先日、コロナウイルスPCR検査の感度が低いとされていることに疑問を持ち記事を書きました。
今回はコロナ対策として徹底したPCR検査を行い、封じ込めに成功した有田病院の事例を考えてみます。
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有田病院でのコロナ対策の経過
(上図は2020.3.7産経WESTから)
2月13日に有田病院で勤務している医師の感染が発覚しました。和歌山県は、それ以降徹底的に感染経路の探索、PCR検査を行いました。
3月4日の通常業務再開以降、院内感染の報道はありませんので感染者を全て特定し、封じ込めに成功したと考えて良いと思います。
有田病院の事例での無症状感染者
和歌山県は他の自治体と異なり、徹底的にPCR検査を行い、県のホームページで情報を公開しています。
無症状感染者と考えられる人達は次の通りです。
- 男性入院患者の母
経過
2月16日 濃厚接触者として検査
2月17日 医療機関に入院予定
現在の病状
病状は極めて軽症 - 男性入院患者の妻
経過
2月16日 濃厚接触者として検査
2月17日 医療機関に入院予定
現在の病状
病状は極めて軽症 - 医師の息子
経過
2月17日 濃厚接触者として検体採取
2月18日 新型コロナウイルス検査陽性が判明、医療機関に入院
現在の病状
医療機関に入院中、無症状
症状がある人に関しては発熱、嘔吐、下痢、咳、倦怠感等の症状についても記載がありますので「病状は極めて軽症」という人はほぼ何の症状も無かったと考えて良いと思います。
有田病院の事例では11人中3人が無症状感染者ということになります。
PCR検査の感度が50%であると仮定すると
わかりやすく考えるためにPCR検査の感度が50%であると仮定します。(計算が得意な方は70%として読み替えて下さい)
有田病院の事例では11人の陽性者が発見されましたので、PCR検査の感度が50%であれば真の感染者は22人いることになり、11人の感染者を見逃していることになります。
またその内、無症状感染者は6人いることになり、3人の無症状感染者を見逃していることになります。
PCR検査の感度が低いということを考える場合、次の2つのケースが考えられます。
検体採取、検体輸送、検査手技の問題で検査感度が低い場合
PCR検査の検体として用いられるのは喀痰もしくは気管吸引液、鼻咽頭ぬぐい液とされています。
感染者が鼻、喉にウイルスを保有しているが検体採取、検体輸送、検査手技の問題で検査感度が低い場合、感染制御は不可能であると考えます。
症状がある場合は、隔離を行いますので問題にはなりません。しかし、病院という閉鎖空間で鼻、喉にウイルスを保有している無症状感染者を3人も見逃した場合、感染制御は不可能です。
武漢で起きたように医療崩壊が起こるはずです。
喉や鼻にウイルスを保有していない感染者がいた場合
検体採取に問題が無くてもウイルスが採取できない場合があるかもしれません。
感染者の喉や鼻にウイルスが存在しない場合です。
このケースは感染制御の面では無視しても良いと思います。
喉や鼻にただの1つもウイルスが存在しないのであれば他の人に感染を広げる可能性はほぼありません。
有田病院の事例でPCR検査陰性者が後に発症したという報告はありませんので、喉や鼻にウイルスを保有していない感染者がいたという可能性は低いと思います。
検体採取、検体輸送、検査手技に問題がある場合
検体採取、検体輸送、検査手技の問題で検査感度が低い場合、方法の見直しで検査感度の改善は期待できます。
国内では既に16万件以上のPCR検査が行われています。方法に問題があるのであれば改善が行われているはずです。
コロナウイルスPCR検査の感度が低いという根拠となっている中国人の2つの論文(1)(2)でのPCR検査の環境について見てみます。
1つ目の論文は2020年1月19日から2020年2月4日に温州医科大学附属病院で行われたものです。
温州市は2月14日外務省が感染症危険レベルをレベル3(渡航は止めてください)に引き上げた地域です。
2つ目の論文は2020年1月6日から2020年2月6日に武漢市にある華中科技大学の医学院附属病院で行われたものです。
武漢市は1月23日からロックダウン(都市封鎖)が行われていました。
2つの論文でのPCR検査は医療崩壊が起きつつある、もしくは起きている状況下で行われたものです。
既に感染者が多数病院に押し寄せて医療崩壊が起きつつある、もしくは起きている状況下でのPCR検査であれば 検体採取、検体輸送、検査手技の問題で通常の検査体制で行う検査よりも検査感度が低くなるのは当然だと思います。
コロナウイルス感染症のデータが集まりつつある現在の日本のPCR検査の感度はこのような状況下で行われた中国のPCR検査の感度と同等と考えて良いのでしょうか?
PCR検査の感度が低い場合、本来取るべき対応は?
PCR検査の感度が低い場合、本来すべきことは検査は役に立たないの大合唱をするのではなくて何故検査感度が低いのか原因を追究することです。
手順、手技に問題があるのか?ウイルスの特性なのか?
その前に現在の日本のPCR検査の感度がどの程度であるのか調べる必要がありますがそういうことはされているのでしょうか?
まとめると
有田病院の事例でも明らかなようにPCR検査の感度が低い場合、感染制御は不可能です。
検体採取、検体輸送、検査手技の問題で検査感度が低い場合、方法の見直しで検査感度の改善は期待できます。
現在の日本のPCR検査の感度は医療崩壊が起きつつある、もしくは起きている状況下での中国のPCR検査の感度と同等と考えて良いのでしょうか?
PCR検査の感度が低い場合、本来すべきことは検査は役に立たないの大合唱をするのではなくて何故検査感度が低いのか原因を追究することです。
PCR検査の感度は低いので検査を受けても意味が無いと主張する人達がいます。
しかし、PCR検査を陰性証明のように用いて公務復帰している大臣がいます。
本当にPCR検査の感度は低いのでしょうか?
内閣官房は26日、新型コロナウイルス対応を担当する西村康稔経済再生相がPCR検査を受け、陰性だったと発表した。視察に同行した職員が感染し25日から自宅待機していたが、保健所から濃厚接触者にあたらないと認められたため解除する。
2020年4月27日 朝日新聞DIGITAL
参考文献
(1)Fang Y, et al. Sensitivity of Chest CT for COVID-19: Comparison to RT-PCR. Radiology, 2020. https://pubs.rsna.org/doi/full/10.1148/radiol.2020200432
(2)Ai T, et al. Correlation of Chest CT and RT-PCR Testing in Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) in China: A Report of 1014 Cases. Radiology, 2020. https://pubs.rsna.org/doi/full/10.1148/radiol.2020200642