日本ではインフルエンザの診断には抗原検査キットが広く用いられています。
インフルエンザPCR検査の実施条件は重症患者のみ(※)となっていますので、インフルエンザの検査のほとんどは抗原検査キットで行われていると考えてよさそうです。
インフルエンザ抗原検査について調べてみました。
※ https://primary-care.sysmex.co.jp/speed-search/index.cgi?c=speed_search-2&pk=1290
Contents
季節性インフルエンザについて
推定感染者数(確定診断を受けた推定感染者数)
https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/flu/levelmap/suikei181207.pdf
検査数
厚労省は、2013-16年度における1シーズンの季節性インフルエンザの検査件数が「2000万-3000万件」という参考値を示しています。
https://gemmed.ghc-j.com/?p=35891
抗原検査キットの感度、特異度
インフルエンザ迅速検査、全体の感度は62%
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/hotnews/etc/201203/523893.html
インフルエンザの迅速診断検査の精度を検討した研究を対象としたメタ分析で、市販されている迅速診断検査全体の特異度は98.2%と高いが、感度は62.3%であることが分かった。著者であるカナダMontreal 大学のCaroline Chartrand氏らは、「陽性判定時に偽陽性が存在する可能性は低いが、陰性判定だった人々の中には偽陰性患者が混じっていることに注意しなければならない」と述べている。論文は、Ann Intern Med誌電子版に2012年2月27日に掲載された。
まとめますと
インフルエンザの推定感染者数は年間1,000~1,500万人
インフルエンザの検査件数が年間2,000~3,000万件
抗原検査キットの感度が62%ですので有病率(事前確率)は70~80%程度と推測されます。
(インフルエンザの検査のほとんどはインフルエンザ流行期に行われると推測されますのでインフルエンザ流行期の有病率が70~80%と考えて良いと思います)
偽陽性、偽陰性数
ベイズの定理で偽陽性、偽陰性数を推測します。
検査件数2,000万件、有病率(事前確率)80%、感度62.3%、特異度98.2%とします。
陽性数 | 陰性数 | 偽陽性数 | 偽陰性数 | 事後確率 |
9,968,000 | 3,928,000 | 72,000 | 6,032,000 | 99.3% |
有病率が高いので事後確率は高いですが、莫大な数の偽陽性、偽陰性が出ています。
インフルエンザ流行期には検査を行わずにインフルエンザとして扱うべきという主張は理にかなっています。
https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20191202-00143812/
偽陰性者が感染を広げる?
毎年インフルエンザの抗原検査により600万件もの偽陰性が出ていると推測されます。
コロナウイルスPCR検査抑制論者はPCR検査では偽陰性者が感染を広げると主張しています。(コロナウイルスPCR検査ではインフルエンザ抗原検査ほどの偽陰性は出ません)
しかし不思議なことにインフルエンザ抗原検査による偽陰性者が感染を広げると主張し、インフルエンザ抗原検査に反対している人はほとんどいません。
忽那氏のようにインフルエンザ流行期の抗原検査は不要であると主張する医師はいます。
しかし、理由は次のようなものです。
- 迅速診断キットは発症早期は感度が悪いため、再来院を要求される
- 流行期にインフルエンザ様の症状があれば80%の確率でインフルエンザ
https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20191202-00143812/
インフルエンザの検査対象のほとんどは有症状者、コロナの検査対象は無症状者も多いという違いはあります。
またインフルエンザ抗原検査が陰性であっても医師が陽性とみなして治療を行う場合もあるでしょう。
しかし、インフルエンザ抗原検査が陰性ということで仕事を続ける人もいると思います。
コロナウイルスPCR検査抑制論者は何故、インフルエンザ抗原検査の偽陰性を問題としないのでしょう?
インフルエンザ流行期以外では有病率が下がり、抗原検査では事後確率が下がります。
インフルエンザ流行期以外ではインフルエンザ抗原検査ではなく、インフルエンザPCR検査を行うべきと主張する人もほとんどいません。
インフルエンザ流行期のコロナウイルス診断
政府はコロナウイルス抗原検査1日20万件の目標を立てています。
抗原検査キットのみで診断を行った場合、感染状況に関係無く1日1,000件以上の偽陽性が出る可能性があります。
季節性インフルエンザの有病率
コロナが無ければインフルエンザ流行期ではインフルエンザの有病率は70~80%と推測されます。
インフル患者わずか3人、昨年の1000分の1以下…手指消毒やマスク徹底で
https://www.yomiuri.co.jp/medical/20200914-OYT1T50184/
インフルエンザの患者数が昨年の同時期に比べて1000分の1以下という低い水準になっている。厚生労働省が公表した今季初の患者数のまとめによると、全国約5000か所の医療機関からの報告数が6日までの1週間で3人にとどまった。新型コロナウイルス対策で手指消毒やマスク着用の徹底など、国民の衛生意識の高まりが影響しているとみられる。
コロナ対策により、インフルエンザの有病率が例年に比べ下がる可能性があります。
インフルエンザ抗原検査キットを用いて1日20万件検査を行った場合
ベイズの定理で偽陽性、偽陰性数を推測します。
検査件数20万件、感度62.3%、特異度98.2%とします。
有病率(%) | 偽陽性数 | 偽陰性数 | 事後確率 |
1 | 3,564 | 754 | 25.9% |
10 | 3,240 | 7,540 | 79.4% |
20 | 2,880 | 15,080 | 89.6% |
30 | 2,520 | 22,620 | 93.7% |
40 | 2,160 | 30,160 | 95.8% |
50 | 1,800 | 37,700 | 97.2% |
60 | 1,440 | 45,240 | 98.1% |
70 | 1,080 | 52,780 | 98.8% |
80 | 720 | 60,320 | 99.3% |
有病率に関係無く、莫大な数の偽陽性、偽陰性が出ます。
コロナ、インフルエンザ両方を抗原検査で検査する場合は、ここにコロナウイルス抗原検査の偽陽性、偽陰性が加わります。
⼀般社団法⼈⽇本感染症学会提⾔ 今冬のインフルエンザと COVID-19 に備えて
http://www.kansensho.or.jp/uploads/files/guidelines/2008_teigen_influenza_covid19.pdf
感染症学会の提言ではインフルエンザの検査は抗原検査を使用するとなっています。
インフルエンザ抗原検査の陰性結果について
インフルエンザウイルスが地域社会で流行している期間中のインフルエンザ検査結果の解釈と臨床的意思決定を支援するアルゴリズム
https://www.cdc.gov/flu/professionals/diagnosis/algorithm-results-circulating.htm (翻訳です)
7.抗原検出検査(迅速インフルエンザ診断検査、免疫蛍光検査)は、分子検査やウイルス培養と比較して、呼吸器検体中のインフルエンザウイルスを検出する感度が最適ではありません。抗原検出検査の陰性結果は、インフルエンザの診断を除外するために使用しないでください。インフルエンザが疑われ、診断検査が必要な場合は、分子アッセイ(RT-PCRなど)による呼吸器検体のインフルエンザ検査を実施する必要があります。米国感染症学会(IDSA)は、外来患者の呼吸器検体中のインフルエンザウイルスを検出するために、迅速インフルエンザ診断検査(RIDT)よりも迅速インフルエンザ分子アッセイの使用を推奨しています。IDSAは、入院患者の呼吸器検体中のインフルエンザウイルスを検出するためにRT-PCRまたは他の分子アッセイの使用を推奨しています。
https://www.niid.go.jp/niid/images/lab-manual/Influenza2014.pdf
CDCはインフルエンザ抗原検査の陰性結果はインフルエンザの除外診断のために用いるべきでは無いとしています。
インフルエンザ抗原検査の感度は低いので当然のことです。
コロナ、インフルエンザ両方を抗原検査で行うようではまともな診断ができるとは思えません。
コロナウイルスPCR検査を拡充し、システムを作っておけばインフルエンザもPCR検査で行えた可能性があるのですが、感染症界隈の人達は考えてもいないのでしょうか?
インフルエンザ抗原検査を続ける理由
コロナ、インフルエンザ両方を抗原検査で検査させようとする人達の目的は一体何なのでしょう?
インフルエンザ抗原検査の診療報酬を見てみます。
https://primary-care.sysmex.co.jp/speed-search/index.cgi?c=speed_search-2&pk=507
忽那氏のようにインフルエンザ流行期の抗原検査は不要であると考え、検査をしない場合はこれらの診療報酬が無くなります。
感染症学会がインフルエンザ抗原検査をさせようとしているのは、これらの診療報酬を守るためでしょうか?
コロナウイルスPCR検査抑制論にインフルエンザ抗原検査も影響を与えているように思えます。