コロナウイルス感染症

コロナウイルスPCR検査の感度が70%でクラスター対策は可能なのか?

コロナウイルスPCR検査の感度70%というのはPCR検査の感度、特異度はほぼ100%、検体採取成功率70%と同じ意味です。
詳しくは下の記事を参照して下さい。

コロナウイルスPCR検査の陽性、陰性の定義の問題点 PCR検査の偽陰性について記事にしました。 https://tatsuharug.com/pcr-false-negative ...

日本ではクラスター発生時のクラスター対策はある程度上手くいっていると思います。
その前提としてPCR検査の感度が非常に高いものである必要があります。
ところがPCR検査の感度が70%であるという意見を堅持する人達がいます。
PCR検査の感度が70%でクラスター対策は可能なのかを考えます。

愛知県のクラスター事例

愛知県の感染者111人(死者8人、3月12日)時点の関係性をみると、主に<1>スポーツクラブ、<2>デイサービスの2集団と、<3>その他・経路不明に分けられる。<1>スポーツクラブ集団は、ハワイから帰国した名古屋市の60代夫婦から始まった。妻(2月15日判明)が利用したスポーツクラブAでは利用者10人が感染。うち2月19日判明の50代女性が感染を知らず利用した施設でも8人感染。帰国夫婦に関係する感染はこの時点で知人、家族など含め39人に上る。

<2>デイサービス集団は、名古屋市内で入院した70代女性が2月29日に判明したことがきっかけ。同居の1人が利用するデイサービスAで利用者5人が感染。うち80代女性(3月3日判明)が別の施設を利用し、さらにほかの施設利用者や家族ら接触者に広がった。県は10日夜時点でデイサービス関係の感染者を45人と発表している。

https://www.nikkansports.com/general/nikkan/news/202003140000022.html

https://www.nikkansports.com/general/nikkan/news/202003140000022.html より

感染者をまとめると次のようになります。

  • スポーツクラブA・・・10人
  • スポーツクラブB・・・6人
  • デイサービス関係・・・53人
  • 経路不明・・・15人
  • 家族内感染・・・3人
  • 家族内感染・・・4人

等となっています。

PCR検査の感度が70%であると仮定すると

PCR検査の感度が70%であると仮定すると30%は感染者を見逃していることになります。
従って上記の真の感染者数は次のようになります。

  • スポーツクラブA・・・14.3人
  • スポーツクラブB・・・8.6人
  • デイサービス関係・・・75.7人
  • 経路不明・・・21.4人
  • 家族内感染・・・4.2人
  • 家族内感染・・・5.7人

これを元にクラスター図を書きかえると次のようになります。

見逃した感染者には家族がいるでしょうし、見逃した感染者との濃厚接触者もいるでしょう。
しかし、その人達は検査対象にも観察対象にもなりません。
これだけの感染者を見逃していてクラスターを収束させられるのでしょうか?

PCR検査の感度が70%で偽陰性者が感染を広げるとした場合

PCR検査抑制論を唱える人達の多くはPCR検査の感度は70%であり、偽陰性者が感染を広げると主張します。

新型コロナ、PCR検査拡大は慎重に 誤判定がもたらす危険性
馬場園明

PCR検査の感度は最大70%とされており、感染者の30%は検査で陰性と判定される。

検査で陰性とされた感染者はリスクの高い行動、例えば、人との接触や外出などの行動を取ってしまう可能性が高くなる。

https://www.jcer.or.jp/blog/babazonoakira20200415.html

新型コロナのPCR検査、誰でも受けられるようになるの? 検査の疑問に感染症医が答えます
高山義浩

実は、新型コロナウイルス感染症に対するPCR検査の感度は高くありません。諸説ありますが、おそらく70%以下だと思われます。

検査をして陰性であれば、皆さん、自分は大丈夫だ、ただの風邪だと思ってしまいますよね。そうやって、外出を自粛せずに仕事をしたり、遊びに行ったりするかもしれません。これでは、感染拡大の原因になってしまいますね。

https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1085774.html

【識者の眼】「新型コロナウイルス感染症:軽症者に外来でPCR検査を行ってはいけない理由」
川口篤也

⑥新型コロナウイルスのPCR検査の感度はそれほど高くない(おそらく70%を下回る…確定の数字ではない)ため、結果が陰性だった患者が新型コロナウイルス感染症ではないと思い、自宅療養を続けずに職場などで感染を増やすリスクが増す。

https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=14161

新型コロナウイルスの検査に期待が高まる?検査はどこまで万能なのか
園田唯

新型コロナウイルスに対する現状のPCR法の感度について暫定的な報告が出されており、30-50%とも70%ともいわれています。

https://medley.life/news/5e5c80ee808fea1f58d343e1/

感染症内科医が伝えたい新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の検査について
伊東直哉

現在行われているPCR検査の精度には限界があります(詳しくはこちらのコラムで説明しています)。

検査が陰性だった患者さんの中に一部存在する感染者が、心の油断から症状があっても外出し、感染を拡大させてしまう可能性があること

https://medley.life/news/5e57baa5808fea5549b6c615/
こちらのコラムとは上記の園田氏のコラム

PCR検査を行っても免罪符にはならない
岡秀昭

さて、ここまで頼りにされる新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)へのPCR検査は優れた検査なのであろうか。検査によって本当に陰性証明が出せる、あるいは心から安心できるためには、検査陰性で除外できる高感度の精度が求められる。しかしながら、現在までの報告から推定するとその感度は良くて70%ほどではないかと言われている1)

検査が陰性だと安心する……。その安心感は“精神安定剤”として働くのかもしれない。しかし、その副作用は大きい。場合によっては感染予防策への油断を生んでしまい、かえって感染が拡大する懸念がある。一般の人は陰性という検査結果に喜び、外出してしまうかもしれない。

https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/t344/202004/565272.html

必要なのは、全ての無症状者への徹底的なPCR検査ではない。尾身会長「100%の安心は残念ながら、ない」
尾身茂

尾身会長は以下のように語った。

「検査自身の能力だけでなく、検体が取れないといった技術的問題で、陽性者のうち30%が見逃される。ウイルスがあまり排出されていない時期に検体を採取すると、(見逃しは)もっと大きくなります」

「偽陰性になると、本人は良かったと思って出歩く可能性がある。そうすると、感染を広げるリスクとなります」

https://www.buzzfeed.com/jp/yutochiba/senmonka-bunkakai-2-2?origin=shp

本当にPCR検査は必要か?
佐々木淳

新型コロナのPCR検査の場合、感度は50~70%(ここでは70%で計算)、特異度は99%程度であると想定します。

一方、新型コロナに感染しているにも関わらず、検査結果が陰性に出た30%の人たちは、きっと安心して行動制限を緩め、結果として感染を拡大させてしまいます。

https://www.yushoukai.org/blog/pcr

テンプレートが配られているかのように同じようなことを言っています。
彼らには自分の意見というものが無いのでしょうか?
この2つの主張が事実であるとするならば、PCR検査で見逃された30%の偽陰性者が町中でリスクのある行動を取るということになりますので クラスターを収束させることは絶対に不可能です。
PCR検査抑制論を唱えることでクラスター対策の実効性を否定することになっていることに彼らは気づかないのでしょうか?

PCR検査の感度をPCR検査抑制論者の主張から推測すると

PCR検査の検体は下気道由来検体と鼻咽頭ぬぐい液の2検体を用いて検査されてきました。
新たに唾液検体が使用可能となりました。
何検体用いて検査をするのかは自治体によって異なります。

大阪府、PCR検査は検体数減らして対応 現場は「余裕ない」

新規陽性者を確認する検査の数は3月31日に254人分だったが、4月4日に300人を、10日に400人を超えた。15日は494人で、18日には最多の580人に上った。

急増の要因として挙げられるのが、医療機関で痰(たん)と鼻粘膜の2検体を採取していた方法を10日から1検体に減らしたことだ。

https://www.sankei.com/west/news/200420/wst2004200033-n1.html

記事にあるように大阪のような余裕のない地域を除けば、2検体以上で検査が行われていると考えられます。

新型コロナ、PCR検査拡大は慎重に 誤判定がもたらす危険性
九州大学教授 馬場園明

PCR検査の感度は最大70%とされており、感染者の30%は検査で陰性と判定される。 【3】

【3】 Ai T, et al. Correlation of Chest CT and RT-PCR Testing in Coronavirus Disease.2019 (COVID-19) in China: A Report of 1014 Cases. Radiology. 2020

https://www.jcer.or.jp/blog/babazonoakira20200415.html

新型コロナ、なぜ希望者全員に検査をしないの?  感染管理の専門家に聞きました
坂本史衣

感度とは、その検査が、陽性の人を正しく陽性と判定できる確率です。新型コロナウイルスによる感染症 (COVID-19)を引き起こすウイルスである「SARS-CoV-2」のPCR検査の感度は、30~50%や70%だという報告がありますが、いずれにしても100%ではありません。

https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/covid-19-sakamoto?utm_source=dynamic&utm_campaign=bfsharetwitter

感度70%のリンク先の論文は次のものです。
Sensitivity of Chest CT for COVID-19: Comparison to RT-PCR
https://pubs.rsna.org/doi/10.1148/radiol.2020200432

上記の2つの論文はいずれも中国の論文です。
以前記事にしましたが、これらの論文の解釈には注意が必要です。

論文を読まない、読めない医師達 コロナウイルスPCR検査の感度は71%であるという論文を紹介し、検討しました。 https://tatsuharug.com/p...

これらの中国の論文での感度70%というのは1検体での検査です。
この人達のように中国の論文を元に感度が70%であると考えるのであれば、日本の2検体以上での検査ではPCR検査の感度は90%以上となります。

PCR検査の感度が90%以上であればクラスター対策は可能でしょう。(実際はもう少し感度は高いと思います)

PCR検査の感度が70%であるという矛盾した主張を一体いつまで続けるのでしょうか?

この記事が気に入ったらフォローして下さい