日本では安心のためにコロナウイルスPCR検査を受ける事が悪いことのようにされています。
多いのは次のような主張です。
自費のPCR検査 「安心のため」は避けて
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO61827540S0A720C2000000/
感染症専門医 水野泰孝氏
PCR検査で陰性だったからといって安心できるわけではない。検査後に感染する可能性があり、感染しているのに陰性となる場合もある。PCR検査の陰性の証明は医学的に根拠のあるものではない。
「一度検査して安心しても、翌日に感染すれば…」
https://www.buzzfeed.com/jp/yutochiba/senmonka-bunkakai-2-2
尾身茂氏
社会経済活動を感染の不安がない状態で回すため検査をし、陰性ならば活動範囲を広げる「陰性パスポート」という考え方がある。
これについて尾身会長は「証明で安心したい気持ちもよくわかる」「私もそういう気分になるかもしれません」と前置きをしたうえで、「今日陰性でも、次の日に感染する可能性がある」と、検査にまつわる根本的な問題点を指摘した。「1回安心しても、数日、数週間後に感染することは、十分にあり得ます」
PCR検査抑制論者がテンプレートでもあるかのように、このような主張を繰り返します。この主張の問題点について考えます。
Contents
無症状の濃厚接触者の検査
5月末以降、無症状の濃厚接触者については行政検査の対象になりました。
ところが全ての自治体で無症状の濃厚接触者の検査が行われているわけではありません。
動物病院に関係する業者さんの話です。
業者さんの社内で感染者が出て濃厚接触者が多数いましたが兵庫、名古屋、岡山では無症状の濃厚接触者は検査してもらえなかったとのことです。
8月の話ですが一体何をやっているのでしょうか?
日本では未だに無症状の濃厚接触者の検査が充分に行われていません。
このような状況では次のようなことが起こり得ます。
無症状の濃厚接触者の濃厚接触者になった場合
私は付き合いのある業者さん(Aさんとします)と会食を共にすることがあります。
(現在は自粛しています)
もしAさんの会社で感染者(Bさんとします)が発生し、私との会食の前にAさんとBさんが接触していた場合、私は濃厚接触者の濃厚接触者になります。
仮にAさんが無症状で検査をしてもらえなかった場合、私は当然検査対象にはなりません。
こういう場合、私が受ける被害について考えます。
私の関係図
私の関係図です。スタッフAの家族の子供にも当然学校の友人がいますので一部にすぎません。
私には家族がいますし、スタッフにも当然家族がいます。
私が仮に診察を続け、感染していた場合、上図の全ての人々に感染が広がる可能性があります。
このような状況で診察を続けることは不可能です。
私は自費でのPCR検査を受ける事を選択すると思います。
仮に検査結果が偽陰性であったとしてもウイルス排泄量が少ないのであれば診察を続けても周囲に感染を広げる可能性は低いです。
(当然ですが感染対策は継続し、症状が出た場合は休診にします)
次の日以降に感染する、しないはこの場合何の問題でもありません。
安心のために検査を受ける事の一体何が悪いのでしょうか?
検査基準を満たしていなかったにもかかわらず、検査を受けられなかった(受けなかった)ことで社会的、経済的負担が大きく、検査を受けた人がいます。
橋下徹氏です。
橋下徹氏
橋下氏が検査を受けるまでの経緯
橋下氏はコロナウイルスPCR検査には否定的な立場でした。
橋下氏は、「PCRも重症化するような人を見つける為に必要で、一般の人がPCRをどんどんやる必要はないんですよ」と反論。「はっきり言って10歳から40歳くらいの元気な人は、普通の風邪のような感じで家で寝とけって政府がバシっと言えばいいんですよ。全員PCRなんかやらなくていいんですよ。やれやれやれやれって不必要なこと煽るからおかしくなる。いらないんです。だって、やったってどうするんですか?」と私見を述べた。
サンスポ 2020/2/29
ところが一転、橋下氏は発熱、肺炎症状が無いにもかかわらず、コロナウイルスPCR検査を受けていたことがわかりました。
橋下氏がPCR検査を受けた理由
経済的損失
まず仕事のキャンセル。収入は大幅に減る。しかし日々の経費は出ていく。
https://president.jp/articles/-/33781?page=2
検査を受けられないと経済的損失が大きいです。
自身の濃厚接触者への迷惑
そして何よりも、それまで共演していた人に不安を抱かせてしまって申し訳ないという気持ち。
https://president.jp/articles/-/33781?page=2
橋下氏の濃厚接触者は橋下氏が検査を受けない(受けられない)ことにより、大きな迷惑を被っていました。
東国原は「先週の木曜日、生放送で2時間、ここ(至近)の距離でバーって議論してたんです」と主張。デヴィ夫人が「東さんもかかってる」と指摘すると、「そうなんですよ」と同意。橋下氏に「だから、PCR検査で陽性かどうかハッキリしてくれないと、僕らがどう行動していいか分からない。(橋下氏が)陽性なら、濃厚接触者になって、僕は2週間待機の準備をしてるんです。毎日3回も4回も体温を測ってるんです」と強く訴えた。
デイリースポーツ 2020年3月28日
家族への影響
家族も完全に自宅に閉じ込めなければならない。うちには子供が7人いて、学生はまあ何とかなるにしても、社会人の長女が問題だ。
https://president.jp/articles/-/33781?page=2
すぐに会社と協議してもらって、ここは本当にありがたかったんだけど、会社がテレワークを認めてくれた。
家族が学生の場合は学校や習い事を休ませることになります。
社会人の場合は休職する必要が出てきます。
橋下氏が検査を受けたことそのものを批判するのは間違いです。
検査を受けない(受けられない)ことでこれだけの損失が出ますので検査を受けることを要求するのは当然の権利です。(行政検査として検査を受けても問題は無いと考えます)
ただし、これは橋下氏に限った話ではありません。
無人島で一人で生活している人でもなければ検査を受けない(受けられない)場合の損失は大きなものになります。
橋下氏が批判を受けているのは自身がこういう状況に置かれる前は「軽症者は家で寝とけ」という主張をしていたからです。
とにかく、今の社会的風潮では、体調不良を簡単には名乗り出ることができない。感染者は極悪人扱いされるからね。
https://president.jp/articles/-/33781?page=2
それでみんな、無理して仕事を続けてるんじゃないかな。そしてそうやって結局感染を拡大して、高齢者や基礎疾患者の命を奪っていく。
橋下氏は検査を受けない(受けられない)場合に被る被害についてはよくわかったはずですが未だにPCR検査抑制論を主張しています。
橋下徹氏 PCR全国拡大論に反対「現場を分かってない」「意味がない」
https://news.yahoo.co.jp/articles/ca0b0240e36eed4663585cf4d52e866f4d5a6ab6
橋下氏はクラスターが発生した東京・歌舞伎町など特定のホットスポットに関しては「PCR検査は拡大してやっていくべき」との見解を示した上で、「この状況でPCR(検査)をどんどん拡大しろ、というのは現場をよく分かってないなー、と。今の日本の保健所システムでは、全部濃厚接触者を追っていって、ものすごい手厚いサポートシステムをやってる。このフォローアップシステムというものが、重症者を減らし、死者数が少ないという現実があるわけです」と説明。
橋下氏の人間性や政治姿勢がよくわかります。
安心のための検査
安心のための検査を希望するのは、検査が充分に行われていないからです。
上記の私の例では無症状の濃厚接触者にきちんと検査が行われていれば安心のための検査は必要無くなります。
感染が疑われる人や検査が必要と思われる人に充分に検査が行われていない状況では安心のための検査を希望する人が増えます。
検査体制の拡充が進まない状況に目を瞑り「安心のための検査を求めるな」という主張をすることは欺瞞以外の何物でもありません。
安心のための検査を求める人達は総じて感染対策に協力的と考えられます。
このような人達に冷や水を浴びせるようなことをするようでは感染対策が進むはずがありません。
水野泰孝氏
冒頭で引用した水野氏に話を戻します。
水野氏が院長を務めるグローバルヘルスケアクリニックでは行政検査としてのPCR検査に加え、自費でのPCR検査(陰性証明書の発行)を行っています。
自費のPCR検査 「安心のため」は避けて
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO61827540S0A720C2000000/
輸入感染症が専門のグローバルヘルスケアクリニック(東京・千代田)の水野泰孝院長は「自費検査をむやみに増やすと、国内の検査能力が足りなくなってしまう」と危惧する。
そのコロナ検査、必要ですか? 陰性証明、不安解消…専門医の警鐘
https://mainichi.jp/articles/20200705/k00/00m/040/038000c
「どんな検査であれ、不安などを理由にむやみに受けるのはナンセンスです。
自費でのPCR検査を院内で実施し、行政検査を受けられずに困った末、自費での検査を希望する人を多数見てきたはずですがこのような意見になっています。
そのコロナ検査、必要ですか? 陰性証明、不安解消…専門医の警鐘
https://mainichi.jp/articles/20200705/k00/00m/040/038000c
「結果が陰性でも、入国日までに感染しない保証はなく、実際は医学的根拠のある証明にはなりません」
陰性証明書は意味が無いと水野氏自身は考えていながら、自院で陰性証明書の発行を続けることに対してどのように自身の中で整合性を取っているのでしょうか?
そのコロナ検査、必要ですか? 陰性証明、不安解消…専門医の警鐘
https://mainichi.jp/articles/20200705/k00/00m/040/038000c
だが、水野さんは自費での検査にはあくまで慎重な立場だ。「経済活動と両立させるためにどうしても必要なケースはありますが、無制限に活用が進んだら国内の検査能力が枯渇してしまう。検査をするにしても、本当に必要かどうかを十分見極めたうえで行うべきでしょう」
PCR検査抑制論者によくある検査キャパシティ内で検査を行うべきという主張です。
2月、3月の段階ならともかく、7月になってもこういうことを言っています。
経済活動のためには検査が必要と認めながら、一向に検査の拡充が進まない状況については何とも思わないのでしょうか?
無症状者のPCR検査のあり方
https://comemo.nikkei.com/n/nbd290db6781e
また検査は万能ではなく、偽陽性(実際には感染していないのに陽性となる)や偽陰性(実際には感染しているのに陰性となる)が一定数確認され、検査前確率が低くなればなるほどその確率が増えることがわかっています。
検査前確率が低くなればなるほど偽陽性の確率が増えるということはありません。
水野氏は自院でPCR検査を行っていながらPCR検査抑制論を主張する不思議な人です。
水野氏の一連の主張には強い違和感を覚えます。
倉持仁氏も水野氏同様、自院で行政検査としてのPCR検査に加え、自費でのPCR検査(陰性証明書の発行)を行っています。
水野氏とは全く異なる意見です。
ちなみに水野氏の病院では自費のPCR検査費用は36,000円です。(別途診療費4,000円がかかります)
まとめると
橋下氏の例を見てわかるようにコロナウイルスPCR検査を受けられないことで経済的損失、自身の濃厚接触者への迷惑、家族への影響等、大きな損害を被ります。
感染者がほとんど出ていない地域で症状が無い人が安心のために週に何回も検査を希望するのは間違いです。
しかし、日本ではPCR検査のハードルが高いため検査を受けられない人が続出し、多くの人が困っています。
橋下氏は検査を受け、安心して社会活動、経済活動を再開することができました。
無症状の濃厚接触者に対する検査でさえ、充分にできていない状況(感染対策が充分にできていない状況)で安心のための検査を求めて一体何が悪いのでしょうか?