コロナウイルス感染症

コロナウイルス抗体検査について

神戸市の調査

神戸市立医療センター中央市民病院がコロナウイルス抗体検査の結果を発表しました。
4月の検査では2.7%、今回の検査では0.2%が陽性でした。
抗体保有率の低下は偽陽性が原因であると考えられています。

抗体保有者数の推計激減 神戸市内、4万人→2600人 神戸・中央市民病院

神戸市立医療センター中央市民病院(同市中央区)の研究チームは7日、外来患者千人の血液から、新型コロナウイルスの感染歴を調べる2度目の抗体検査を行ったところ、0・2%が陽性で同市内の抗体保有は推計約2600人だったと発表した。4月の調査(陽性2・7%、抗体保有推計約4万人)から下がる結果となり、同チームは、前回の多くは、感染歴がないのに陽性になる「偽陽性」だった可能性が高いとみている。

https://news.yahoo.co.jp/articles/f78b01239c2de173698994070d941823e7b611cd

4月の調査

方法

  • 2020年3月31日~4月7日に神戸市立医療センター中央市民病院の外来を受診した患者の1000検体を検査(救急部または発熱外来を受診した患者は除外)
  • クラボウ社の抗体検査キットを使用

KURABO社ホームページより

結果

  • 1000検体のうち、33検体でIgGが陽性
  • 年齢、性別で調整した陽性有病率は2.7%
  • 神戸市人口に換算すると4万999人が陽性
  • 神戸市におけるPCR陽性確定例の396~858倍の数値

https://pulmonary.exblog.jp/28966239/

2度目の調査

方法

  • 5月26日~6月7日に神戸市立医療センター中央市民病院の外来を受診した患者の1000検体を検査
  • アボット社とクラボウ社の抗体検査キットを使用

結果

  • アボット社の検査キット(FDAが認可)では1000検体のうち、2検体でIgGが陽性
  • クラボウ社の検査キットでは1000検体のうち、18検体(アボット社の検査キットで陽性の2人含む)でIgGが陽性
  • 0.2%が陽性
  • 神戸市人口に換算すると2600人が陽性
  • 神戸市におけるPCR陽性確定例の9倍の数値

ベイズの定理で考えてみる

クラボウ社のホームページでは特異度100%となっていますが、アボット社の検査キットの結果の方が正しく(アボット社のキットの結果が偽陽性の可能性はあります)、クラボウ社の検査キットに問題があったと考えるのが妥当です。

アボット社のキットでの2件の陽性はクラボウ社のキットでも陽性となっていますのでクラボウ社のキットの感度はある程度信用できると思います。

ここでPCR検査抑制論者が大好きなベイズの定理を用いて考えてみます。
神戸市の4月3日までの陽性者数は39人です。
神戸市人口は153万人ですので神戸市の4月3日段階での罹患率は0.0025%となります。
感度76.38%、抗体保有率を0.0025%、0.025%、0.25%として計算してみます。

検査数抗体保有率(%)特異度(%)真陽性数偽陽性数陽性的中率(%)
10000.0025990.01910.00.19
10000.0025980.019 20.00.095
10000.0025970.019 30.00.064
検査数抗体保有率(%)特異度(%)真陽性数偽陽性数陽性的中率(%)
10000.025990.1910.01.87
10000.025980.19 20.00.95
10000.025970.19 30.00.63
検査数抗体保有率(%)特異度(%)真陽性数偽陽性数陽性的中率(%)
10000.25991.910.016.1
10000.25981.920.08.74
10000.25971.930.06.00

4月の調査の33件の陽性のほとんどが偽陽性であったとするとクラボウ社のキットの特異度は98%未満となります。

抗体保有率が低いと考えられる地域での調査でしたので抗体検査の特異度の低さが問題となったのでしょう。

抗体検査の結果から罹患率を求める場合

アボット社の検査キット

コロナ抗体検査薬 大手ほど精度高く FDA、ロシュなど12品評価

日本で販売計画のある抗体検査薬は高い精度が示された。8日に販売が始まった米アボットのIgG抗体検査薬の感度は100%、特異度は99・6%で、有病率5%の場合、陽性的中率は92・9%、陰性的中率は100%。

日本で5月以降の薬事申請を計画するスイス・ロシュの抗体検査薬はIgMとIgGの両方を測定し、感度100%、特異度99・8%、陽性的中率96・5%、陰性的中率100%。

https://www.chemicaldaily.co.jp/%E3%82%B3%E3%83%AD%E3%83%8A%E6%8A%97%E4%BD%93%E6%A4%9C%E6%9F%BB%E8%96%AC%E3%80%80%E5%A4%A7%E6%89%8B%E3%81%BB%E3%81%A9%E7%B2%BE%E5%BA%A6%E9%AB%98%E3%81%8F%E3%80%80%EF%BD%86%EF%BD%84%EF%BD%81%E3%80%81/

アボット社のキットを用いて抗体検査を行った場合、抗体保有率の違いで偽陽性数がどのように変化するかを調べてみます。

検査数抗体保有率(%)感度(%)特異度(%)真陽性数偽陽性数陽性的中率(%)
10000.00110099.60.013.999960.25
10000.0110099.60.13.99962.44
10000.110099.613.99620.01
1000110099.6103.9671.63
1000310099.6303.8888.58
1000510099.6503.892.94
10001010099.61003.696.53
10001510099.61503.497.78

抗体検査の結果から罹患率を求めることがあります。

抗体保有率(%)抗体検査の結果から求めた罹患率(%)
0.0010.400996
0.010.40996
0.10.4996
11.396
33.388
55.38
1010.36
1515.34

抗体検査の結果から罹患率を求める場合、実際の抗体保有率が0.01%未満のような時は高精度の検査キットを用いても桁が違うほど大幅なズレが生じます。

加えてコロナウイルス感染症では一旦抗体が産生されても一定期間経過後、無症状者の40%、有症状者の12.9%はIgG抗体が陰性化するとされています(※1)ので抗体検査の結果から罹患率を求めるのには問題があります。

厚生労働省の調査

6月に行われた厚生労働省の調査ではアボット社とロシュ社の検査キットを用い、共に陽性の場合を陽性と判定しています。
アボット社の検査キットは感度は100%、特異度は99.6%、 ロシュ社の検査キットは感度100%、特異度99.8%ですので適切な判定方法だと思います。

東京に関しては5月31日段階で抗体陽性率0.1%、罹患率0.038%、CFR5.83%となっています。
日本のIFRは0.3~0.6%と推測(※2)されていますので検査で捕捉されているのは感染者の5~10%程度となります。
捕捉率を5~10%とした場合、実際の罹患率は0.38~0.76%となります。
抗体陽性率は0.1%ですので抗体を保有している人は感染した人の13~26%程度ということになります。

細胞性免疫や自然免疫も働くのでしょうが集団免疫獲得を目指すべきという主張は理解できません。

参考文献
1:https://www.nature.com/articles/s41591-020-0965-6
2:https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/06/8-39_4.php

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