コロナウイルス感染症

日本の検査システムの問題点-東京都民がPCR検査に辿りつくまでを見て

保健所がPCR検査を制限しているためにPCR検査が必要な人でも検査を受ける事ができない状況が続いています。

特に東京都民がPCR検査を受けるのは大変らしく、何度も病院や保健所に連絡をし、ようやく検査を受けることができた事例が多数報告されています。

今回はそれらの事例を紹介し、日本の検査システムについて考えてみます。以降は全て東京都の報道発表資料からです。

4回病院受診後、救急搬送され、3つ目の病院で検査に辿りつく

(1)年代: 60代
(2)性別: 男性
(3)居住地: 都外
(4)症状、経過:
2月6日 発熱、倦怠感あり
2月7日 都内医療機関 A を受診(自家用車で移動)
2月8日 都内出勤(自家用車で移動)
2月9日 夕方に早退
2月10日 都内医療機関 A を受診(自家用車で移動)
2月12日 都内医療機関 A を受診(自家用車で移動)
2月13日 都外医療機関 B を受診(自家用車で移動)救急車で都内医療機関 C に搬送され、入院(この間、インフルエンザ等の検査を実施していたが、特定の感染症と診断されず)
2月15日 東京都健康安全研究センターで検査実施
2月16日 陽性判明

肺炎にもかかわらず、入院も検査もされず、自転車で3回病院受診後、検査に辿りつく

(1)年代: 30代
(2)性別: 男性
(3)居住地: 東京都
(4)症状、経過:
2月 3日 発熱、倦怠感あり
2月 4日 自宅療養
2月 5日 都内医療機関 D を受診(自転車で移動)肺炎像を認める
2月 6日から7日 自宅療養
2月 8日 自宅療養。都内医療機関 D を再診(自転車で移動)
2月 9日 都外出勤(公共交通機関で移動)
2月10日から13日 自宅療養
2月14日 都内医療機関 D を受診(自転車で移動)(この間、インフルエンザ等の検査を実施していたが、特定の感染症と診断されず)
2月15日 東京都健康安全研究センターで検査実施
2月16日 陽性判明

2月18日以降の東京都の報道発表

原因はよくわかりませんが、2月18日以降の東京都の報道発表では感染者の経過は記載されなくなりました。

記載されていない情報

これだけを見ると病院が悪いように見えますが、「医療機関を受診」の後には次のような記載が抜けていると思われます。
「医師が保健所に検査を依頼したが断られる」

厚生労働省の2月7日の通達では次のような記載があります。

別紙第7の1(4)では、新型コロナウイルス感染症について、感染が疑われる患者の要件を、「患者が次のア、イ、ウ又はエに該当し、かつ、他の感染症又は他の病因によることが明らかでなく、新型コロナウイルス感染症を疑う場合、これを鑑別診断に入れる。ただし、必ずしも次の要件に限定されるものではない」としているところであり、これまでも各自治体の判断で検査が行われていることと承知しているが、今後も、各自治体において新型コロナウイルス感染症を強く疑われる場合には、柔軟に検査を行っていただきたい旨、お知らせする。

健 感 発 0 2 0 7 第 1 号   令 和 2 年 2 月 7 日

厚生労働省の2月17日の通達では次のような記載があります。

1 検査対象者について

新型コロナウイルス感染症の感染が疑われる方の行政検査については、都道府県等において、主に別紙第7の1(4)で示された疑似症患者等について、これまで行われてきたと承知しているが、今般、別紙に示された疑似症患者の定義に該当する者に加え、以下のいずれかに該当する者についても行政検査を行うこと。

・ 37.5℃以上の発熱かつ呼吸器症状を有し、入院を要する肺炎が疑われる者(特に高齢者又は基礎疾患があるものについては、積極的に考慮する)
・症状や新型コロナウイルス感染症患者の接触歴の有無など医師が総合的に判断した結果、新型コロナウイルス感染症と疑う者
・ 新型コロナウイルス感染症以外の一般的な呼吸器感染症の病原体検査で陽性となった者であって、その治療への反応が乏しく症状が増悪した場合に、医師が総合的に判断した結果、新型コロナウイルス感染症と疑う者

新型コロナウイルス感染症に関する行政検査について(依頼) 令和2年2月 17 日

2月7日の段階で上記のような通達が出ているので、保健所が通達に従っていればこれらの人達はもう少し早く検査を受けることができたはずです。
2月17日にも通達が出ているのは通達に従わない保健所が多数存在したからであると考えられます。

厚生労働省からは2月27日に再度通達が出ています。

1 検査対象者について

新型コロナウイルス感染症の感染が疑われる方の行政検査については、都道府県等において、主に「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第 12 条第1 項及び第 14 条第2項に基づく届出の基準等について」(平成 18 年3月8日健感発第 0308001 号厚生労働省結核感染症課長通知)別紙「医師及び指定届出機関の管理者が都 道府県知事に届け出る基準」第7の1(4)で示された疑似症患者等について、これまで行われてきたと承知しているが、今般、基準に示された疑似症患者の定義とは別に、以下の場合についても行政検査を行うこと。

・ 37.5℃以上の発熱かつ呼吸器症状を有し、入院を要する肺炎が疑われる(特に高齢者又は基礎疾患があるものについては、積極的に考慮する)
・ 新型コロナウイルス感染症以外の一般的な呼吸器感染症の病原体検査で陽性となった者であって、その治療への反応が乏しく症状が増悪した場合に、新型コロナウイルス感染症が疑われる
医師が総合的に判断した結果、新型コロナウイルス感染症を疑う

新型コロナウイルス感染症に関する行政検査について   令 和 2 年 2 月 2 7 日

これらの基準に該当しても検査が行われない場合は保健所が通達を無視していると考えても良いと思います。

保健所の立場

保健所の仕事は次のようなものになっていると思います。

  • PCR検査を実施するかどうかの決定
  • 検体採取の実施場所の手配
  • 検体の輸送
  • 陽性者の入院先の手配、移送
  • 濃厚接触者の調査

保健所の立場とすれば検査数を増やすと業務がまわらなくなるために厚生労働省の通達に従わず、検査を制限していると考えられます。

ボトルネックとなっているのは保健所

このように見ると検査数を増やすことができない原因となっているのは保健所です。
これを解消するには、次のようにすれば良いでしょう。

  1. PCR検査を実施するかどうかの決定を保健所にさせずに、医師にさせる
  2. PCR検査を民間の検査会社に委託する
  3. 軽症者は自宅隔離もしくはホテル等の設備に隔離する

これらは少しずつではありますが実施されてきています。しかし、あまりにも遅すぎます。
②については検体を衛生検査所などの公的機関のみで検査をすれば、今度は検査技師の数がボトルネックとなります。
日本よりも何十倍も検査をしている国には日本の何十倍もの数の検査技師がいるわけではありません。
民間に委託すれば解決する問題です。

検査で陰性とされた感染者はリスクの高い行動、例えば、人との接触や外出などの行動を取ってしまう可能性が高くなるという意見

このような意見は、PCR検査の感度が非常に高いと考えてる人が注意喚起の意味で言うのなら理解できます。

ところが驚くべきことに、この意見を主張している人は検査の拡充に反対で、PCR検査の感度は70%程度で当てにならないと考えています。
「感度が低く当てにならない検査ですが陰性でした」と言われた人がリスクの高い行動を取るでしょうか?

現在のPCR検査の感度は非常に高く、感染制御の面で問題となるような捕捉できない偽陰性者はほとんどいないと考えられますので、そもそもの前提が間違っています。

コロナウイルスPCR検査の感度が低いという話は本当か?③ 陰性判定後、再検査で陽性の事例を調べてみる 先日、コロナウイルスPCR検査の感度が低いとされていることに疑問を持ち記事を書きました。 今回は厚生労働省発表の資料から陰性判定...


上記で示した東京都の2つの事例では、コロナウイルスに感染しながらも検査をしてもらえなくて何度も病院を受診しています。
しかし、この方達は可能なかぎり、タクシーや公共機関を利用せずに移動しているのがわかります。
2例目の方は肺炎を患いながらも自転車で病院を受診しています。
日本人の多くはこのように理性的に他人のことを考えて行動するのです。
注意喚起の意味ではなく、検査拡充に反対するための「検査で陰性とされた感染者はリスクの高い行動、例えば、人との接触や外出などの行動を取ってしまう可能性が高くなる」という意見は日本人を馬鹿にした意見です。

まとめると

検査数を増やすことができない原因となっているのは保健所ですので、PCR検査を民間の検査会社に委託する等の対策が必要です。

多くの病院はマスク、アルコール類等医療資源が不足するなか、院内感染を防ぎつつ、診察を行っています。
保健所はクラスター対策で一定の成果をあげています。
民間企業は休業補償が無いにもかかわらず、営業自粛を行っています。
国民の多くは自粛要請に従っています。
PCR検査の感度は非常に高く、感染制御に大きな役割を果たしています。
それにもかかわらず、緊急事態宣言の延長が発表されました。

各領域で一定以上の成果をあげているにもかかわらず、全体の成果があがらない場合は、やり方(システム)が間違っています。
やり方(システム)の調整を行うのは政治家の仕事です。

この記事が気に入ったらフォローして下さい