コロナウイルス感染症

コロナウイルスPCR検査の陽性、陰性の定義の問題点

PCR検査の偽陰性について記事にしました。

コロナウイルスPCR検査の偽陰性について 前回コロナウイルスPCR検査の偽陽性について記事にしました。 https://tatsuharug.com/pcr-false-...

この記事でも問題にしたのですがPCR検査の陽性、陰性の定義について考えます。

PCR検査の陽性、陰性に関する2つの定義

PCR検査の陽性、陰性の定義については混乱が見られます。
次のような2つの定義があることを確認しておきます。

定義1

  1. 陽性:検体中に目的とする遺伝子配列を持つDNA(RNA)が存在する
  2. 陰性:検体中に目的とする遺伝子配列を持つDNA(RNA)が存在しない
  3. 偽陽性:検体中に目的とする遺伝子配列を持つDNA(RNA)が存在しないにもかかわらず、陽性と判定する
  4. 偽陰性:検体中に目的とする遺伝子配列を持つDNA(RNA)が存在するにもかかわらず、陰性と判定する

厚生労働省が調査したコロナウイルスPCR検査キットの陽性一致率、陰性一致率はほぼ100%でした。
従って定義1を用いる場合、感度、特異度はほぼ100%となります。

https://www.niid.go.jp/niid/images/lab-manual/2019-nCoV-17-20200430.pdf

定義2

  1. 陽性:ウイルスに感染していてPCR検査で陽性
  2. 陰性:ウイルスに感染していなくてPCR検査で陰性
  3. 偽陽性:ウイルスに感染していないがPCR検査で陽性
  4. 偽陰性:ウイルスに感染しているがPCR検査で陰性

臨床の場では定義2が用いられることが多いようです。
ただし、この定義の問題点は次のようになります。

  1. 検体採取のミスが偽陰性の事例とされてしまい、PCR検査の精度に問題があるかのようにされてしまう
  2. 正確な感度、特異度は永久に不明
    (参照としてCTを用いる事ができるのは肺炎症状を呈した場合のみです)

インフルエンザ抗原検査、PCR検査について

コロナウイルスと同様のRNAウイルスで日常的に検査が行われるものとしてインフルエンザ抗原検査があります。

インフルエンザの診断に迅速検査は本当に必要?

感度というのは「本当にインフルエンザであるヒトのうち、このインフルエンザ迅速診断キットで陽性となるヒトの割合」のことです。
インフルエンザ迅速診断キットの感度はだいたい60%くらいと言われています(Ann Intern Med. 2012;156(7):500.)。

https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20191202-00143812/  
感染症専門医 忽那賢志

この60%というのはどのようにして調べたのでしょうか?

インフルエンザ迅速検査キットの現状

2012年に発表されたメタアナリシス(複数の論文をまとめて統計学的に有効性を推測する手法でエビデンスレベルが高い)によれば、RT-PCR と迅速検査キットでのインフルエンザ診断の比較では、インフルエンザ A 型の感度は 64.6%(95%信頼区間 59.0~ 70.1)、特異度は 99.1%(95%信頼区間 98.7~99.4)、インフルエンザ B 型の感 度は 52.2%(95%信頼区間 45.0~59.3)、特異度は 99.8%(95%信頼区間 99.7~99.9)でした(Ann Intern Med 156:500-511, 2012)。

https://www.h-osaki.jp/wp/wp-content/uploads/2016/04/ICT%E3%81%A0%E3%82%88%E3%82%8A91%E5%8F%B7%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%95%E3%83%AB%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%B6%E8%BF%85%E9%80%9F%E6%A4%9C%E6%9F%BB%E3%82%AD%E3%83%83%E3%83%88%E3%81%AE%E7%8F%BE%E7%8A%B6201603.pdf

インフルエンザ抗原検査キットの感度は、それよりも感度の高いインフルエンザPCR検査やウイルス培養の結果と比較し、決定されています。
上記の論文ではインフルエンザPCR検査の結果と比較し、インフルエンザ抗原検査の感度を求めています。
インフルエンザPCR検査が参照とされてますので感度は100%と仮定されていると考えられます。
インフルエンザPCR検査では検体採取ミスは、問題にはされていません。
検体採取ミスをインフルエンザPCR検査の偽陰性としてしまうと感度が求められなくなるので当然です。

ここで重要となってくるのはインフルエンザPCR検査は感度、特異度100%とされていることです。
この前提でインフルエンザ抗原検査の感度、特異度が決められています。
インフルエンザ抗原検査の感度、特異度に言及している人達はこの前提を受け入れています。

インフルエンザPCR検査では偽陰性、偽陽性は起きないのか?

インフルエンザPCR検査の偽陰性、偽陽性を定義2で考えます。
コロナウイルスPCR検査で問題とされている偽陰性、偽陽性はインフルエンザPCR検査では起きないのでしょうか?

コロナウイルスPCR検査偽陰性の例

PCR検査で「偽陰性」なぜ起きる? 感染を見逃す理由

なぜ偽陰性が起きるのでしょうか。おそらく、検体中にウイルスが含まれていなかったのでしょう。現在の日本では標準的なPCR検査では「下気道由来検体」と「鼻咽頭(いんとう)ぬぐい液」の2検体を検査することになっています。下気道由来検体は、たんか気管吸引液で採取します。鼻咽頭ぬぐい液を取るときは、インフルエンザ迅速試験でおなじみの、鼻の奥にスワブ(長い綿棒のようなもの)を差し込みます。

しかし、たんを出せるとは限りませんし、出したつもりでも唾液(だえき)だけだったりします。気管吸引液は人工呼吸器管理や気管支鏡検査中にでないと採取困難です。鼻咽頭ぬぐい液は、スワブの差し込み方が不十分だと良い検体が取れませんし、良い検体がとれても鼻咽頭にはウイルスがいないかもしれません。重症例では下気道でウイルス量が多く、鼻咽頭を含む上気道ではウイルス量が減る傾向が知られています。

他にも偽陰性が生じる原因はありますが、以上に述べたような検体不良が偽陰性の主な理由でしょう。

https://www.asahi.com/articles/ASN515S72N51UBQU001.html   酒井健司 内科医

【医療の現場から】PCR検査は増えるのか(後編) なぜ偽陽性、偽陰性の結果出るのか詳細

PCR検査の精度に立ち返ってみますと、なぜ7割しかないのか。まず、偽陰性の場合ですが、検体の質の問題があります。つまり、検体の採取がうまくいっていない場合があると思われます。たとえば、最初に肺から感染が始まった患者の場合は喀痰(いわゆる痰)をとれば陽性になる確度が高くなるのですが、通常のPCR検査では綿棒を鼻の奥に突っ込んで採取していますので、なかなか陽性にはなりません。

そういう例もあるかと思えば、軽症者の場合では鼻の奥の方だけでウイルスが増えていることが多いので、検体採取の際鼻先だけで検体を採取してしまってウイルスを取り損ねている可能性があります。ですから、もし症状からコロナが疑われるのに陰性と出てしまうのなら、検体採取の仕方を工夫しなければなりません。

https://encount.press/archives/46081/   西村秀一 国立病院機構仙台医療センター臨床研究部ウイルスセンター・臨床検査科

定義2の偽陰性とされる例です。
インフルエンザPCR検査でもコロナウイルスPCR検査と同様に検体採取を行いますので、これらのことは起こり得ると考えられます。
しかし、どの程度の頻度で起こるのかは不明です。(私が調べた範囲では)

新型コロナウイルスのPCR検査が「偽陰性」となる原因は?

■RNAの性質に関する原因
・RNAを正しく取り扱っているのか
RNAはDNAよりも不安定な性質であり、分解されやすい性質である。

我々のだ液や汗、空気中のホコリなどの中にはRNAを分解する物質が含まれている。そのために、RNAを取り扱うときは、適切な設備や器具が必要となる。さらに、RNAは低温で取扱う必要がある。つまり、RNAを正しく取り扱わなくては分解されてしまい、正しいデータは得られず「偽陰性」となる場合もある。

https://news.yahoo.co.jp/byline/yanagitaemmy/20200407-00171676/
柳田絵美衣 臨床検査技師

インフルエンザウイルスもコロナウイルス同様、RNAウイルスですのでインフルエンザPCR検査でも同様のことが起こると考えられます。

コロナウイルスPCR検査偽陽性の例

「PCR検査せよ」と叫ぶ人に知って欲しい問題
ウイルス専門の西村秀一医師が現場から発信

――PCR検査では偽陰性(感染しているのに検出されない)、偽陽性(感染していないのに検出されてしまう)の問題があって、わかることには限界があるとおっしゃっていますね。

PCRの感度が高すぎることによる弊害もあって、偽陽性の可能性もある。PCR検査は検体内のウイルスの遺伝子を対象にしている。本来の感染管理では生きているウイルスの情報が必要だが、それを得ることができないためだ。そうすると、ウイルスの死骸にたまたま触れて鼻をさわったというようなときも陽性になりうる。本当に陽性であっても、生きているウイルスではなく人に感染させない不活性ウイルスかもしれない。

https://toyokeizai.net/articles/-/349635

PCR論争に寄せて─PCR検査を行っている立場から検査の飛躍的増大を求める声に

2)次は偽陽性の可能性があること。PCRの感度が高すぎることによる弊害。
2-1)感染でなくとも不活化した空中を浮遊しているウイルスがたまたま吸われて鼻腔に張り付いていたものを採取した可能性
2-2)それこそ手指を介した環境表面からの感染を強調する人たちがいうように、そこらへんにウイルス(あるいはその残骸)が存在していて、それにたまたま触れて、それで鼻を触っただけで、感染の有無に関係なく検出されてしまう

https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/report/t344/202004/565349.html

定義2の偽陽性とされる例です。
仮にコロナウイルスPCR検査でこのようなことが起こり得るのならば、インフルエンザPCR検査でも起こり得ると考えられます。

このようにコロナウイルスPCR検査で定義2の偽陰性、偽陽性が起こり得ると考えるのであれば、インフルエンザPCR検査でも同様に起こり得ると考えるのが妥当です。

ところがインフルエンザPCR検査では偽陰性、偽陽性は起こらないという前提でインフルエンザ抗原検査の感度、特異度が決定され、一般的に用いられています。
おかしくないですか?
コロナウイルスPCR検査だけ検体採取ミスやその他の要因で偽陰性、偽陽性が頻発するのでしょうか?

提案

インフルエンザPCR検査では検体採取ミスは起こらないがコロナウイルスPCR検査では検体採取ミスが頻発し、2検体を用いても(大阪は1検体)感度70%程度(定義2)であると主張するのであれば、根拠を示すべきであると考えます。

コロナウイルスPCR検査において定義1では感度がほぼ100%であるにもかかわらず、定義2では感度70%になるということならば、感度が低下する原因のほとんどは検体採取に関することになります。
どうしてもPCR検査の感度が70%であると言いたいのであれば、「コロナウイルスPCR検査の感度、特異度はほぼ100%、検体採取成功率70%」と言うべきでは無いでしょうか?
このようにすればインフルエンザPCR検査の感度、特異度を100%とすることとの整合性が取れますし、実態に即したものになります。
反対する理由はありますか?

この記事が気に入ったらフォローして下さい