手を洗う救急医Taka氏がPCR検査の実施について述べていますので検証します。
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救急医Taka氏
感度90%、特異度99.99%という前提は良いと思います。
問題は「事前確率30%の集団」という前提です。
「事前確率30%の集団」
「事前確率30%の集団」とは一体どのような集団でしょうか?
大阪府は4月中旬には検査体制が飽和しており、PCR検査10日待ちという状況にありました。
PCR検査、大阪で最長10日待ち 医師「保健所受け付けず」―民間委託で拡充急ぐ
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020050300126&g=soc
しかし、感染者の4割が集中する大阪市では4月中旬、相談から検査までに最長10日間かかっていた。重症者やクラスター(感染者集団)の検査を優先したが、待機中に容体が急変して入院した人もいたという。大型連休中で検査が減少した1日時点でも、5日程度の待ち時間が生じていた。
2020年5月4日 JIJI.com
このような状況(重症者やクラスターの検査を優先)での大阪府の1日の最大陽性率は4月9日の27.0%です。
http://www.pref.osaka.lg.jp/attach/35718/00359868/0514flip.pdf
「事前確率30%の集団」というのは日本では非常に特殊な集団になります。
考えられる集団としては次のような集団でしょう。
- 有症状者(感染多発地域)
- 濃厚接触者(感染者と長時間接触等)
この状況での検査陰性について考えてみます。
「事前確率30%の集団」の陰性者
①有症状者について
事前確率が30%もある有症状者であれば重篤な症状を呈している可能性があります。(肺炎患者、高熱が続く患者等)
また感染者がほとんど発生していない地域であれば有症状者であっても事前確率が30%ということは無いでしょうから、感染者が多く出ている地域での有症状者ということになります。
もしこういう人がPCR検査陰性であっても入院する場合や症状が続く場合は翌日以降の再検査を検討すべきであると考えます。
②濃厚接触者(感染者と長時間接触等)
検査が陰性であっても発熱等の症状が出るようなら再検査の対象にすべきであると考えます。
「事前確率30%の集団」の陰性者について「マスクありで飲み会」云々は明らかにピントがずれています。
「事前確率30%の集団」の陰性者は極力外出をしてはいけません。
そもそも行政検査としてPCR検査を受けた場合は通常自治体から行動自粛の要請がありますので「飲み会に参加するかどうか」ということは命題にすらならないはずです。
https://www.pref.miyazaki.lg.jp/kansensho-taisaku/covid-19/utagai/20200808180643.html
https://www.city.itabashi.tokyo.jp/kenko/kansensho/mers/1026554/1026556/1026577.html
いろいろと問題のある主張です。
順番にみていきます。
事前確率0.01%の集団について
「事前確率0.01%の集団」とはどのような集団でしょうか?
12月12日の日本の感染者数は推定11,093人です。
https://covid19.healthdata.org/japan?view=infections-testing&tab=trend&test=infections
12月12日の日本の陽性者数は3,012人です。
https://toyokeizai.net/sp/visual/tko/covid19/
これらのことから捕捉率(検査で感染者を発見している率)は27.2%と推測されます。
捕捉率から推定感染者数を求めます。(12月12日段階)
推定感染者数から「検査を受けていない感染者」数を求めます。
「検査を受けていない感染者」を「濃厚接触のない無症状者」と仮定し、事前確率(各地域で無症状者がランダムに検査を受けた場合に陽性となる確率)を求めます。
陽性者1週間平均(概算) | 1日の感染者数(推定) | 検査を受けていない感染者数 | 人口 | 検査を受けていない感染者数 /人口 × 100(%) | |
大阪府 | 350 | 1,284 | 934 | 8,839,469 | 0.0105 |
東京都 | 460 | 1,688 | 1,228 | 13,515,271 | 0.00908 |
北海道 | 180 | 660 | 480 | 5,381,733 | 0.00893 |
愛知県 | 200 | 734 | 534 | 7,483,128 | 0.00713 |
神奈川県 | 180 | 660 | 480 | 9,126,214 | 0.00526 |
「事前確率0.01%の集団」は東京都、大阪府の無症状者(濃厚接触者でもない)ということになります。(あくまでも簡易計算ですので感染多発地域では異なります)
このような人達が検査を希望する場合としては「里帰りのための検査」が考えられます。
「里帰りのための検査」を受けた人がそれまで通りの生活を続ければ感染の確率は低いままです。
「検査を受けた帰りに感染する確率」も低いはずです。
こういう場合に何度も検査を受ける必要はありませんし、希望するはずもありません。
「毎日検査」というのは「事前確率0.01%の集団」に対しては通常検討する必要はありません。
「毎日検査」を検討しなければいけないのは「事前確率30%の集団」で陰性であった場合(入院が必要な肺炎患者等)です。
「事前確率0.01%の集団」に対する話で「毎日検査」という話が出てくるのは理解に苦しみます。
(検査後に感染者との濃厚接触があった等の事情があれば話は別ですが)
ところで「事前確率0.01%の集団に対する検査」を最優先で行うべきと主張している人が一体どこにいるのでしょうか?
大阪府や愛知県のように濃厚接触者の検査でさえ、充分に行えない検査体制を一番の問題にしているのです。
こういう状況でほとんど誰も強く主張していない「事前確率0.01%の集団に対する検査」を批判する目的は一体何なのでしょうか?
費用対効果について
検査の有用性を考えるのであれば「検査対象の集団」と「検査の目的」を明確にすべきです。
「里帰りのための検査」と「世田谷区の社会的検査」について考えます。
「里帰りのための検査」について
東京都や大阪府の人が「里帰りのための検査」を受ける場合について考えます。
- 検査目的:里帰り先で感染を広げないこと
- 検査方法:唾液の1検体。検査所に出向いて自己採取
- 検査費用:1件1,980円(民間の最安価格)
PCR検査1980円、東京駅近くに開業 初日はアクセスが殺到…「需要ここまでとは」
https://www.tokyo-np.co.jp/article/73576
新型コロナウイルスのPCR検査が1回1980円(税込み)で受けられる施設が10日、JR東京駅近くにオープンした。施設の運営会社は「無症状の感染者の発見につなげたい。気軽に安心して検査を受けてほしい」と話している。
2020年12月11日 東京新聞
検査の一番の目的は里帰り先で感染を広げる確率を減らすことです。
(感染者発見の多寡はこの場合の検査の有用性と直接関係ありません)
検査方法は唾液の1検体で検査所に出向いての自己採取であれば検体採取者や検体採取のための防護服等は必要無くなります。
検査の有用性についてはそれまで通りの生活を送り(感染対策をしながら)、陰性を確認してから里帰りをするのであれば有用な検査であると考えます。
ただし、このような検査を行政検査として公費で行うべきかどうかについては別問題です。
現在の所は優先順位は低いので自費検査で良いと考えます。
(検査を受けられない場合、里帰りを諦めていた人達が里帰りをすることでの経済効果を考えると行政検査でも良いという考え方もあると思います)
「世田谷区の社会的検査」について
- 検査目的:集団感染発生時の影響が大きい集団で集団感染発生の確率を下げる
- 検査方法:施設に出向いての検査。1検体?。自己採取(鼻腔ぬぐい液、唾液)
- 検査費用:1件1.6万円(21,000件で3億3800万円)
https://www.city.setagaya.lg.jp/mokuji/fukushi/003/005/006/011/d00188032_d/fil/QandA.pdf
https://www.city.setagaya.lg.jp/mokuji/fukushi/003/005/006/011/d00188032.html
検査の一番の目的は集団感染発生の確率を下げることです。
(感染者発見の多寡はこの場合の検査の有用性と直接関係ありません)
検査費用はプール方式の導入等でもう少し下げることができると考えます。
検査の有用性は分科会も認めており、行政検査として行われています。
介護職員らの陽性率上昇 世田谷区の「社会的検査」
https://www.asahi.com/articles/ASNCS71JLNCNUTIL02X.html
新型コロナウイルス対策として、東京都世田谷区が無症状の介護職員らを対象に進めているPCR検査で、陽性率が高まっている。区は、検査数をさらに増やすため、複数の検体をまとめて検査する「プール方式」の導入を国に要請する方針だ。
この検査は、クラスター(感染者集団)化を未然に防ぐために区が10月から独自に始め、「社会的検査」と呼んでいるもの。症状の有無にかかわらず、区内の介護施設や障害者施設、保育園や幼稚園、小中学校などで働く人が対象だ。希望する施設に定期的に検査する「定期検査」と、感染者が出た施設を調べる「随時検査」がある。
区によると、10月2日から今月1日までの検査数は576人(45施設)で、うち陽性者は2人。陽性率は0・3%だった。だが、2日から22日までの960人(45施設)のうち、陽性者は18人に上り、陽性率は1・9%まで跳ね上がった。保坂展人区長は「まだ検査数が少なく単純には比較できないが、東京でも感染者が増えている。その影響を受けているのではないか」と話す。
2020年11月25日 朝日新聞デジタル
このように検査の有用性について考える場合は「検査対象の集団」と「検査の目的」を明確にする必要があります。
「感染者をいかに多く見つけるか」だけが検査の目的ではありません。
PCR検査の実施の有無を検討する場合にはもう少し丁寧な議論が必要ですね。