コロナウイルス感染症

「新型コロナPCR検査で事前確率が低いほど偽陽性が増える」説を検証

岩田健太郎氏が下記のツイートを行っていました。

今回、きちんとしたまとめを作り、終了とします。

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事前確率が低いほど偽陽性が増える?

ベイズの定理

新型コロナPCR検査妨害論者が大好きなベイズの定理を用いて確認します。
(検査数100,000、感度90%、特異度99.99%とします)

事前確率(罹患率)真陽性数偽陽性数事後確率(陽性一致率)
10%9,000999.90%
5%4,5009.599.79%
1%9009.998.91%
0.1%909.9990.01%
0.01%99.99947.37%
0%0100%

事前確率が低いほど偽陽性(正確には偽陽性の割合)が増えています。
(事後確率が下がります)
「事前確率0%でも(陽性検体がなくても)偽陽性が発生する」となっています。

FDA

診断テストの結果を解釈する場合、陽性予測値(PPV)は疾患の有病率によって異なることに注意してください。PPVは、真陽性である陽性のテスト結果の割合です。病気の有病率が低下するにつれて、偽陽性である検査結果の割合が増加します。

・たとえば、98%の特異度を持つテストでは、有病率が10%の母集団でPPVが80%をわずかに超えることになります。つまり、100個の陽性結果のうち20個が偽陽性になります。

・同じテストでは、有病率が1%の母集団でPPVが約30%しかないため、100個の陽性結果のうち70個が偽陽性になります。これは、有病率が1%の集団では、検査結果が陽性の個人の30%だけが実際にこの病気にかかっていることを意味します。

・0.1%の有病率では、PPVはわずか4%になります。つまり、100の陽性結果のうち96が偽陽性になります。

・医療提供者は、診断テストの結果を解釈する際に、地域の有病率を考慮に入れる必要があります。

https://www.fda.gov/medical-devices/letters-health-care-providers/potential-false-positive-results-antigen-tests-rapid-detection-sars-cov-2-letter-clinical-laboratory
FDA (翻訳です)

FDAも同じような主張です。
「事前確率が低いほど偽陽性の割合が増える」のでしょうか?

抗原検査では「事前確率が低いほど偽陽性の割合が増える」

先ほどのFDAの文章は実を言うと新型コロナ抗原検査に関するものです。
引用した文章の前の文章は次のようになっています。

SARS-CoV-2の迅速検出のための抗原検査による偽陽性結果の可能性-臨床検査スタッフおよび医療提供者への手紙

ナーシングホームやその他の環境で抗原検査を使用する場合は、CDCの推奨事項を考慮してください。特に発生率の低い郡で陽性の結果を得るには、48時間以内に確認RT-PCR検査を実施することを検討してください。

https://www.fda.gov/medical-devices/letters-health-care-providers/potential-false-positive-results-antigen-tests-rapid-detection-sars-cov-2-letter-clinical-laboratory
FDA (翻訳です)

事前確率が低い場合はPCR検査での確認が必要とされています。
これはCDCのインフルエンザ抗原検査に関する見解と同様です。

インフルエンザウイルスが地域社会で流行していない期間中のインフルエンザ検査結果の解釈と臨床的意思決定を支援するアルゴリズム

1.インフルエンザの活動性が低く、地域の人々のインフルエンザウイルスの循環少ない期間、インフルエンザ検査の陽性予測値は低くなります(つまり、陽性結果が患者のインフルエンザ感染率が低いことを示す可能性があります。 –偽陽性の結果の可能性を考慮してください)、陰性の予測値が高い(否定的な結果が患者にインフルエンザがないことを示す可能性が高い-おそらく真の否定的な結果)。ほとんどのインフルエンザ検査は高い特異性を持っていますが、インフルエンザの活動性が低い場合、偽陽性の結果がより一般的です。インフルエンザウイルスが地域で流行していない期間中は、抗原検出アッセイ(迅速なインフルエンザ診断テストまたは免疫蛍光アッセイ)の陽性結果の確認をRT-PCRまたは他の分子アッセイで検討する必要があり、地方または州の保健部門は相談した。

https://www.cdc.gov/flu/professionals/diagnosis/algorithm-results-not-circulating.htm
CDC (翻訳です)

「事前確率が低いほど偽陽性の割合が増える」の新型コロナ(インフルエンザ)抗原検査の話です。

抗原検査で「事前確率が低いほど偽陽性の割合が増える」理由

COVID-19 検査法および結果の考え方

(2)抗原検査法

新型コロナウイルス特異蛋白を迅速に検出する方法が承認されている。イムノクロマトグラフィー法を用いた 定性の簡易検査法(エスプライン:富士レビオ株式会社、クイックナビ-COVID19 Ag:デンカ株式会社)と高感 度で定量性を持たせた検査法(ルミパルス:富士レビオ株式会社)が利用可能となっている。イムノクロマトグラ フィー法では、検体採取ののち約 30 分で目視による判定が可能である(定性試験)。ただし、イムノクロマトグ ラフィー法による抗原検出は、遺伝子検査法に比べて感度が低く、唾液の検査は認められていないことに注意しなければならない。また最近になって、イムノクロマトグラフィー法の偽陽性が問題となっており、特に粘稠性の高い検体を用いた場合に偽陽性を示しやすいとされている。一方で、富士レビオが開発したルミパルスは高 感度・定量的抗原検出を可能とする検査法であり、遺伝子検査に近い感度が得られるとされている。高感度抗 原検出検査は、無症状者の鼻咽頭拭い液および唾液を用いた検査としても承認されている。

https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/topics/2019ncov/covid19_kensakekka_201012.pdf
⼀般社団法⼈⽇本感染症学会

抗原検査の偽陽性の主な原因が検体の粘稠性にあるのであれば、抗原検査の偽陽性は事前確率と無関係に発生します。(偽陽性の発生は陽性検体の存在に依存しません)
事前確率0%であっても偽陽性は起こり得ますのでベイズの定理を用いた結果とも矛盾しません。
(新型コロナ抗原検査ではベイズの定理を用い、事前確率と事後確率の関係を調べても良いでしょう)

新型コロナPCR検査の偽陽性の原因

重要‼️ 新型コロナ対策「PCR・抗体・CT」検査はよく間違える【岩田健太郎教授・感染症から命を守る講義⑨】

PCRが陽性の場合はウイルスがいるという証明にほぼなります。偽陽性の問題はほぼ起こりません。時々間違えることもありますが、その典型は検査中に検体を取り違えてしまうようなケースですから、そういうミスが起こらない限りはほぼ間違えないですね。

https://www.kk-bestsellers.com/articles/-/373282/
2020年5月3日 岩田健太郎

新型コロナPCR検査の偽陽性の原因は検体取り違え以外に検体汚染(コンタミ)があります。
これらは全て陽性検体(感染者)の存在を必要とします。
(当然ですが陰性検体どうしを取り違えても陽性とはなりません。陰性検体を陰性検体で汚染しても陽性とはなりません)

新型コロナPCR検査では「事前確率が低いほど偽陽性が減る(特異度が上がる)」

新型コロナPCR検査の偽陽性の発生は陽性検体の存在に依存します。
(偽陽性の発生は事前確率の影響を受けると考えられます)
このことから新型コロナPCR検査では「事前確率が低いほど(陽性検体が少ないほど)偽陽性が減る(特異度が上がる)」と考えられます。

このことを裏付ける事例は多数あります。

特異度99.99697%以上

武漢

武漢で約137億円かけて989万人にPCR検査を実施、その結果は?

検査人数:武漢市で989万9828人に対してPCR検査を実施。
検査結果:新規感染者はおらず、無症状感染者を300人確認。検出率は1万人当たり0.303人。

http://j.people.com.cn/n3/2020/0603/c94475-9697190.html

検査数989万9828、陽性者300、陽性率0.00303%
陽性者を全て偽陽性と仮定しても特異度99.99697%

特異度100%

ニュージーランド

NZ、行動規制を解除 世界に先駆け生活正常化

ニュージーランド(NZ)政府は8日、新型コロナウイルスの感染抑制のため導入していた行動規制を解除すると発表した。8日午後11時59分(日本時間同日午後8時59分)から屋内外での集まりの人数制限やソーシャルディスタンス(社会的距離)規制を撤廃し、世界に先駆けて市民生活や経済活動をほぼ正常化させた。 第2波対策として、1日2千~3千件規模の検査体制は続け、外国人の入国禁止も継続する。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO60097650Y0A600C2EA1000/

新型コロナ「勝利宣言」のニュージーランドにも新規感染者

ニュージーランドの保健省は6月16日、国内で新型コロナウイルスの新たな感染者2人が確認されたと発表。これで24日間続いた「新規感染者ゼロ」の記録が途切れた。

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/06/post-93713.php

1日2,000~3,000件の検査を続け、24日間陽性者が0だったと解釈できます。
従って48,000~72,000件連続で陽性者0、陽性率0%、特異度100%

福島県

5月10日~6月13日まで
検査数3211、陽性者0、陽性率0%、特異度100%

Jリーグ

Jリーグ、PCR検査実施の全3070件が陰性

Jリーグは26日、全選手や審判員らを対象に実施した新型コロナウイルスのPCR検査で全3070件が陰性だったと発表した。

https://r.nikkei.com/article/DGXLSSXK50675_W0A620C2000000?s=5
2020年6月26日 日本経済新聞

検査数3070、陽性者0、陽性率0%、特異度100%

サッカーJリーグ PCR検査2回目も陽性確認されず 新型コロナ

3182人が検査を受け、3054人が陰性となり、残りの128人は、検体の不足などで、8日までに判定が出ていないということです。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200708/k10012505051000.html
2020年7月8日 NHK

検査数3054、陽性者0、陽性率0%、特異度100%

Jリーグ、PCR検査で全件陰性

Jリーグは2日、選手、スタッフ、審判員らを対象とした新型コロナウイルスのPCR検査で、9月25~27日に検体採取した全3237件が陰性だったと発表した。

https://www.nikkei.com/article/DGXLSSXK50718_S0A001C2000000/
2020年10月2日 日本経済新聞

検査数3237、陽性者0、陽性率0%、特異度100%

Bリーグ

Bリーグは陽性者なし 全クラブ対象のPCR検査

バスケットボール男子のBリーグは4日、1部(B1)と2部(B2)の全36クラブの選手、スタッフと審判員を対象に8月31日~9月3日に行った新型コロナウイルスのPCR検査で、全員が陰性だったと発表した。

新型コロナの感染対策として2週間に1度実施する統一検査の初回で、823件を検査した。島田慎二チェアマンは「開幕まで1カ月となり、まずは一つ目のハードルを越えたという思い。少しでも安心して試合をお届けできるよう努めてまいりたい」とのコメントを出した。

https://www.sankei.com/sports/news/200904/spo2009040021-n1.html
2020年9月4日 産経新聞

検査数823、陽性者0、陽性率0%、特異度100%

中州

中洲飲食店の集中検査、陽性者なし 従業員450人受検

福岡市は、同市・中洲地区の接待を伴う飲食店従業員を対象にした新型コロナウイルスの希望者全員検査を20日までに終え、144店から計450人が受検したと発表した。陽性者はいなかった。市は6月に客や従業員の感染が判明したキャバクラの調査が難航したことを受け、同月下旬から同地区で集中的な検査を実施していた。

https://www.nishinippon.co.jp/item/n/628034/
2020年7月21日 西日本新聞

検査数450、陽性者0、陽性率0%、特異度100%

ゴルフ

PCR検査で再検査4人 「陽性者なし」で女子ゴルフ開幕戦開催へ

日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)は2020-21シーズン開幕戦「アース・モンダミンカップ」に出場する選手およびキャディ、スタッフが受けた新型コロナウイルス感染に関するPCR検査の結果、4人が再検査(検体不足を含む判定結果が確定していない状態)、その他は陰性と判定されたと発表した。試合は予定通り無観客で25日(木)から開催する意向を示した。

開幕2日前の23日に会場内で唾液による検査を実施した。対象の554人の内訳は出場選手144人、帯同キャディ125人、通訳3人、JLPGA職員23人、アース製薬の社員を含むスタッフ259人。なお、17日には会場設営のスタッフら267人が同様の事前検査を実施し、18日に全員の陰性結果が出ていた。

https://news.golfdigest.co.jp/news/jlpga/article/122695/1/
2020年6月24日

検査数554、陽性者0、再検査4、陽性率0%、特異度100%

このように「陽性検体が存在しないと考えられる場合(事前確率0%の場合)、PCR検査の特異度は100%」となります。(偽陰性が混じっている可能性は否定できませんが議論に影響しません)

従って新型コロナPCR検査では原理上「事前確率が低いほど偽陽性が減り(特異度が上がり)」、リアルワールドでもそのようになっていることが確認できます。

新型コロナPCR検査にベイズの定理を用いることは不適切

新型コロナPCR検査では原理上「陽性検体が存在しない場合(事前確率0%の場合)、PCR検査の特異度は100%」となります。
この事はベイズの定理を用いた「事前確率0%でも(陽性検体がなくても)偽陽性が発生する」と矛盾します。(特異度100%として計算した場合は矛盾しませんがベイズの定理を用いる必要性はなくなります)

新型コロナPCR検査は特異度が非常に高いため、ベイズの定理を用いて事後確率の議論をする必要性はありません。
また新型コロナPCR検査の「事前確率が低いほど偽陽性が減る(特異度が上がる)」という特性を考えずに使用することで実症例との矛盾が生じます。
(新型コロナPCR検査で事前確率と事後確率の関係を求める場合、特異度に定数(固定値)を用いることは不適切)

海外の専門家で新型コロナPCR検査にベイズの定理を用いている人をほとんど見かけません。
新型コロナPCR検査にベイズの定理を用いることの不適切性を理解しているのでしょう。
(私も説明のために新型コロナPCR検査にベイズの定理を用いますが本来は不適切な行為です)

日本では新型コロナPCR検査を妨害するためにベイズの定理が悪用されました。
新型コロナPCR検査妨害論者の影響を受け、深く考えることも無く、ベイズの定理を誤用して悦に入る人達を何と表現したら良いのかわかりません。

ベイズの定理を悪用し、コロナウイルスPCR検査の有用性を否定する医師達 以前ベイズの定理を用いて事後確率を計算する時の注意点を記事にしました。 https://tatsuharug.com/bayes...
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