コロナウイルス感染症

新型コロナウイルス感染症対策分科会「検査体制の基本的な考え・戦略(第2版)」について

新型コロナウイルス感染症対策分科会は「検査体制の基本的な考え・戦略(第2版)」を公開しました。
前回の提言と大きく変化は無く、相変わらず藁人形論法を用いてPCR検査を抑制しようとする意図がみえます。

基本的考え・戦略の要旨

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/bunkakai/kensa_senryaku_13.pdf

分科会は①、②aの検査を推奨、②bの検査を非推奨という立場です。

①有症状者についての検査

有症状者についての検査に抗原検査が加わっています。
抗原検査の感度、特異度の問題点には触れられていません。

抗原検査の偽陽性3件 青森県、適宜PCR実施

新型コロナウイルス感染の有無を調べる抗原検査について、青森県は2日、県内の医療機関でこれまで実施した行政検査400件(6月12日~10月現在)のうち陽性は3件で、偽陽性も3件あったことを明らかにした。偽陽性3件は、いずれも同時期に追加で行ったPCR検査で陰性と確定したため、誤った報道発表がされるなどの実害はなかった。

https://www.toonippo.co.jp/articles/-/418373

コロナ感染してないのに「陽性」 誤判定続く簡易キット

新型コロナウイルスに感染したと診断され、保健所に届け出された後に、実は感染していなかったと発覚するケースが最近相次いでいる。誤りに気づかれないまま入院、隔離される人の存在すら否定できない――。ある保健所担当者は話す。誤判定を減らすにはどうすればいいのか。

■その後のPCRは「陰性」
群馬県高崎市の黒沢病院では9月7日、職員1人が倦怠(けんたい)感やせきなどの症状を訴え、抗原検査の簡易キットで陽性となった。保健所に届け出たが、その後のPCR検査では陰性。職員の家族や濃厚接触者ら35人全員も陰性だったため、簡易キットの結果は、感染していないのに陽性と出る「偽陽性」だったと判断。2日後に届け出を取り下げた。

https://www.asahi.com/amp/articles/ASNB163F5N9ZULBJ019.html

相次ぐ「陽性」取り下げ 抗原検査、簡易迅速も精度低く

新型コロナウイルス感染症を巡り、抗原検査でいったん陽性者として発表されたものの、その後、訂正される事例が横浜市で相次いでおり、全国的にも散見されている。簡易で迅速な一方、精度が低いという抗原検査の弱点が浮き彫りになった形で、横浜市の船山和志・健康安全医務監は「検査結果だけで判断せず、症状や行動記録なども含めて総合的に診断してほしい」と呼び掛けている。

市では、8月23日から10月1日にかけて、計約1370人の感染を発表。そのうち、計7人の発生届が後日、医療機関から取り下げられた。1人は検査結果の誤認によるものだったが、6人は抗原検査で陽性とされたものの、その後のPCR検査の結果などを踏まえ、疑いが低いとされた。

https://www.kanaloco.jp/news/social/article-272175.html

抗原検査による偽陽性事例が多数報告されています。
有症状者の検査に抗原検査を用いることは適切なのでしょうか?

②a(無症状者 感染リスク及び検査前確率が高い場合)の検査

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/bunkakai/kensa_senryaku_13.pdf

無症状者であっても、濃厚接触者には検査を実施する

5月末以降、無症状の濃厚接触者は検査対象となりましたが未だにほとんど検査をしない自治体があります。

濃厚接触者の定義

●「濃厚接触者」とは、「患者(確定例)」(「無症状病原体保有者」を含む。以下同じ。)の感染可能期間に接触した者のうち、次の範囲に該当する者である。

・ 患者(確定例)と同居あるいは長時間の接触(車内、航空機内等を含む)があった者
・ 適切な感染防護無しに患者(確定例)を診察、看護若しくは介護していた者 ・ 患者(確定例)の気道分泌液もしくは体液等の汚染物質に直接触れた可能性が高い者
・ その他: 手で触れることの出来る距離(目安として 1 メートル)で、必要な感染予防策なしで、「患者(確定 例)」と 15 分以上の接触があった者(周辺の環境や接触の状況等個々の状況から患者の感染性を総合的 に判断する)。

https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/corona/2019nCoV-02-200529.pdf

濃厚接触者の定義が上記のようになっていますので、保健所の判断では濃厚接触者とみなされない事例として次のようなものがあります。

  1. 1m以内、15分以上の接触があってもマスクを着用している場合
  2. マスク着用の有無に関係なく1m以内、15分以上の接触が無い場合

①について:私はファクターXはマスクであると考えますが、マスクで100%感染防止できるとは考えません。

コロナウイルス感染症のファクターXは? 日本を含む東アジアは欧米諸国と比べ、コロナウイルス感染症による死亡者が少ないため、何らかの要因(ファクターX)があるのではないかとされ...

②について:エアロゾル感染の可能性が指摘されていますので接触が無いという理由で感染の可能性が低いとするのは不適切であると考えます。

冬を迎え、換気が不十分な環境でエアロゾル感染が増加する可能性があります。
今までの濃厚接触者の定義で良いのか?
濃厚接触者の認定が自治体でバラバラな状況を統一する必要が無いのか?
等、検討する必要があると思います。
ところが無症状の濃厚接触者については分科会の提言ではたった一行触れただけです。

地域や集団、組織等において、感染の広がりを疑う状況があるなど検査前確率が高く、クラスター連鎖が生じやすい(感染リスクが高い)と自治体において判断される場合には、当該地域等に属する者を対象とした検査を実施する。

全ホストクラブでPCR検査へ 東京・豊島、無症状でも

東京都内で、接待を伴う飲食店従業員らの間で新型コロナウイルスの感染が拡大していることを受け、池袋の繁華街を抱える豊島区は3日、区が把握するホストクラブ全9店舗の全ての従業員を対象にPCR検査を実施する方針を示した。発熱などの症状が出ていない人も含めるという。

https://www.asahi.com/articles/ASN736X61N73UTIL038.html

無症状者への検査も行っていますのでホストクラブでの検査はこの検査に該当するのでしょう。

コロナウイルスPCR検査の拡充を主張している児玉龍彦氏の「新宿モデル」をみてみます。

https://www.ric.u-tokyo.ac.jp/topics/2020/ig-20200716_1.pdf

新宿区が「感染の広がりを疑う状況にある地区」に該当すると考えるのであれば「新宿モデル」は②aの検査になります。
(感染集積地以外の地域については②aの検査に該当するのか意見が分かれる可能性があります。しかし分科会は基準を明確にしていませんので判断は不可能です)

検査対象としてホストクラブ以外にも感染が拡大している地域の飲食店、学校等での検査は必要無いのでしょうか?
迅速、頻回な検査が必要ですので抗原検査の適用を考えても良いのですが、分科会は検討しているのでしょうか?

医療機関や高齢者施設等には、高齢者等の重症化しやすい者が多いため、クラスターが発生した場合の影響が極めて大きくなることから、感染が1例でも出た場合など検査前確率が十分に高くない場合であっても、地域における疫学調査情報等も踏まえて同様の検査を実施できる。

世田谷区の定期検査(第一段階)は行政検査として認められましたのでこれに該当すると考えられます。
しかし、国は世田谷区が採用しようとしたプール方式の採用を認めませんでしたので足を引っ張っているようにみえます。

世田谷区のコロナウイルスPCR検査について 世田谷区の保坂区長は「いつでも、誰でも、何度でも」検査を受けることができるように検査体制の整備を続けています。世田谷区のコロナウイルス...

なお、入院時や手術前などの場合において、医師が必要と認める場合には検査を実施する。

事前確率を高めるために「医師が必要と認める場合」という条件を付けているのでしょう。
しかし感染者の多くが無症状者であり、多様な症状を示すコロナウイルス感染症を医師が事前に見分けることができるのでしょうか?

「17人のクラスター」患者から感染拡大 会津医療センター調査

新型コロナウイルスの院内感染が発生した福島医大会津医療センター付属病院(会津若松市)の大田雅嗣院長は5日、外来診療を受診後に入院した患者を起点に院内で感染が拡大したと推察される、とする調査結果を明らかにした。病院が調査結果を公表するのは初めて。病院では県内最多となる17人のクラスター(感染者集団)が発生した。

県庁で記者会見した大田院長によると、起点となった患者に発熱の症状はあったものの、肺炎の所見が見られなかったため入院時にPCR検査を行わず、基礎疾患の治療に重点を置いたという。入院後に症状が悪化したことからPCR検査を行い、陽性と判明。結果として同じ病室の患者やスタッフに感染が広がった。県アドバイザーの仲村究福島医大准教授は、起点となった患者の外来診療について「新型コロナを想定した対応ではなかった」と指摘。感染しているかどうか分からない状態で同じ病室にほかの患者がとどまり、スタッフも対応したため「接触や飛沫(ひまつ)などで感染が拡大した」と分析した。

病院を巡っては、9月11日に患者と職員計3人の陽性が判明。同23日までに患者6人、職員11人の計17人の感染が確認された。

大田院長は「入院後に感染が分かり、今思えば残念なケースだった」と説明。仲村准教授は「院内での感染を拡大させないためには積極的な検査が重要。全ての医療機関に対するメッセージにしたい」と語った。

https://www.minyu-net.com/news/news/FM20201006-544007.php

仲村准教授のメッセージは分科会に届いているのでしょうか?

分科会は②aの検査を推奨という立場を取りながら、②aの検査を実施するための検査体制拡充に関する提言は一切行っていません。

②b(無症状者 感染リスク及び検査前確率が低い場合)の検査

分科会の提言では②bの検査に多くのページが割かれています。
上記で見たように児玉氏の提案する「新宿モデル」や保坂区長の提案する「世田谷モデル」は②aの検査に分類されると考えられます。
(「新宿モデル」や「世田谷モデル」の一部は②aの検査に認定されない可能性があります。しかし分科会は基準を明確にしていませんので判断は不可能です)

②bの検査について分科会の提言をみてみます。

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/bunkakai/kensa_senryaku_13.pdf

②bの検査を幅広く行うことを批判しています。
これは感染者のほとんどいない地域での大量検査ということでしょう。

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/bunkakai/kensa_senryaku.pdf

例のごとく「偽陰性者が感染を広げる説」が出てきました。

コロナウイルスPCR検査の偽陰性者が感染を広げるという主張について コロナウイルスPCR検査で偽陰性であった人が安心して感染を広げると主張する人達がいます。彼らの主張を検証します。 和歌山県の事例...

新宿区民全員を一斉検査をする場合を考えていますが、児玉氏の「新宿モデル」ではそこまでの大量検査を想定していません。
新宿区民全員一斉検査というのは一体誰が主張しているのでしょうか?

そもそも感染者が多数出ている新宿区や東京都を引き合いに出すのは不適切です。

https://www.city.shinjuku.lg.jp/content/000298041.pdf

感染が拡大すれば、②aに該当する大量検査が必要になる可能性があります。
韓国では1週間で16万人検査(②aに該当)を行うようです。
日本では想定する必要が無いのでしょうか?

韓国、新型コロナの再拡大に赤信号…首都圏高齢者・精神病院従事者16万人調査

中央防疫対策本部もこの日、記者会見で「感染高危険群に対する精密防疫を強化するためにソウル京畿仁川(キョンギ・インチョン)など首都圏地域の高齢者・精神病院従事者と高齢者デイケア施設の利用者16万人を対象に先制的な全数検査を行う計画」と明らかにした。全数検査は今月中旬から始めて約1週間程度かかる予定だ。

https://news.yahoo.co.jp/articles/41320a65b2f0a4d9f459f1829e1a05b6d6cea959

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/bunkakai/kensa_senryaku_13.pdf

分科会はPCR検査の特異度を99.9%という異常に低い数値を用いて計算を行っています。
ベイズの定理を悪用する典型的な手法です。

ベイズの定理を悪用し、コロナウイルスPCR検査の有用性を否定する医師達 以前ベイズの定理を用いて事後確率を計算する時の注意点を記事にしました。 https://tatsuharug.com/bayes...

政府はインフルエンザ流行期に備え、コロナウイルス抗原検査を1日20万件に大幅拡充する目標を掲げています。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/novel_coronavirus/th_siryou/houkoku_r020828.pdf

抗原検査キットで1日20万件の検査を行った場合、感染状況に関係無く1日1,000件以上の偽陽性が出る可能性があります。

コロナウイルス抗原検査1日20万件の目標について 政府はインフルエンザ流行期に備え、コロナウイルス抗原検査(簡易キット)を1日20万件に大幅拡充する目標を掲げています。https://...

分科会は抗原検査の偽陽性は問題にしませんが、PCR検査の偽陽性は有り得ない数値を用いた計算を行い、問題視しています。

①、②aの検査よりも②bの検査を優先すべきと一体誰が主張しているのでしょうか?

行政検査として②bの検査を大量に行うべきではないというのは理解できます。
しかし、②bの検査を大量に行うべきとは一体誰が主張しているのでしょうか?

今回の分科会の提言では①の検査について1ページ、②aの検査について1ページ割いています。
ところが、ほとんど誰も主張していない②bの大量検査について6ページも費やしてPCR検査の批判を行っています。
藁人形論法に終始した提言です。

まとめると

②aの検査については濃厚接触者の定義の見直し、入院時、手術前の検査対象の見直し等、検討すべき課題は多数ありますが全く触れられていません。
分科会は②aの検査を推奨という立場を取りながら、②aの検査を実施するための検査体制拡充に関する提言は一切行っていません。

分科会はほとんど誰も主張していない②bの大量検査の批判にページの大半を費やしています。
抗原検査の偽陽性は問題にしませんが、PCR検査の偽陽性は有り得ない数値を用いた計算を行い、問題視しています。

分科会のこの提言は一体何の目的で作られたのでしょうか?
コロナウイルス対策のためとは到底思えない異常な提言です。
分科会は一体何と戦っているのでしょうか?

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