コロナウイルス感染症

論文を読まない、読めない医師達

コロナウイルスPCR検査の感度は71%であるという論文を紹介し、検討しました。

コロナウイルスPCR検査の感度97%という論文 PCR検査の感度が低いとされていることに疑問を持ち、記事を書きました。 https://tatsuharug.com/coron...

他にもPCR検査の感度は低いとする論文がありますので検討します。

PCR検査の感度が60%程度であるとする論文

Ai T, et al. Correlation of Chest CT and RT-PCR Testing in Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) in China: A Report of 1014 Cases. Radiology, 2020. https://pubs.rsna.org/doi/full/10.1148/radiol.2020200642

前回紹介したPCR検査の感度が70%であるとする論文とこの論文は日本疫学会のサイトで紹介されています。

簡単にまとめます。

現在の中国のガイドラインではCOVID-19の診断はRT-PCR検査もしくは遺伝子シークエンスによって行う必要があります。
現在のような緊急事態ではRT-PCR検査の感度は低く、COVID-19の患者を特定できずに適切な治療を受けられない可能性があります。
胸部CTは肺炎診断のためのルーチン検査として比較的容易に行うことができ、迅速な診断が可能となります。
胸部CTの診断的価値を評価するため、COVID-19が疑われる1014人の患者の胸部CTとRT-PCR検査の結果を比較しました。

方法:
中国の武漢で胸部CTおよびRT-PCR検査の両方を受けた1014人について比較検討した。胸部CT検査とRT-PCR検査の実施日が7日以上あいている患者35人は除外した。

結果:
1014人中
308人がPCR検査陰性でCT検査でウイルス性肺炎の所見がありました。
580人がPCR検査陽性でCT検査でウイルス性肺炎の所見がありました。
21人がPCR検査陽性でCT検査でウイルス性肺炎の所見はありませんでした。
105人が PCR検査陰性でCT検査でウイルス性肺炎の所見はありませんでした。

PCR検査の陽性率は59%(601/1014)でした。このうち97%(580/601)がCT検査でも陽性でした。
PCR検査が陰性であった413人のうち75%(308/413)がCT検査で陽性でした。

CT検査が陽性の患者は888人でした。PCR検査の結果を元に胸部CTの感度、特異度、精度を求めるとそれぞれ97%、25%、68%でした。

258人の患者が複数回PCR検査を受けました。最初に陰性結果が出てから陽性になるまでは平均5.1日で中央値は4日でした。

考察:
PCR検査とCT検査について長々と考察が行われています。興味のある方は読んでみて下さい。重要な所を抜粋します。
本研究にはいくつかの制限があります。
1つは参照として比較的低い陽性率のRT-PCRアッセイを用いたことにより、胸部CTの感度は過大評価され、特異度は過小評価される可能性があることです。
もう一つは地域の病院が過負荷になっている緊急事態では臨床および検査データは制限されていました。

研究が行われた環境

2020年1月6日から2月6日に武漢にある病院で行われた研究です。
武漢は1月23日から4月8日までロックダウン(都市封鎖)が行われていました。
論文にも地域の病院が過負荷になっている緊急事態とあるように医療崩壊が起きている、起きつつある状態で行われた研究であるということが大前提です。
理由は明記していませんが陽性率の低いRT-PCRアッセイを用いたのは医療崩壊が起き、検査キットが不足している状況にあったからかもしれません。

この前提を踏まえた上でこの論文を解釈します。

この論文の解釈

これらのこととPCR検査の感度は97%であるとする論文(1)から

  • 医療崩壊が起こったような状態では検査を行う環境の悪化(検査キットの不足、検体取り扱い状況の悪化等)により、PCR検査の感度は低下する
  • PCR検査の感度が低下するような医療環境では迅速に行えるCT検査の方が有用な場合がある

不思議な解釈をする医師達

この論文を根拠としてPCR検査の感度は低いと主張する医師達がいます。論文を読んでるのでしょうか?
日本疫学会のサイトではこの論文とPCR検査の感度は71%とする論文を紹介した上でPCR検査の感度は60~70%としています。

このように、新型コロナウイルスに既に感染していると考えられるのに、早い段階では、60~70%くらいしかPCR検査が陽性にでない可能性が報告されています。

日本疫学会 新型コロナウイルス感染予防対策についてのQ&A

他にも医療ジャーナリストの村中氏は次のように主張しています。根拠としている論文は不明です。

医療ジャーナリスト・村中璃子氏が指摘PCR検査「万能薬ではない」

PCR検査については感度が70パーセント程度と低く、偽陰性が30パーセント程度出てくるリスクがあり、精度を高めるためには複数回の検査が必要とされている。

東京スポーツ  2020年5月5日

日本には論文を読まない、読めない医師が多いですね。

参考文献(1)
Xie X, et al.Chest CT for Typical 2019-nCoV Pneumonia: Relationship to Negative RT-PCR Testing. Radiology, 2020.
https://pubs.rsna.org/doi/10.1148/radiol.2020200343

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