コロナウイルス感染症

無症状者にPCR検査を行ってはいけないというのは本当か?

ベイズの定理を用いてPCR検査の有用性を考える際の注意点を記事にしました。
PCR検査の特異度は、ほぼ100%ですので事後確率は高くなります。

ベイズの定理を用いてPCR検査の有用性を考える際の注意点 コロナウイルスPCR検査を行う場合に事前確率が低いと考えられる場合には検査を行うべきではないと主張する人達がいます。その理由としてベイ...

事前確率、事後確率が低いという理由で無症状者のPCR検査に反対している人達がいます。
PCR検査と同様に事前確率が低く、大規模に行う検査には、がん検診があります。
今回はがん検診と無症状者に行うPCR検査を比較することで無症状者に行うPCR検査の有用性について調べました。

がん検診の事後確率

胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、子宮頸がんについて調べました。
各疾患の罹患率(事前確率)は年齢別罹患率で最も高い数値を採用しました。

http://gdb.ganjoho.jp/graph_db/index

感度、特異度、罹患率

感度(%)特異度(%)罹患率(%)
胃がん60.088.50.648
大腸がん57.196.70.528
肺がん83.398.00.713
乳がん85.793.50.231
子宮頸がん71.485.20.0284

https://www.pref.aomori.lg.jp/soshiki/kenko/ganseikatsu/files/29kougi_2.pdf

事後確率

上記の値を元に事後確率を求めました。

事後確率(%)
胃がん3.3
肺がん8.4
大腸がん23.0
乳がん3.0
子宮頸がん0.1

いずれの検査でも事後確率は非常に低くなりました。

神奈川県医師会

神奈川県医師会はPCR検査の拡充に反対の姿勢を取り続けています。

PCR検査の特性と限界

整理すると、1000万人にPCR検査を行えば、1320人もの感染者が見逃されて、市中感染の元になってしまいます。そして、その10倍にあたる9996人の非感染者が感染者と間違って判定され、病院のベッドを占有してしまうことになります。

希望すれば全員が検査を受けられるという検査体制にしてもよいのですが、偽陽性と偽陽性の問題が常に付いてまわるということになります。検査件数をいたずらに増やせば偽陽性の人は確実に増え、入院してのベッドの確保も医療現場はその無駄な対応に追われるばかりでなく、偽陰性の人は自覚なく動き回り感染を拡大して、医療現場はその対応に追われ、従来維持してきた交通事故や脳卒中・心筋梗塞などの救急患者に対する医療体制が崩壊してしまうのです。
心配なので安心したいからと安易に検査を求める人が多ければ多いほど、本当に検査が必要な人が受けることができなくなり、治療への速度が落ちてしまいます。感染疑いのある人を速やかに検査して、治療に結び付けたいのです。

神奈川県医師会 かながわコロナ通信

言葉の所々に書いた人の人間性が表れています。

がん検診と無症状者に行うコロナウイルスPCR検査を比較

事前確率事後確率早期発見、早期治療の有効性医療資源の消費
がん検診非常に低い非常に低い明白なエビデンスが無いものが多い※1莫大
無症状者に行うコロナウイルスPCR検査非常に低い高い感染拡大防止、感染者の重症化防止の面から有効性は高い少量

無症状者に行うPCR検査に関しては感染者がほとんど発生していない地域で大規模に行う場合は、あまり意味が無いかもしれません。しかし以下の場合は行う意味があると思います。

  1. 感染経路不明者が多数出ている地域での検査
  2. 発生すると影響が大きい場所での検査(病院、介護施設等)

以降は①、②を対象とする無症状者に行うPCR検査について考えます。

事後確率について

がん検診は非常に低くなっています。
一方、PCR検査は特異度がほぼ100%ですので高くなります。

早期発見、早期治療について

がん検診は死亡率を低下させるという明白なエビデンスはありません。※1
一方、PCR検査は感染者を特定することで感染拡大の防止が期待できます。また感染者を監視し、重症化を防ぐことも期待できます。

医療資源の消費について

がん検診は40歳以上(胃がん健診では50歳以上、子宮頸がん検診では20歳以上)の国民の40%以上に行われています。
がんが発見された場合、精密検査、手術、入院、治療(化学療法、放射線治療)が行われ、莫大な医療資源が消費されます。
一方、PCR検査は検査を行うだけでは医療資源の消費は少量で済みます。ドライブスルー検査、唾液を用いた検査を採用することで消費の削減も可能です。また感染者が発見された場合でもホテル等の施設を利用することで医療資源の消費は抑えられます。

まとめると

事後確率、早期発見、早期治療の有効性、医療資源の消費の面から考えると、がん検診よりも無症状者に行うPCR検査の方が有用性が高いと考えられます。

検査の実施については、これらの観点以外からの考察も必要でしょう。
しかし、無症状者に行うPCR検査は悪い検査とは思えません。

※1 https://www.rieti.go.jp/users/sekizawa-yoichi/serial/004.html

この記事が気に入ったらフォローして下さい