実は私は医学部保健学科を卒業し、臨床検査技師の資格も持っています。
コロナウイルス関連の報道では間違った報道が非常に多いので正しい情報を提供しようと思います。
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PCR検査の感度に関する嘘
PCR検査の感度が70%程度であると考えている人達がいます。
そんなことは有り得ないということは何度も記事にしました。
現在のPCR検査実施体制
コロナウイルスPCR検査が保険適用となり、実施体制が拡充されました。しかし、充分であるとは言えません。
上図は「行政検査を行う機関である地域外来・検査センターの都道府県 医師会・郡市区医師会等への運営委託等について」より
臨床検査技師が足りてないので検査が拡充できないという嘘
日本よりも何十倍もPCR検査を行っている国は多数あります。それらの国々には臨床検査技師が日本の何十倍もいるのでしょうか?
そもそも臨床検査技師の必要性は年々低下してきました。理由は検査の自動化です。
私が学生の頃でも今後は臨床検査技師の需要がどんどん無くなっていくと言われていましたので、需要が減らないとされていた生体機能検査(エコー検査、肺機能検査等)や病理検査を行う研究室に人気が集まっていました。
臨床検査技師が足りていないのはPCR検査の多くを衛生研究所で行っているからです。
衛生研究所以外でPCR検査を行うようにすれば臨床検査技師は必要ありません。
PCR検査には専門的な知識が必要という嘘
PCR検査を行う場合、プライマーの設定やプロトコルの作成まで自らが行うのであれば専門的知識は必要です。
実際は国立感染症研究所が公開している「病原体検出マニュアル」に従ってピペット操作を行うだけですので専門的な知識は不要です。
危険な病原体を扱うので行うことができる施設が限られるという嘘
国立感染症研究所が公開している「病原体検出マニュアル」によると検体の取り扱いに関しては
検体の取り扱いは、バイオセイフティーレベル(BSL)2+でおこなう。BSL2実験施設内の安全キャビネット内で取り扱い、操作中はディスポーザブルのガウン、手袋(2重)マスク (サージカルマスクでよい)、キャップ等のpersonal protective equipment (PPE)を着用する。チューブの蓋を開ける時には遠心し、チューブオープナーなどを用い、エアロゾルの発生を極力防止する。
国立感染症研究所 病原体検出マニュアル 2019-nCoV Ver.2.9.1
BSL3の施設で行う必要があると勘違いされてる方がいますが、BSL3の施設が必要なのはウイルスを増殖させたり、遺伝子操作を行ったりする場合ですので患者検体からPCR検査を行うだけでしたらBSL2の施設で行うことが可能です。
ウイルスの不活化後はウイルスは感染性を失いますので通常の実験室での取り扱いが可能となります。
PCR検査機器は全国に無数に存在します。
臨床検査技師全てがPCR検査を行えるわけではありません
大学ではPCR検査の手技を身につけるための授業、実習はありませんでした。
研究室でPCR検査を行うことがなければ一度もPCR検査を経験せずに卒業する臨床検査技師もいます。
私は研究室に見学に行き、体験させてもらったことがありますが、2、3回行った程度でしたのでPCR検査の手技は習得していません。(トレーニングを受ければできるようになると思います)
また病院勤務の臨床検査技師であっても配属される部署によってはPCR検査を全くしたことがないという人がいてもおかしくはありません。
山中先生、本庶先生の提言
山中氏は大学などの施設も活用したPCR検査の必要性を説き、「今の10倍、100倍くらいPCR能力を上げて、隔離していく、これによって経済の再開が促進されていくのでは」。
日刊スポーツ 2020年5月6日
反町理キャスター:
BSフジLIVEプライムニュース 2020年4月27日
PCR検査の技術者数の不足は?
本庶佑 京都大学大学院 特別教授:
実際、この検査は大学研究室でもできる。試算したが、技術者3人の組で1日に100検体はこなせる。1万の検査のためには技術者300人。9時から17時勤務で、と考えると全く問題はないし、僕は制度の問題だろうと思っています。
正しいことを言っています。制度の問題です。
臨床検査技師よりも大学や研究室で毎日のようにPCR検査を行っている人達の方が手技は優れていると思います。
こういう人達にどうしてお願いしないのでしょうか?
新型コロナウイルス、検査体制の拡充が後手に回った裏事情
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/20/02/28/06625/
深刻化する状況に、厚労省や感染研は2月上旬から、検査体制拡充に向けて受託検査会社へ遺伝子検査の実施の打診を始めた。ただし、感染研が確立したのは、自家調整の遺伝子検査。一般的に自家調整の検査というのは、承認された体外診断薬とは異なり、「事前に必要な試薬を集めて調整したり、検査の質を確認したりといった作業が必要になる」(専門家)。
日経バイオテク 2020.02.28
感染研が、自家調整の遺伝子検査と、Roche社の研究用試薬を使った遺伝子検査が「同等である」と確認し、マニュアルに載せたのは、2月13日になってからだった。
研究用試薬の導入がここまで遅れた理由について、複数の専門家は、「自家調整の遺伝子検査は臨床向けに開発されているので問題ないが、研究用試薬は研究向けなので、厚労省は使わせたくなかったというのが本音だろう」と口をそろえる。
全自動PCR検査システム
そもそも日本の何十倍もPCR検査を行っている世界各国は全て手作業でPCR検査を行っているのでしょうか?
世界のPCR検査は日本の技術が支えているのに日本では活躍できない岩盤規制の皮肉
https://news.yahoo.co.jp/byline/kimuramasato/20200509-00177769/
「世界各国が新型コロナウイルスと戦っています。フランスにおいて弊社と仏エリテック社が共同開発した全自動PCR検査システムと試薬キットがウイルス検出に大きな役割を果たしていることで駐日フランス大使よりお礼状を頂きました」
「イタリアの最前線で行われている全自動PCR検査機器の一つにエリテック社製のものがありますが、日本メーカーのOEM製品です。つまり、日本の会社がエリテック社の製品を製造してあげているのです」
日本では富士フィルムや島津製作所が全自動PCR検査用の試薬やキットを開発するなど競争が激化していますが、PSS社の装置や試薬はまだ厚生労働省に認可されていないそうです。海外ではすでに使われているのに国内では使えないというのが日本の悲しい現実のようです。
田島社長の話では検査技師の手作業に頼るPCR検査には6~12時間かかるものの、PSS社のシステムでは平均して2時間ぐらいまで短縮できるそうです。
まとめると
コロナウイルスPCR検査や臨床検査技師に関する報道は間違ったものが多いです。
日本にはPCR検査を行う技術、施設、機械、人材が揃っていますが活用されていません。
活用することができない原因は本庶先生の言うように制度(システム)の問題です。
いつまでこの状態が続くのでしょうか?