新型コロナPCR検査の感度、特異度について医療従事者が言及する場合、臨床感度、臨床特異度という考え方が適用されます。
しかし臨床感度、臨床特異度の定義を用いて不適切な主張を行う人が後を絶ちません。
Contents
臨床感度、臨床特異度という考え方
臨床感度、臨床特異度という考え方では偽陽性、偽陰性の発生原因には検体採取、検体輸送、検査、検査結果の解釈等全ての工程が含まれます。
https://www.jslm.org/committees/COVID-19/20200427.pdf
検体取り違え、コンタミを新型コロナPCR検査の偽陽性の原因とすること自体は間違いではありません。
しかし新型コロナPCR検査では検体取り違え、コンタミ等の人為的ミス以外に偽陽性が起こることは考えにくいですし、人為的ミスが起こるとしても大量検査を否定する理由としては成り立ちません。
新型コロナPCR検査の人為的ミスを強調する人達がいます。
この人達の目的は一体何なのでしょうか?
新型コロナPCR検査の人為的ミスを強調する人達
人為的ミスは改善不可能なものでなければ検査の信頼性とは直接関係ありません。
当然ですが検体取り違え、コンタミ等の人為的ミスはPCR検査以外の検査でも起こります。
PCR検査以外での人為的ミスの事例
病理検査の検体取り違え、コンタミ
「検体取り違え」をどう防ぐか~苦悩する医療現場
この件の概要は以下のようなものだ。訴状によると、女性は2014年3月、市民病院の乳腺超音波検査で右乳房に腫瘤が見つかり、翌4月に良性か悪性かを判断するため検体を採取。病理検査の結果、乳がんと診断され、医師から「切除手術が必要」と告げられた。
女性は病院が紹介した別の医療センターで右乳房の一部を切除する手術を受けたが、腫瘍からがん細胞が検出されず、手術が必要な50代女性の検体と取り違えたことが判明した。病院によると、20代女性に謝罪し、外部調査委員会を発足させたが原因の特定には至らず、女性側に乳房の再建手術などの解決策を示していた。
https://news.yahoo.co.jp/byline/enokieisuke/20161201-00065004
「術前検査にかかる検体の取り違え」報道について
当院で9月初めに肺がんの手術を行った患者様で、手術前の細胞診検査(8月3日実施)において、検体の取り違えにより検体の一部に他の患者様のものが混入するということが起こり、患者様本人の検体はがん細胞陰性でありましたが、混入した検体ががん細胞陽性であったため、この検査では肺がんと診断されました。この患者様はCT検査では肺がんを強く疑わせる所見であったことから、先程の細胞診検査結果が正しくがん細胞陰性と報告された場合でも、肺の切除術が強く推奨される症例でございました。ただ、推奨はされませんが経過観察という選択肢もあったことから、今回の誤認がその選択の機会を奪うこととなってしまいました。
なお、検体を取り違えた患者様は今回の3名の方だけであり、他の患者様の検体につきましては適正に実施されております。また、今回の患者様以外の2名の方々につきましても、その後の治療ならびに病状に問題は起こっていないことをここにご報告いたします。
https://www.ncc.go.jp/jp/information/update/2005/0926/index.html
臨床感度、臨床特異度の考え方を適用すると、これらの事例は「病理検査の偽陽性」ということになります。
CT検査での見落とし
続く「CT見落とし」なぜ起きる? 医師の視点
この事態は、今年6月8日、千葉大学医学部付属病院のこんな報道から始まった。
千葉大学医学部付属病院で、コンピューター断層撮影(CT)による画像診断で患者9人について見落としがあり、4人に影響があり、うち2人ががんの適切な治療が行われず死亡した疑いがあることが同病院への取材で判明した
出典:毎日新聞 2018年6月8日
これを皮切りに、兵庫県立がんセンターが6月22日に
「子宮頸がん手術を受けた40代女性患者のCTの画像診断で肺への転移を見落とし、今年4月まで3年間放置していた」
と発表、そして6月25日には横浜市大が
「60代の男性患者が、CT検査で腎臓がんの可能性があると診断されながら、情報が共有されず、検査から5年半後に死亡した」
と発表した。
https://news.yahoo.co.jp/byline/nakayamayujiro/20180628-00087151
2018年6月18日
臨床感度、臨床特異度の考え方を適用すると、この事例は「CT検査の偽陰性」ということになります。
これらの事例を基に「病理検査の偽陽性が~」「CT検査の偽陰性が~」という議論は通常行われません。
人為的ミスをどのようにして防ぐかが重要ですので再発防止策の議論となります。
「検体取り違え」をどう防ぐか~苦悩する医療現場
相次ぐ検体取り違えを受け、病理医の集まりである日本病理学会も、今年7月19日に「検体取り扱いマニュアル」を発表した。このマニュアルでは、推奨する行為とやってはいけない行為を明記している。たとえば、生検(組織を一つまみとってくる)検体に関しては以下のように書かれている。
略
こうしたマニュアルを徹底することにより、取り違えを減らすことはできるだろう。
https://news.yahoo.co.jp/byline/enokieisuke/20161201-00065004
2016年12月1日
臨床感度、臨床特異度という考え方の根本
臨床検査の目的というものは誰が検査を行っても正しい結果が出るようなシステム作りを行い、適切な診断、治療に結び付けることです。
臨床感度、臨床特異度という考え方は臨床検査で正しい結果を得るために検査全般の工程での問題点を明らかにし、必要に応じて改善するためのものです。
検査過程における人為的ミスの指摘は再発防止につながるものであれば意義があります。
ところが「新型コロナPCR検査の人為的ミスを強調する人達」の主張を見ると新型コロナPCR検査の信頼性を毀損することだけが目的のように思えます。
自らの職場の信頼性を毀損する行為
医療現場は多数の人間が介在しますので、検査以外の診断、治療の場でも必ず人為的ミスが起こります。
PCR検査は多くの工程を機械で行うことができるため、病理検査や外科手術等の機械化が難しいものと比べ、人為的ミスが起こりにくいと考えられます。
仮に病院でのPCR検査で人為的ミスが多発し、改善が期待できないのであれば、その病院の病理検査、外科手術等の機械化が難しい手技は信頼できないのものとなるでしょう。
自院のPCR検査のコンタミを強調するあまり「コンタミ先生」と命名された方もいます。
医療従事者自らが「新型コロナPCR検査の人為的ミス」を強調することは自らの職場の信頼性を毀損する行為につながることに気づかないのでしょうか?
参考
https://pathology.or.jp/news/pdf/manual_digest_160719.pdf
病理検体取扱いマニュアル