新型コロナワクチン接種3日後にくも膜下出血で死亡した事例が報告されました。
この事例について考えます。
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ワクチン接種した60代女性、3日後に死亡…死因はくも膜下出血か
厚生労働省は2日、新型コロナウイルスワクチンの接種を受けた医療従事者の60歳代の女性が死亡したと発表した。ワクチン接種後に死亡が報告されたのは初めて。死因はくも膜下出血とみられる。接種との因果関係は不明で、厚労省は専門家の意見を踏まえ、安全性を評価する方針だ。
読売新聞 2021年3月3日
発表では、女性は2月26日、米ファイザー製のワクチンの接種を受けた。女性には持病やアレルギー歴はなく、当初目立った副反応はなかったが、3月1日に亡くなった。
略
くも膜下出血は40~60歳代で比較的起こりやすいとされる。ワクチンの副反応を検討する厚労省の有識者部会の部会長を務める森尾友宏・東京医科歯科大教授は「今のところ海外での接種でも、くも膜下出血と新型コロナワクチンに関連があるとはされていないようだ。偶発的な事例かもしれないが、情報を収集し、評価していく必要がある」としている。
https://www.yomiuri.co.jp/national/20210302-OYT1T50201/
ワクチン接種との因果関係は無いという主張
手を洗う救急医Taka氏
柳澤毅氏
ワクチン接種後に“くも膜下出血”で死亡報道に米・脳神経外科医が苦言「3日前に食べた“から揚げ”ががんの原因だと言っているイメージ」
https://news.yahoo.co.jp/articles/e7899383c47a47c1073d395e60723125e033785a
このニュースにアメリカのハーバード大学マサチューセッツ総合病院で働く脳神経外科・柳澤毅医師も「ワクチン接種と女性の死因とされている“くも膜下出血”の関係性は考えにくい」と話す。
「正直、脳外科医としてくも膜下出血の病態などを考えると、ワクチンと今回のくも膜下出血発症の因果関係は、あまりないのではないかというのが正直なところ。くも膜下出血の原因の8割以上は脳動脈瘤、つまり頭の中にできた血管のこぶのようなものが破裂すること。ただ、その動脈瘤ができて、破裂に至るまでは通常年単位の年月がかかると言われている。ワクチンを接種して3日後、それが原因で動脈瘤ができて、さらに破裂までしたということは考えにくい」
2021年3月4日
Taka氏、柳澤氏の主張するように新型コロナワクチン接種後に動脈瘤ができて、破裂したと考えるのは無理があるでしょう。
しかし、新型コロナワクチン接種との因果関係を考える際に検討すべき点はそこではありません。
Taka氏、柳澤氏と同様、今回の事例が脳動脈瘤破裂によるものであったと仮定して考えます。
脳動脈瘤
脳動脈瘤について
症状
https://medicalnote.jp/diseases/%E8%84%B3%E5%8B%95%E8%84%88%E7%98%A4
破裂していない動脈瘤は未破裂動脈瘤と呼ばれ、なにも症状が現れないことも少なくありません。しかし、動脈瘤の位置や大きさによっては、まわりの神経や脳を圧迫してしまい瞳孔の異常などの症状が現れることもあります。また、特に大きな動脈瘤の場合には、瘤の内部に血の塊が生じることによって、脳梗塞の原因になることもあります。
検査・診断
脳動脈瘤があっても無症状なことが多いため、現実的には健康診断や頭痛の原因を調べている最中に脳MRIやMRAと呼ばれる検査方法でたまたま見つかることが多いです。脳動脈瘤がみつかった場合、脳動脈の位置・大きさ・形状などを詳しく調べる必要があるため、血管内カテーテルを用いた脳血管撮影や、造影剤を使用する頭部CT検査を行います。
脳動脈瘤は多くの場合、無症状でMRI検査で偶発的に発見されることが多いです。
今回の事例では新型コロナワクチン接種時に既に脳動脈瘤があったと考えるのが妥当です。
新型コロナワクチンの接種後の死亡事例の報告について(1例目)
○岡明 薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会長くも膜下出血と考えられるということであるが、そうであれば一般には以前からあった動脈瘤などの破裂が原因となることが多く、こうした年代の方々に生じうる疾患と考えられる。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_17104.html
従って新型コロナワクチン接種と死亡との因果関係を考える際に検討すべきは「新型コロナワクチンが原因で脳動脈瘤が破裂したのかどうか」ということです。
脳動脈溜の危険因子
見つかった動脈瘤が大きくなる、破裂する危険因子として考えられているのは、高血圧、大量の飲酒、喫煙です。
https://doctorsfile.jp/medication/467/
脳動脈瘤破裂の危険因子は高血圧等の血管への負荷です。
新型コロナワクチン接種により血管への負荷が惹起された場合、新型コロナワクチン接種により破裂に至ったという可能性は否定できません。
しかし、新型コロナワクチン接種時の脳動脈瘤の状態が不明であり、新型コロナワクチン接種により、血管への負荷がどの程度変化したのかは不明ですので因果関係があるとまでは言い切れません。
従って現時点では記事にあるように因果関係は不明とするのが適切であると考えます。
日本人における脳卒中の特徴
日本人の脳卒中発症率は欧米と同程度だが,日本人は脳出血およびクモ膜下出血が多いなど,脳卒中の発症様式や病理学的特徴は欧米とは明らかに異なる
https://www.ebm-library.jp/att/conferences/2013/jcs/18.html
略
40〜84歳の患者集団における脳卒中発症率は,ヨーロッパ標準人口にあわせると339/100,000人で,欧米の報告(306〜370/100,000人)3〜7)とほぼ同程度であった。しかし,病型別の内訳は較差がみられ,脳梗塞はヨーロッパの79〜86%に対し日本は59%と低く,脳出血は9〜16%に対し28%,クモ膜下出血は4〜6%に対し13%と,それぞれおよそ2倍程度高い傾向がみられた。
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脳卒中の発症率自体は,欧米諸国と大差はなかったが,その発症様式は異なり,日本人では脳出血の割合が28%と欧米諸国の15%程度とくらべて有意に高かった。この要因として,日本人では高血圧や低コレステロール血症の割合が高いことが関与しているかもしれない。
海外での報告が無いという理由だけでは関連性は否定できません。
さらなる検証が必要です。
立証責任について
「因果関係というものはそんなに簡単に証明できない」というのは正しい主張です。
「因果関係が証明されるまで関連づけるべきではない」というのは不適切です。
このような考え方では立証責任はワクチン接種を受けたものが負わされてしまいます。
新型コロナワクチン接種は「努力義務」※であるとされており、多くの国民が接種すべきであると考えるのであれば「因果関係が否定されるまでは関連性を否定すべきではない」というのが正しい姿勢であると考えます。
※ https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/000680223.pdf
新型コロナワクチンの接種後の死亡事例の報告について(1例目)
<用語の説明>
・副反応疑い報告制度:予防接種後に発生した特定の症状(アナフィラキシー)や、医師等が予防接種との関連を否定できない重篤な症状の報告を行う制度です。そのため、報告には、偶発的なものや他の原因によるものなど、予防接種との関連がないものも含まれ得ます。・副反応:予防接種後に発生した病気や症状のうち、予防接種との因果関係が否定できないものです。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_17104.html
現時点では因果関係が否定できませんので副反応疑いとして報告されました。
因果関係を否定する責任はワクチン接種を行う側にあると考えます。
パン、から揚げの例について
ワクチン接種後に“くも膜下出血”で死亡報道に米・脳神経外科医が苦言「3日前に食べた“から揚げ”ががんの原因だと言っているイメージ」
https://news.yahoo.co.jp/articles/e7899383c47a47c1073d395e60723125e033785a
「例えば、ある方が“から揚げ”を食べた3日後に、大腸がんが見つかったとする。その大腸がんは『3日前に食べた“から揚げ”が原因だ』と言っているようなイメージ。真の原因は長年にわたる生活習慣だったりする。なので、3日前に何を食べたかが、3日後にがんが見つかったことと関係するとは思わないし、直接的な原因にはなりえない」
「ワクチンを打って3日後にくも膜下出血になったから『これはワクチンが原因じゃないか』と、もちろん初めてのワクチンですし、おっしゃることもわかるが、僕たちからすると、そういうイメージ」
ここでの「から揚げ」の例は「おると氏」が挙げていた「パン」と同様のロジックです。
しかし、個別事例に関して検討する場合、このような事例を持ち出すのは不適切です。
今回の事例のポイントは「新型コロナワクチンが原因で脳動脈瘤が破裂したのかどうか」です。
通常「から揚げ」や「パン」が原因で脳動脈瘤が破裂することは考えにくいです。
(高血圧を引き起こすほど大量に塩をかけたから揚げを大量に食べ続けた場合や大量にバターをかけたパンを大量に食べ続けた場合を除きます)
このように全く関連性の無い事例を持ち出して、今回の事例も関連性が無いと印象づけるのはミスリードです。
感染対策として有用性が高いという理由でワクチン接種を強く推奨したところで、立証責任をワクチン接種を受けた者に負わせるようでは多くの国民はワクチン接種を避けるでしょう。
HPVワクチンの失敗から学ぶことができないのでしょうか?
厚生労働省の姿勢
新型コロナワクチンの接種後の死亡事例の報告について(1例目)
(4) 専門家の意見○森尾友宏 厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会長
死因として疑われているくも膜下出血は、40~60歳台の方に比較的起こりやすい疾患とされており、今のところ海外における接種事例でも、くも膜下出血と新型コロナワクチンに関連があるとはされていないようである。偶発的な事例かもしれないが、この症例についても更に情報を収集し、今後の審議会で評価していく必要がある。
○岡明 薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会長
くも膜下出血と考えられるということであるが、そうであれば一般には以前からあった動脈瘤などの破裂が原因となることが多く、こうした年代の方々に生じうる疾患と考えられる。ワクチンとの関連については、海外での治験や接種後の報告でも、新型コロナワクチン接種後にくも膜下出血が増加するとの知見は報告されていない様である。事例に関する情報等を更に収集した上で、今後の審議会で検討することになる。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_17104.html
新型コロナワクチン接種を広く行うためには情報公開とワクチン接種を受ける側に立った幅広い補償が必須です。
偶発事例である可能性は否定できませんがきちんと情報を公開し、検討するという厚生労働省の姿勢は評価できます。