コロナウイルス感染症

コロナウイルスPCR検査の感度について

北大病院の調査で唾液検体を用いたコロナウイルスPCR検査の感度が90%であるということがわかりました。

PCR「唾液検査」も精度9割、北大病院が2000人調査

北海道大学病院は29日に札幌市で記者会見し、新型コロナウイルスを検知する唾液によるPCR検査の精度が90%に達したとの調査結果を発表した。2000人弱を検査し、従来の鼻の奥の粘膜を採る「鼻咽頭ぬぐい液」法と同程度の精度を実証した。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO64379730Z20C20A9L41000/

https://academic.oup.com/cid/advance-article/doi/10.1093/cid/ciaa1388/5911780

「Bayesian latent class model」という統計手法が用いられています。
この手法は参照となるゴールドスタンダードが存在しない場合に有病率、感度、特異度を推測するために用いられるようです。

当記事では全く異なるアプローチでコロナウイルスPCR検査の感度を推測してみます。

追記
北大の研究での統計手法に問題があると主張する人達がいます。
それによりPCR検査の感度を過大評価している可能性があるとのことです。
これについての評価は保留しておきます。
この研究でのPCR検査の感度は1検体での感度です。
日本ではコロナウイルスPCR検査は2検体以上(大阪を除く)で検査されていますので2検体での感度で考えると非常に高い感度になると考えます。
従って記事の論旨そのものには影響しないと考えます。

和歌山県の公開情報

和歌山県は感染者の情報をプライバシーに配慮した上で詳細に公開しています。

https://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/041200/d00203387.html

和歌山県ではコロナウイルスの検査が陽性に至るまでの経緯を公開していますので、何度目の検査で陽性になったかがわかります。
2度目の検査で陽性になった場合は1度目の検査は偽陰性であると解釈します。
ただし、次のような事例は解釈が難しいので除外します。

回復過程の事例であると推測されます。
抗原検査は偽陽性、PCR検査は偽陰性の可能性がありますが立証は困難です。

集計結果

1回目の検査で陽性2回目の検査で陽性3回目の検査で陽性4回目の検査で陽性除外
21525017

偽陰性が合計28件、真陽性が合計215件ですので感度は215/215+28×100=88.5%と推測されます。

偽陰性の事例のほとんどが無症状者の濃厚接触者(21件)でした。
これらの多くは陰性結果の後に症状が出て再検査で陽性となっています。
この原因としては潜伏期間中のウイルスが少ない時期に検査をしているためであると考えられます。
しかし、このことから無症状の濃厚接触者の検査をすべきではないと考えるのは早計です。
無症状の濃厚接触者でも1回目の検査で陽性となる事例が多数確認されています。

同時にわかることは有症状者の検査ではほとんど偽陰性は出ていないということです。

これらのことから適切な時期に検体採取を行えば、ほぼ正確な結果が得られると考えても良いと思います。
無症状者の検査をほとんど行っていない自治体では、さらに高い感度となっている可能性があります。(無症状者の検査をしないのは良いことではありませんが)

実際は偽陰性にもかかわらず、無症状のまま治癒してしまい判明しない例も含まれると考えられます。
しかし、そういう事例はウイルス排出量も少ないでしょうから、周囲に感染を広げる可能性は低いと考えられます。
従って補足できていない偽陰性の事例は臨床上、公衆衛生上無視しても問題無いと考えます。

9月30日までの集計ですのでこの後、9月中に検査を行ったものから偽陰性事例が出る可能性があります。
しかし、大きく数字が変わる事は無いと思います。

4回目の検査で陽性の事例の経緯は次のようになっています。

非常に稀な事例であると思います。

コロナウイルスPCR検査の感度は88.5%という結果が得られましたので北大病院の調査とほぼ同じ結果となりました。
今まで散々PCR検査拡充論者が主張してきたPCR検査の感度の高さが立証されました。
PCR検査の感度が70%という主張を続けていた人達はどうするつもりでしょうか?

コロナウイルスPCR検査の感度が70%以下であると主張していた人達

一部ですが紹介します。

今日から新型コロナPCR検査が保険適用に PCRの限界を知っておこう
感染症専門医 忽那賢志

私は現時点で約15例の新型コロナウイルス感染症の患者さんを診療していますが、初回のPCR検査が陰性で、それでも疑わしいからということで行った2回目・3回目の検査でようやく陽性と判明した事例が少なからずあります。感覚的なものですが、咽頭や鼻咽頭のスワブを用いたPCR検査の感度は70%くらいかなと感じています。つまり30%の方は本当に新型コロナウイルス感染症なのにPCR検査で陰性と出てしまうということです。

https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20200306-00166273/

新型コロナ、PCR検査拡大は慎重に 誤判定がもたらす危険性
九州大学教授 馬場園明

PCR検査を拡大しない背景には、医学的な理由がある。最も重要な点は、検査の精度が低いことである。検査の精度は、感度と特異度の2つの観点から評価する。感度は感染者を陽性と判定できる確率であり、特異度は非感染者を陰性と判定できる確率である。PCR検査の感度は最大70%とされており、感染者の30%は検査で陰性と判定される。

https://www.jcer.or.jp/blog/babazonoakira20200415.html

新型コロナ、なぜ希望者全員に検査をしないの?  感染管理の専門家に聞きました
聖路加国際病院 坂本史衣

ーー検査の精度はどれぐらいだと考えたらいいのでしょうか?

検査の有用性を評価する指標に、「感度」「特異度」「的中率」があります。
感度とは、その検査が、陽性の人を正しく陽性と判定できる確率です。新型コロナウイルスによる感染症 (COVID-19)を引き起こすウイルスである「SARS-CoV-2」のPCR検査の感度は、30~50%や70%だという報告がありますが、いずれにしても100%ではありません。

https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/covid-19-sakamoto?utm_source=dynamic&utm_campaign=bfsharetwitter

専門家に根掘り葉掘り!新型コロナの薬・ワクチン・検査
分子ウイルス学、免疫学研究者 峰宗太郎

:そう。逆に、ステップ数が多いだけに、そもそもちゃんと検体を採取できていないとか、途中でもともと不安定なRNAが分解してしまったとかで、あるものを「ない」、つまり感染しているのに陰性と判断する可能性も高い。「感度」、すなわち、陽性の人を陽性だと正しく判定できる割合は決して高くないんです。だいたい70%ぐらいと言われています。こういう、陽性なのに陰性と判断された人を「偽陰性」といいます。

https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00164/052700002/?P=2

無症状の妊婦に新型コロナPCR検査はすべきでない
宮城県立こども病院産科部長 室月淳

第一に、PCR検査で全例検査しても「スクリーニング(ふるい分け)」としてはあまり役立ちません。このことには少々解説が必要です。 PCR検査の特異度(陰性の人を正しく陰性と判定する割合)は99%以上といわれていて、この特徴を持つために診断確定に適した検査です。その一方で感度(陽性の人を正しく陽性と判定する割合)は40~70%と低く、感染の見逃しが半数近くと高くなります。

https://webronza.asahi.com/science/articles/2020061600001.html

妊婦はPCR検査を受けるべき?
東邦大学医学部 中田 雅彦

おおまかですが、このPCR検査では、感度が約70%、特異度がおよそ99.9%と言われています

http://tiny-life.org/pcrpregnancy/

超重要‼︎ 新型コロナ対策の戦略は「正しく診断」ではなく、「正しく判断」【岩田健太郎教授・感染症から命を守る講義⑩】
感染症専門医 岩田健太郎

じつは病院で使うインフルエンザの迅速キットって、結構間違えるんです。新型コロナウイルスのPCRと同じく6割程度の感度しかありません。

https://www.kk-bestsellers.com/articles/-/373401/2/

必要なのは、全ての無症状者への徹底的なPCR検査ではない。尾身会長「100%の安心は残念ながら、ない」
分科会会長 尾身茂

PCR検査の感度が70%であるという点についても、疑義が示されている。感度とは、検査が陽性者を正しく陽性者と判定する割合のことだ。高いほど見逃しが少ないということになる。

尾身会長は以下のように語った。

「検査自身の能力だけでなく、検体が取れないといった技術的問題で、陽性者のうち30%が見逃される。ウイルスがあまり排出されていない時期に検体を採取すると、(見逃しは)もっと大きくなります

https://www.buzzfeed.com/jp/yutochiba/senmonka-bunkakai-2-2?origin=shp

この人達は一体いつになったら訂正するのでしょうか?
感度70%と主張していた根拠は論文ですという言い訳は通用しません。
この人達のやっていたことは不適切な論文の引用と解釈です。

論文を読まない、読めない医師達 コロナウイルスPCR検査の感度は71%であるという論文を紹介し、検討しました。 https://tatsuharug.com/p...

「コロナウイルスPCR検査の感度は70%以下である」という主張がどれだけ検査拡充の足を引っ張ったことでしょうか?
到底許されることではありません。

追記
検査感度は使用する検査キット、検査回数、検査対象によっても変化します。
日本では陽性一致率、陰性一致率ほぼ100%のキットを用い、2検体で検査を行ってきました。(大阪は1検体。自治体によって異なる可能性はあります)
5月末までは無症状の濃厚接触者への検査はほとんどの自治体で行われませんでした。
(和歌山の事例を見てわかるように無症状者への検査が増えると偽陰性が増える可能性があります)

高精度の検査キットを用い、2検体で、ほとんどは有症状者に対して検査を行った場合の検査感度が70%のはずがありません。

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