コロナウイルスPCR検査を行う意味が無いと主張する人達がいます。
彼らの主張を取り上げ、一つずつ検証します。
Contents
PCR検査が陽性でも感染しているかわからない
【小浜逸郎】第2波は来たか
https://38news.jp/politics/16550
ところで、これまで根拠としてきた統計的前提を覆すような印象を持たれるかもしれませんが、じつはPCR検査というのは、その結果にあまり信用が置けません。理由はいろいろあります。
一つは、この検査の陽性反応はウイルスが体内で曝露したことだけを示すもので、疫病に「感染」したことを示すものではありません。だから陽性反応者の中にあれほど無症状の人が多いのです。そこで、陽性反応が何名出たからと言って、それを「感染者」とするのは間違いです。マスコミは「感染者何名、感染者何名」と騒ぎ立ててきましたが、正しくは「陽性者」と呼ぶべきです。
PCR検査は感染性を調べる検査ではありませんので「PCR陽性者=感染者」と言い切れないのは事実です。
感染者を検出するために最も確実なのは細胞を用いた感染実験を行う事です。
しかし、感染実験はPCR検査以上に時間がかかり(長い場合は2週間程度)、BSL3の施設(日本には13施設、Wikipediaより)が必要になりますので日常的に行うのは現実的ではありません。
PCR陽性者のどの程度が感染者ではないと考えたら良いのでしょうか?
コロナ感染後、回復過程でのウイルス断片検出で感染性が無いにもかかわらず、PCR陽性になることは知られています。(退院時のPCR検査が行われなくなった理由です)
しかし、こういうケースは一部ですし、そもそも感染後の回復過程で起こる事です。
それ以外にも偽陽性はあるでしょうが人為的ミス以外ではほとんど起こりません。
“この検査の陽性反応はウイルスが体内で曝露したことだけを示すもので、疫病に「感染」したことを示すものではありません。”とあるように小浜氏は感染まで至らず、ウイルスに曝露しただけでPCR検査が陽性になることがあると考えているようです。
PCR検査の検体採取部位である気道上皮を細胞レベルで見てみます。
気道上皮防御機構
- 物理的バリアー:上皮細胞間の接着(タイト結合)や線毛運動によりウイルスの侵入を防ぐ
- 化学的バリアー:ラクトフェリン、β-デフェンシン、NO(一酸化窒素)等の抗ウイルス物質を分泌
- 生物学的バリアー:常在細菌叢による結合部位や栄養の競合阻害
これらに加えて自然免疫と呼ばれる防御機構があります。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/orltokyo/56/4/56_162/_pdf
http://www.kachikukansen.org/kaiho2/PDF/1-3-105.pdf
自然免疫について
- 樹状細胞:異物の捕捉、分解、抗原提示
- マクロファージ:異物の捕捉、分解、抗原提示
- 好中球:異物の捕捉、分解
- NK細胞:ウイルス感染細胞の破壊
これらの細胞は粘膜の上皮内、上皮下に存在します。
ウイルスがこれらの防御機構を突破し、細胞内に侵入し増殖すると感染したことになります。
(NK細胞は感染細胞を破壊しますのでNK細胞が働いているということは感染しているということになります)
ウイルス曝露後に細胞内までウイルスが侵入できない場合、ウイルスは線毛運動により排除されたり、抗ウイルス物質や好中球、マクロファージ等で処理されます。
ウイルス曝露後、感染までに至らないにもかかわらず、ウイルスが処理されず鼻や喉に留まった場合、曝露だけで陽性ということになります。
PCR検査が陽性になるために必要なウイルス量を考えます。
PCR検査が陽性になるために必要なウイルス量
PCR検査を行う検体中にNセットでは7コピー、N2セットでは2コピーのウイルスRNAがあれば検出可能です。
https://www.niid.go.jp/niid/images/lab-manual/2019-nCoV20200319.pdf
当然ですが「鼻に1,000個のウイルスが存在」=「PCR検体中に1,000個のウイルスが存在」にはなりません。
PCR検査に至るまで
検体採取→検体輸送→RNA抽出→PCR検査
という過程を経ます。
PCR検査に至るまでの間に検体採取ミス(採取部位のウイルスを100%回収することは不可能)、RNA変性等が起こる可能性がありますのでウイルスRNAを100%回収することは不可能です。
RNA抽出の過程でもウイルスRNAを多量にロスします。
ramosさんによるとRNA抽出に必要なコロナウイルス量は10の11乗個と試算されます。
貴重な情報です。
PCR検査そのものはNセットでは7コピーのウイルスRNAがあれば検出可能ですが、その前段階のRNA抽出にはさらに多くのウイルスが必要ということです。
さらに検体採取で100%ウイルスを回収することはできないことやRNA変性を考慮するとPCR検査で陽性になるには採取部位に多量のウイルスが必要になります。
ウイルス曝露後、感染までに至らないにもかかわらず、抗ウイルス物質や好中球、マクロファージで処理されずに鼻や喉に多量のウイルスが存在し続けるということは考えられません。
小浜氏はいいかげんな知識のつぎはぎでおかしな主張となっています。
検体採取時やRNA抽出時にどの程度ウイルスをロスしているのかは不明ですので、PCR検体中のウイルス量が少なかったとしても採取部位のウイルス量が少ないとは言い切れません。
また「採取部位のウイルス量が少ない」=「全身のウイルス量が少ない」とは限りません。
例えば血糖値は「mg/dl」の単位で表され、全身状態を反映します。
しかし、採取部位のウイルス量から全身のウイルス量や全身状態を推測することは困難です。
まとめると
コロナウイルスPCR検査でウイルスに曝露されただけで陽性になることは考えられません。(ウイルス曝露後、即座に検査を行えば可能性はあるのかもしれませんが非常に稀な事例でしょう。本当にあるのかはわかりません)
コロナウイルスPCR検査は感染性を調べる検査ではありませんが、コロナウイルスの特性を理解すれば実用上問題ありません。
https://www.mhlw.go.jp/content/000668291.pdf
それでもPCR検査は意味が無いと主張する人達は代わりとなる検査方法を提案すべきです。
コロナは毒性が弱い(弱毒化した)ので検査するまでも無い
コロナはインフルエンザと比べても致命率が高く、毒性が弱いということはありません。
日本でも感染者が増えれば重症者、死亡者は増えます。
イタリアでは感染者が再び増加したが、ほとんど死者が出ていない
https://www.worldometers.info/coronavirus/country/italy/
イタリアは第一波では多い日で1日6,000人程度の感染者が出て800人程度の死亡者が出ています。
8月以降は1日1,500人程度の感染者が出て死亡者は10人程度です。
ここで注意が必要なのは3月と8月以降は感染者検出率が異なっていると考えられることです。
https://www.uni-goettingen.de/en/606540.html
3月のイタリアは医療崩壊の状況にありましたので検査が充分にできず、感染者を捕捉できていませんでした。
イタリアの感染者検出率は3月17日では3.50%、3月30日では6.87%と推測されています。
従って実際には14~28倍の感染者(多い日で1日84,000~168,000人)がいたことになります。
8月以降は第一波に比べ、感染者の多くを捕捉できていると考えられます。
8月以降の感染者検出率を20%と仮定すると多い日で7,500人程度の感染者となりますので第一波と比べると1/10以下の感染者数となります。
従って8月以降は第一波と比べると遥かに感染者が少ないので死亡者が少ないと推測されます。
死亡者が少ない他の要因には感染者数が少ないことで8月以降のイタリアでは医療崩壊は起こっていないことや重症者への対応法の改善等があります。
日本では7月以降感染者が増えても死亡者が増えないのでコロナは大したこと無い(弱毒化した)
https://www.worldometers.info/coronavirus/country/japan/
4月頃と7月以降を比べると感染者数は2倍以上増えていますが死亡者数は大幅に増えていないように見えます。(8月中旬以降は連日10人前後の死亡者が出ていますので少ないとは言えませんが)
これもイタリア同様、感染者補足率の違いが一因としてあります。
日本の場合、日々の陽性者数と陽性率がわかりますので陽性率で補正することで真の陽性者数の推移が推測できます。
補正には次の式を用います。
https://covid19-projections.com/estimating-true-infections/
日付 | 検査数 | 陽性数 |
4月4日 | 271 | 370 |
4月5日 | 218 | 386 |
4月12日 | 57 | 571 |
4月4日、5日、12日に関しては報告日の関係もあり、検査数<陽性数となっているため除外していますので4月の感染者数はもっと多いです。
7月以降、無症状の感染者が多数発見されたため、コロナは弱毒化していると主張する人達がいますが真の感染者数(推定)を見てわかるように4月頃にも多数の無症状感染者がいたと推測されます。
7月以降、死亡者が大幅に増えていない大きな要因は感染者の年齢分布の違い(若齢者の感染増加)にあると考えられます。
その原因の一つとしては学校再開による学校でのクラスター発生や家庭内感染の増加があります。
これらのことから、コロナは弱毒化しているということは考えにくいです。
制圧は不可能なので検査をする意味が無い
台湾
https://www.worldometers.info/coronavirus/country/taiwan/
ニュージーランド
第1波以降、台湾、ニュージーランドの1日の感染者数は多い日でも10人程度に抑えられています。
コロナの制圧は不可能ということはありません。
過剰な感染対策は経済を停滞させるので検査を行うべきではない
https://ourworldindata.org/covid-health-economy
健康と経済のトレードオフの兆候はなく、まったく逆
https://ourworldindata.org/covid-health-economy (翻訳です)
トレードオフの考えに反して、ペルー、スペイン、イギリスなど、最も深刻な経済不況に見舞われた国は、COVID-19の死亡率が最も高い国に属していることがわかります。
また、その逆も当てはまります。台湾、韓国、リトアニアのように、経済的影響が小さい国も、死亡率を低く抑えることができました。
感染対策と経済対策はトレードオフでは無いというデータです。
過剰な感染対策が経済を停滞させるとは限らないということです。
日本のように国の感染対策が不十分で国民の自助努力に頼っている場合は国民が過剰な自粛を行ってしまうため経済への影響は大きいのかもしれません。
このような場合、自助努力を行っている国民に向かって「過剰に恐れるな」というメッセージを送るのではなく、きちんとした感染対策を行う方が経済対策になることは明白です。
具体的には徹底的な検査、隔離と情報公開です。
感染者が出た場合、濃厚接触者には徹底的な検査、隔離を行い、情報公開を行った場合、 国民は安心して経済活動を行えます。
無症状者をいくら見つけても意味が無い
https://www.mhlw.go.jp/content/000668291.pdf
有症状者だけでなく、無症状者からも感染しますので発見、隔離することは意味があります。
無症状者を放置するようではいつになっても感染は収束しません。
感染症対策ではゾーニングという考え方があります。
ダイヤモンド・プリンセス号に岩田氏が乗り込んだ時に話題になりました。
- グレーゾーン:準清潔区域(準汚染区域)
- グリーンゾーン:清潔区域
- レッドゾーン:汚染区域
グリーンゾーンでは基本的に感染する可能性はありません。
グレーゾーンは汚染されているかどうかわからない区域ですので感染する可能性があります。
しかし、どの程度危険であるかはわかりません。
PCR検査をどの程度行うかは各自他体に依ります。
ゾーニングという考え方で各自治体を見てみます。
和歌山県は無症状の濃厚接触者を積極的に検査しており、市中に感染者がいる可能性は低いです。
和歌山県はグリーンゾーンと考えて良いでしょう。
(和歌山県内では絶対に感染しないという意味ではありません。感染者が出ても徹底的に検査、隔離が行われるので感染の可能性が低いという意味です)
大阪府や名古屋市は無症状の濃厚接触者の検査は積極的ではなく、市中に無症状の感染者がいる可能性が高いです。
大阪府や名古屋市はレッドゾーンと考えて良いでしょう。
(レッドゾーンは言い過ぎと考える場合はグレーゾーンと考えても良いでしょう)
和歌山県と大阪府、名古屋市どちらが安全に社会活動、経済活動を行うことができるでしょうか?
コロナは大したこと無いと考える人でも高齢者の致命率が高いことは認めざるを得ないでしょう。
新型コロナ 第2波の流行「高齢者の致死率変わらず」
https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/advisory-board/detail/detail_01.html
新型コロナウイルス対策について厚生労働省に助言する専門家の会合が8月24日開かれ、これまでに亡くなった人や重症になった人たちの分析などが報告されました。第1波の流行と比べて現在の流行では、亡くなった人の数は少ないものの高齢の人の致死率はほとんど変わっていないということです。
また、国立感染症研究所から、第1波の流行と現在の第2波の流行のそれぞれの致死率が報告されました。
その結果、ことし5月までの第1波の際の致死率は6%だったのに対して、6月以降は4.7%と低下傾向になっていました。
ただ年代別に見てみますと、50代、60代の致死率は第1波が2.8%、第2波が3.1%。また70代以上の致死率は、第1波の際が25.1%、第2波が25.9%とほとんど変わっていなかったということです。
大阪府や名古屋市のように市中のどこに感染者がいるのかわからないような地域で高齢者が安心して社会活動、経済活動を行うことができるのでしょうか?
また自身が濃厚接触者になり、検査をしてもらえない場合、社会活動、経済活動を継続することは不可能です。
(他人に感染させても全く気にしない人は別ですが)
検査が充分に行われない地域では社会活動、経済活動が停滞します。
また無症状者がそのまま無症状のままとは限りません。
無症状者の6割が入院後発症 新型コロナ、重篤化や死亡例も
https://www.agara.co.jp/article/78898
和歌山県内で発生した新型コロナウイルス感染者で、当初無症状だった人のうち、6割が入院中に発熱やせきなどを発症していたことが、県のまとめで分かった。重篤化や死亡に至ったケースもあり、県福祉保健部の野尻孝子技監は「症状がないからといって安心してはいけない。急激に悪化する事例もあり、(陽性者全員)入院治療の上、経過を観察すべきだ」と話した。
まとめると
- コロナウイルスPCR検査は感染性を調べる検査ではありませんが、コロナウイルスの特性を理解すれば実用上問題ありません。
- コロナはインフルエンザと比べても致命率が高く、毒性が弱いということはありません。 日本でも感染者数が増えれば重症者数、死亡者数は増えます。
- 台湾、ニュージーランドの状況を見るとコロナの制圧は不可能ということはありません。
- 感染対策と経済対策はトレードオフでは無いというデータがあります。過剰な感染対策が経済を停滞させるとは限らないということです。
- 無症状の感染者を放置するようでは社会活動、経済活動は停滞します。無症状者の6割が入院後発症したという報告がありますので無症状者がそのまま無症状のままとは限りません。
これらのことから「コロナウイルスPCR検査を行う意味が無い」なんてことは言えません。