コロナウイルス感染症

コロナウイルスPCR検査の偽陽性について

PCR検査については間違った報道が多いです。

コロナウイルスPCR検査と臨床検査技師に関する嘘 実は私は医学部保健学科を卒業し、臨床検査技師の資格も持っています。コロナウイルス関連の報道では間違った報道が非常に多いので正しい情報を...

PCR検査の偽陽性についても間違った報道が多いので検証します。

コロナウイルスPCR検査

RT-PCR検査の原理を簡単に

コロナウイルスはRNAウイルスですので、まずRNAからcDNAを合成します。
cDNAがプライマーと呼ばれる短い1本鎖DNAと反応することで増幅産物が得られます。
増幅産物を確認する方法として反応後に電気泳動を行う方法(RT-PCR)と蛍光物質を用いる方法(リアルタイムPCR)があります。

検査精度

厚生労働省が調査したPCR検査キットの陽性一致率、陰性一致率はほぼ100%でした。

https://www.niid.go.jp/niid/images/lab-manual/2019-nCoV-17-20200430.pdf

検体採取マニュアル

「2019-nCoV (新型コロナウイルス)感染を疑う患者の検体採取・輸送マニュアル 〜2020/06/02 更新版〜」を見てみます。

新たに唾液検体が使用できるようになりました。
以前は下気道由来検体と鼻咽頭ぬぐい液の2検体で検査していました。
今後はいくつの検体を用いて検査するかは自治体や検査会社の判断になると考えられます。
ちなみに大阪は1検体です。

大阪府、PCR検査は検体数減らして対応 現場は「余裕ない」

増え続ける新型コロナウイルス感染者を把握するため、大阪府はPCR検査の実施態勢を見直した。1人あたりの検体数を減らして作業を効率化。

新規陽性者を確認する検査の数は3月31日に254人分だったが、4月4日に300人を、10日に400人を超えた。15日は494人で、18日には最多の580人に上った。

急増の要因として挙げられるのが、医療機関で痰(たん)と鼻粘膜の2検体を採取していた方法を10日から1検体に減らしたことだ。

産経新聞 2020年4月20日

いろいろなケースを考える(RT-PCR法)

上図のようにウイルス断片が存在してもプライマーと反応できない位置で切断されている場合は増幅しません。

上図のように一方のプライマーと反応しても、もう一方のプライマーと反応できない場合は異なるサイズのPCR産物ができます。
これは真のPCR産物と見分けることが可能ですので偽陽性にはなりません。

上図のように完全なウイルスRNAが存在せず、2つのプライマーと反応するRNA断片だけが存在するのならば感染性は無いかもしれませんが陽性となります。
しかし検体採取、検体処理の間にRNA断片となったのか、元々RNA断片だったのかは区別不可能ですし、感染性の有無は不明です。
PCR検査はプライマーと正しく反応しているので偽陽性ではありません。
PCR検査は検体中に目的とする遺伝子配列を持つDNA(RNA)が存在するかを調べる検査であり、感染性を持つかどうかを調べる検査ではありません。

PCR法って?

PCR法は、増やしたい遺伝子のDNA配列にくっつくことができる短いDNA(プライマー)を用意し、酵素の働きと温度を上げ下げすることで、目的の遺伝子を増やす方法です。増えたDNAを染め出す特殊な装置に入れる事で、増えた遺伝子を目で確認する事ができます。検体の中に増やしたい遺伝子があれば増えて目で確認することができ“陽性”と判定されます。しかし、検体の中に遺伝子がなければ増えないので、目で確認することはできず、 “陰性”と判定されます。

日本微生物研究所

感染性があるかどうかを調べる検査はウイルス増殖試験等になります。
この試験にはBSL3の施設が必要となりますので日常行う検査ではありません。

追記
PCR検査についての陽性、陰性、偽陽性、偽陰性は次のようになります。(定義1とします)

  1. 陽性:検体中に目的とする遺伝子配列を持つDNA(RNA)が存在する
  2. 陰性:検体中に目的とする遺伝子配列を持つDNA(RNA)が存在しない
  3. 偽陽性:検体中に目的とする遺伝子配列を持つDNA(RNA)が存在しないにもかかわらず、陽性と判定する
  4. 偽陰性:検体中に目的とする遺伝子配列を持つDNA(RNA)が存在するにもかかわらず、陰性と判定する

コロナウイルスPCR検査の感度が70%程度であると主張する人達のコロナウイルスPCR検査の陽性、陰性、偽陽性、偽陰性の定義は次のようになっています。 (定義2とします)

  1. 陽性:コロナウイルスに感染していてPCR検査で陽性
  2. 陰性:コロナウイルスに感染していないくてPCR検査で陰性
  3. 偽陽性:コロナウイルスに感染していないがPCR検査で陽性
  4. 偽陰性:コロナウイルスに感染しているがPCR検査で陰性

このように定義する場合の注意点は

  1. 検体採取、取り扱い時のミスが偽陽性の事例となります
  2. 感染性が無い場合が偽陽性の事例とされてしまい、PCR検査の精度に問題があるかのようにされてしまう (PCR検査は感染性を持つかどうかを調べる検査ではありません)

PCR検査の感度、特異度についてはその人によって定義が異なる事が多いので注意が必要です。
以下断りが無い場合、PCR検査の感度、特異度については定義1を用います。

リアルタイムPCRの増殖曲線、CT値について

保健所や民間の検査会社で行われているのはリアルタイムPCRの方だと思います。
遺伝子の増幅を蛍光物質を用いて調べるのがリアルタイムPCRです。

https://www.thermofisher.com/blog/learning-at-the-bench/qpcr-basic37/ より

上図が増殖曲線で「縦軸:蛍光シグナルの大きさ、横軸:サイクル数」となっています。
CT値はThreshold Lineと交差する時点のサイクル数です。

CT値が小さいほど少ないサイクル数でDNAが増殖するため、検体中のRNA量が多いと考えられます。
CT値が大きいほどDNAが増殖するために多くのサイクル数が必要となるので検体中のRNA量が少ないと考えられます。
陽性コンロールから作成された検量線を用いることでCT値から検体中のRNA量がわかります。

追記
CT値からわかるのは検体中のRNA量です。
検体中のRNA量が少ないのは次のような場合です。(鼻咽頭スワブを例にします)

  1. 鼻咽頭内のウイルス量が少なく、検体中のRNA量が少なかった
  2. 鼻咽頭内のウイルス量は多かったが検体採取手技が下手で検体中のウイルス量が少なくなった
  3. 検体採取時にはウイルス量は多かったが、その後の処理が不適切でウイルス量が少なくなった

検体中のRNA量がわかるだけですので、検体手技の問題で実際のウイルス量よりも少ない数値となる場合があります。
検体中のRNA量と患者体内のウイルス量の関係は不明です。
CT値は、血液検査のようにmg/dlやIU/dlのような単位で表されるわけではありませんので、患者体内のウイルス量を表しているわけではありません。

検査マニュアル(リアルタイムPCR)

「病原体検出マニュアル 2019-nCoV Ver.2.9.1」 を見てみます。

これからわかることは

  1. Nセット、N2セットの2種類の検査を行う
  2. Nセットの検出限界は7コピー、N2セットの検出限界は2コピー
  3. 40サイクル以内での増殖を陽性とする
  4. 2検体用いる場合はNセット、N2セットを行うので4検体の検査になる
  5. Nセットで1検体のみ陽性でCT値が高値の場合は再試験が推奨される

PCR検査は陽性で感染性は無い場合

PCR検査は陽性で感染性は無い場合はウイルス排出量が少なく、回復途中にあると考えられます。( ウイルス断片を検出している可能性は否定できません。この場合、CT値が高値で無症状であることが考えられます。)
そのまま順調に回復した場合は再検査で陰性となり、再燃した場合は再検査で陽性となることが考えられます。

適切なプライマーが設定されている場合に完全なウイルスRNAが存在せず、2つのプライマーと反応するRNA断片だけが存在するのは非常に稀なケースであると考えられます。
Nセットの検出限界は7コピー、N2セットの検出限界は2コピーですので、陽性となるにはRNA断片がそれぞれ最低7コピー、2コピーが必要です。

PCR検査の偽陽性?

PCR検査の偽陽性(上記の定義2)は検体の取り違え以外はほとんど有り得ないと思いますが、次のように主張される方がいます。

「PCR検査せよ」と叫ぶ人に知って欲しい問題
ウイルス専門の西村秀一医師が現場から発信

――PCR検査では偽陰性(感染しているのに検出されない)、偽陽性(感染していないのに検出されてしまう)の問題があって、わかることには限界があるとおっしゃっていますね。

PCRの感度が高すぎることによる弊害もあって、偽陽性の可能性もある。PCR検査は検体内のウイルスの遺伝子を対象にしている。本来の感染管理では生きているウイルスの情報が必要だが、それを得ることができないためだ。そうすると、ウイルスの死骸にたまたま触れて鼻をさわったというようなときも陽性になりうる。本当に陽性であっても、生きているウイルスではなく人に感染させない不活性ウイルスかもしれない。

https://toyokeizai.net/articles/-/349635

PCR論争に寄せて─PCR検査を行っている立場から検査の飛躍的増大を求める声に

2)次は偽陽性の可能性があること。PCRの感度が高すぎることによる弊害。
2-1)感染でなくとも不活化した空中を浮遊しているウイルスがたまたま吸われて鼻腔に張り付いていたものを採取した可能性
2-2)それこそ手指を介した環境表面からの感染を強調する人たちがいうように、そこらへんにウイルス(あるいはその残骸)が存在していて、それにたまたま触れて、それで鼻を触っただけで、感染の有無に関係なく検出されてしまう

https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/report/t344/202004/565349.html

上記の例は手指の手洗い、消毒は一切せず、マスクを付けず、偶然吸い込んだウイルスが検査を受けるまでそのままの形で分解されず鼻腔に存在し続け、2つのプライマーと反応した場合の話です。
一体どの程度の頻度で起こるのか、本当にそういうケースがあるのか不明です。

追記
この人達の言っている偽陽性は上記定義2の偽陽性です。

焦点:コロナ「再感染」実は偽陽性の公算、韓国研究で明らかに

<何が起きたのか>
韓国では新型コロナの治療を終えた患者が増えるにつれて、気がかりな動向が見つかった。治癒したと見える患者の一部が、その後の検査で再び陽性と判定されたのだ。
当局は再感染やウイルスの再活性化など、いくつかの仮説について検証。政府の専門家委員会は前週、再検査の結果は「偽陽性」との説が最も有力だと結論づけた。

しかし、中央大学のワクチン開発専門家の  Seol Dai-wu氏によると、RT-PCR法は一部の事例でウイルスの古い断片を検出している可能性がある。こうした断片は患者にとっても他の人にとっても、もはや重大な危険はなさそうだという。
Seol氏は「RT-PCR法の検査機器は、感染力を持つウイルス片と、感染力を持たないウイルス片を区別することができない。ウイルスの断片があるかどうかを判定するだけだ」と述べた。

<まだ感染力があるのか>
いったん回復した後の検査で、陽性と判定された患者が感染を広げることはなさそうだ。
KCDCは、回復後に症状を再発したように見える患者についてウイルスを培養する検査を実施しており、この作業では信頼に足る結果が判明するまでに2週間余りを要する。
6日までに培養試験を完了した29例すべてで、判定は陰性に戻った。少なくとも79例でまだ培養試験が続いている。
鄭局長は「再発事例のウイルスには、ほとんど、あるいは全く感染力がない」と述べた。

https://www.newsweekjapan.jp/amp/headlines/world/2020/05/275160.php?page=1

この記事での偽陽性は上記定義2の偽陽性です。
コロナウイルス感染後の再陽性事例に関するものです。
退院時のPCR検査について国の基準が変更されたのは、このような研究結果によるものと考えられます。

【新型コロナ】PCR検査・陽性で退院「国の新基準」

新型コロナウイルスに感染して和歌山県内で入院していた20代の男性が退院時のPCR検査で陽性となりながらも退院したことについて、県は、「国の新しい基準に従った」と説明する一方で、「この基準が正しいかどうかは議論する余地がある」と強調しました。

厚生労働省は、新型コロナウイルスに感染して入院した場合の退院基準について、先月(6月)12日に見直し、症状のある人については、発症してから10日間経過し、かつ症状が軽くなってから3日間経過したら退院、症状がない人については、陽性反応を示した検体採取から10日経ったら退院する、と定めています。

https://wbs.co.jp/news/2020/07/03/147847.html

このような事例はコロナウイルスに感染した人の再検査に関して問題となることですので、PCR検査の有用性に影響するものではありません。

巨人坂本選手、大城選手のケース

【巨人】坂本勇人と大城卓三の陰性発表、退院時期検討へ 「微陽性」のCT値も公表

巨人は4日、新型コロナウイルスPCR検査で、3日に陽性判定ぎりぎりの「微陽性」であることが発表された坂本勇人内野手(31)と大城卓三捕手(27)が、その後に受けたPCR検査で「陰性」の判定が出たと発表した。

2日に受けたPCR検査のウィルス遺伝子量に関するCT値も公表し、それぞれ37・78、34・95で、40以上であれば陰性とされるレベルに届いていなかったことも発表された。

スポーツ報知 2020年6月4日

坂本選手、大城選手共に抗体検査は陽性で無症状、CT値が高いことから、回復途中であったと考えられます。
PCR検査は偽陽性ではなく陽性
です。

ウイルス断片を検出していた可能性は否定できませんので、感染性は無かった可能性はあります。
しかし、PCR検査は感染性を調べる検査ではありませんので感染性が無かったのかどうかは不明です。
幸いにも再検査で陰性でしたので、順調に回復したと考えて良いと思います。
しかし、仮に1回目がウイルス断片を検出していたとしても、再燃し再検査で陽性となる場合もありますので検査そのものの有用性には問題は無いと考えます。

このような報道を見るとPCR検査の感度は非常に高いと考えるのが普通でしょうが、変な解釈をする人達がいます。

知識が無いのか、わざとやってるのかは不明ですが困った人です。

追記:こんな記事がありました。

重要‼️ 新型コロナ対策「PCR・抗体・CT」検査はよく間違える

逆に、PCRが陽性の場合はウイルスがいるという証明にほぼなります。偽陽性の問題はほぼ起こりません。時々間違えることもありますが、その典型は検査中に検体を取り違えてしまうようなケースですから、そういうミスが起こらない限りはほぼ間違えないですね。

https://www.kk-bestsellers.com/articles/-/373282/  岩田健太郎

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