究員はまた、医療体制が不十分で全国民が満足な医療サービスを十分に受けられないという状況も問題視した。ブラジルには公的医療機関である統一保健医療システム(以下、SUS)が存在するが、SUSで提供するのは限定的な医療サービスで、かつSUSでは人的リソースや医療器材などが不足している現状があるためだ。加えて、カーニバルなど人と人とが接触しやすい祭りやイベントなどを頻繁に開催する文化があり、「2月末に国内で初の新型コロナ感染者が発覚する以前からコロナの拡散が始まっていた可能性は否定できない」とも述べた。
ブラジルは日本と比べ感染が拡大しやすい状況にあります。
このようなブラジルで感染率(推定)が14.3%です。
日本国民の30~45%が曝露するにはブラジルの2倍以上感染が広がる必要があります。
ブラジルと異なり国民の衛生意識が高く、多くの国民がマスクを着用し、スラム街が無く、自然免疫で処理され感染が広がりにくい(高橋氏の主張)条件下でブラジルの2倍以上感染が広がっていたことになります。
到底信じられる話ではありません。
補足
実効再生産数: “すでに感染が広がっている状況において、1人の感染者が次に平均で何人にうつすか”を示す指標です。感染拡大を防ぐ努力が行われていたり、すでに免疫を獲得している人がいたりする集団の中で、平均で何人にうつるかを導き出す指標なので、時間と共に数値も変化していきます。
https://www.saiseikai.or.jp/feature/covid19/data_q01/
次に高橋氏の「国民の30~45%が曝露した」という仮定を数字でみてみます。
韓国のIFRを推測
韓国の年齢別CFR
致命率(致命割合):CFR(Case Fatality Rate)
= 死亡者数 / 確定診断がついた感染者数 × 100(%)
年代 | CFR |
50代以下 | 1%未満 |
60代 | 2.38% |
70代 | 9.45% |
80代 | 24.69% |
全年齢 | 2.16% |
死者284人、感染者13,181人
https://news.yahoo.co.jp/articles/5909f95daa02aa8f4b9515f272cf162adb93dfb8 (7/6)
抗体検査の結果
韓国の新型コロナ抗体保有率0.03%、米NYより低いが「隠れ感染者少ない」とは断定できず
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2020/07/10/2020071080106.html
韓国疾病管理本部が国民3055人の血液に新型コロナウイルスの抗体があるかどうかを確認した結果、1人(0.03%)だけが抗体を持っていることが分かったと9日、明らかにした。
7月6日段階で感染者13,181人、韓国の人口を5000万人として計算すると罹患率は0.026%となります。
抗体保有率から罹患率を求めるのは正確性に欠けますが韓国の徹底的な検査と隔離政策を考えると低く見積っても感染者の50%程度は捕捉されていると考えても良いと思います。
補足
3月17日段階での韓国の感染者検出率は49.47%と推測されています。
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/web/19/050800015/051500008/
韓国の年齢別IFR
感染致命率(感染致命割合):IFR(Infection Fatality Rate)
= 死亡者数 / 全感染者数 × 100(%)
韓国で感染者の50%が捕捉されていると仮定するとIFRは次のようになります。
(簡易計算で年齢調整は行っていません)
年代 | IFR |
50代以下 | 0.5%未満 |
60代 | 1.19% |
70代 | 4.725% |
80代 | 12.345% |
全年齢 | 1.08% |
日本国民の30%が曝露(感染)しているとした場合のIFRを推測
日本の年齢別CFR
致命率(致命割合):CFR(Case Fatality Rate)
= 死亡者数 / 確定診断がついた感染者数 × 100(%)
年代 | CFR |
50代以下 | 0.11% |
60代 | 2.67% |
70代 | 8.54% |
80代以上 | 18.1% |
全年齢 | 1.90% |
https://toyokeizai.net/sp/visual/tko/covid19/ (8/26)
日本の年齢別IFR
感染致命率(感染致命割合):IFR(Infection Fatality Rate)
= 死亡者数 / 全感染者数 × 100(%)
陽性者63,591人、日本の人口を1憶人とした場合、罹患率は0.0636%となります。
日本国民の30%が曝露(感染)していると仮定した場合、感染者検出率は0.21%となります。
これらのことからIFRは次のようになります。
(簡易計算で年齢調整は行っていません)
年代 | IFR |
50代以下 | 0.00023% |
60代 | 0.0056% |
70代 | 0.018% |
80代以上 | 0.038% |
全年齢 | 0.0040% |
日本と韓国のIFRを比較
年代 | 日本のIFR | 韓国のIFR |
50代以下 | 0.00023% | 0.5%未満 |
60代 | 0.0056% | 1.19% |
70代 | 0.018% | 4.725% |
80代以上 | 0.038% | 12.345% |
全年齢 | 0.0040% | 1.08% |
日本と韓国のIFRは全く異なるものになりました。
高橋氏は日本の死亡者が少ない理由を欧米と比較して次のように述べています。
第1に暴露率。日本の場合、重症化しやすい「高齢者の暴露率」が低かったのが効いたのではないか。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/07/7-64_4.php
第2に、自然免疫力。自然免疫で治る人の比率が欧米より日本人(アジア人)のほうが高く、その結果「軽症以上の発症比率」が低くなるが、抗体陽性率も低くなる。自然免疫力(特に細胞性免疫)の強化にBCGの日本株とロシア株が関与した可能性は高いとみている。
第3は、「発症者死亡率」。日本は欧米に比べて低いと考えられる。その理由としては、欧米人に比べて血栓ができにくいことがある。サイトカイン・ストームが起きても、日本のほうが重症化する可能性が低いと考えられる。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/07/7-64_5.php
これらの3つの要因で日本のIFRが韓国のIFRよりも大幅に低くなるとは考えられません。
これ以外にもマスク着用、旧型コロナウイルスに対する曝露等、日本が韓国と大きく異なる要因はありません。
高橋氏の「日本国民の30~45%が曝露している」という仮定が正しければ韓国には無い、日本特有のファクターXが存在することになります。
それはマスクでも無く、自然免疫力の違いでも無く、BCG接種でも無く、旧型コロナへの曝露でもありません。
こんなことが有り得るのでしょうか?
それとも韓国も日本同様知らない間に国民の多くが曝露していたのでしょうか?
まとめると
高橋氏の主張する「国民の30~45%はコロナウイルス感染症に曝露している」という仮定は明らかな誤りです。
従ってその仮定を元にした7段階モデル図が適切なものであるとは考えられません。
高橋氏は上久保氏同様、仮説を細胞実験等で確認していません。
高橋氏は多くのメディアで私見を述べており、国の政策にも影響を与える恐れがあります。
高橋氏の説が事実だとすれば何もしなくても良いことになりますので政治家にとっては都合が良いでしょう。
しかし、ツケを払うのは国民です。