コロナウイルス感染症

藁人形論法と頻回検査について

ストローマン(英: straw man)は、議論において、相手の主張を歪めて引用し、その歪められた主張に対して反論するという誤った論法、あるいはその歪められた架空の主張そのものを指す。ストローマン手法藁人形論法ともいう。

https://www.weblio.jp/content/%E8%97%81%E4%BA%BA%E5%BD%A2%E8%AB%96%E6%B3%95

PCR検査抑制論者は藁人形論法を頻繁に使っています。

国民全員にPCR検査

「国民全員にPCR検査を」ワイドショーがそう煽りつづける本当の理由

テレビのワイドショーなどでは、「国民全員がPCR検査を受けられるようにすべきだ」といった検査推進派の意見がたびたび扱われている。政策シンクタンク代表の原英史氏は「大量検査が感染抑制につながるという議論は根拠不明だ。しかしマスコミは、検査をめぐり”政権追及”を続けている。その方が視聴率アップにつながる」という――。

https://news.yahoo.co.jp/articles/39451dc317ca9ee6eacafdb82dd4c01ff67336b1

国民全員にPCR検査というのは一体誰が主張しているのでしょうか?
続きを見ます。

ところが、マスコミや国会での「全員検査」論は収まらない。予算委員会の閉会中審査では、参考人招致された専門家が「感染集積地では全住民検査。それ以外の地域ではいつでも誰でも無料検査」を提唱(7月16日予算委員会での児玉龍彦氏配布資料)。その具現化を目指す「世田谷モデル」が脚光を浴び、迷走しつつも期待を集めている。「PCR検査」はいまだに一大争点のままだ。

https://news.yahoo.co.jp/articles/39451dc317ca9ee6eacafdb82dd4c01ff67336b1

全員検査の根拠としているのは児玉氏の主張のようです。
児玉氏の主張を見てみます。

https://www.ric.u-tokyo.ac.jp/topics/2020/ig-20200716_1.pdf

「いつでも、誰でも、どこでも無料で」という所を取り上げて「国民全員PCR検査」と拡大解釈しているようです。
勝手に拡大解釈した上で誰も主張していない「国民全員PCR検査」を批判しています。
藁人形論法の典型例です。

国民全員3日おきに検査が必要、毎日1回検査が必要

上記の「国民全員にPCR検査を」の記事を引用しての主張です。
「まご」というのはソフトバンクの孫氏のことでしょう。

検査で制圧するには、国民全員に3日おき検査が必要とのことです。
感染者がほとんど出ていない岩手や鳥取で制圧のために3日おきの検査が必要とは到底考えられません。

もっともな指摘です。
3日おきに検査が必要な根拠は何なのでしょう?

2つの論文が提示されました。
後で検証します。

もっともな指摘です。
最終的には次のようになりました。

ハーバードの論文

画像診断医k氏が挙げたハーバードの論文を見てみます。
(画像診断医k氏は最後まで論文名を挙げませんでしたので推測になりますが、これ以外の論文で該当しそうなものは見当たりません)

https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2768923?utm_source=For_The_Media&utm_medium=referral&utm_campaign=ftm_links&utm_term=073120

簡単にまとめます。

シミュレーションモデルの前提

  1. 秋の大学再開に向けてのシミュレーションモデル
  2. 学期開始時に4990人の非感染者と10人(0.2%)の無症状感染者がいるという前提で80日間のシミュレーション
  3. 検査の頻度は1、2、3、7日ごと、感度は70、80、90%とし、実行再生産数1.5、特異度99.7%(best case)、実行再生産数2.5、特異度98%(base case)、実行再生産数3.5、特異度98%(worst case)の3つのケースについて調べた
  4. 費用対効果も検討
  5. 8時間後に結果が出て、陽性者は寮で隔離。偽陽性者は髙特異度の確認検査で24時間後、集団に復帰する
  6. コンタクトトレーシング(濃厚接触者の調査と検査、隔離)は組み込まれていない

結果

迅速で安価で感度の悪い(>70%)検査キットを用いた2日ごとのスクリーニング検査と実行再生産数を2.5未満に保つための厳格な行動介入によって感染を制御し、学生をキャンパスに復帰させることができると考えられます。

解釈する上での注意点

この論文は5000人の学生が80日間、学生生活を継続するために必要な感染対策を調べるためのものです。
(費用対効果についても検討していますので安価な検査キットを用いた2日ごとの検査を推奨するという結果になっています)
5000人の集団での感染制圧に必要な検査を調べているわけではありません。

実行再生産数1.5(best case)、実行再生産数2.5(base case)、実行再生産数3.5(worst case)という3つのケースを調べていますが日本の実情とは合致していません。
日本の実行再生産数で最も高かったのは4月3日の2.27で、直近1週間は1未満を推移しています。
当然のことですが日本では感染者がほとんどいない地域が多数存在しますので日本全体にこのシミュレーション結果を適用するのは不適切です。

特異度に関してはbase case、worst caseでは98%という非常に低い数値となっています。(安価な検査キットを用いるということと感染蔓延地域では偽陽性が増えるという考えが前提となっています)
8時間後に結果が得られるとありましたのでPCR検査に違いないのでしょうが低すぎます。

このシミュレーションモデルでは除外されていますがコンタクトトレーシング (濃厚接触者の調査と検査、隔離) を行う場合は感染制御に必要な検査数はもっと少なくなると考えられます。

これらの理由から、このシミュレーションモデルをそのまま日本に適用するのは間違いです。

毎日1回検査を行う

次に「感染症拡大モデルにおける行動制限政策と検査隔離政策の比較」という論文を見てみます。

https://cigs.canon/uploads/2020/08/202008_kobayashi_nutahara_report.pdf

総死亡者数を抑えた上で経済ロスを最小化するためには行動制限60日と検査強度を最大 (国民全員に毎日検査)にして1年間継続することが望ましいという結論のようです。

この論文の要点は感染を抑えつつ、経済ロスを抑えるには行動制限だけでなく、検査隔離が必要であるということです。
当たり前ですが検査強度を最大(国民全員に毎日検査)という仮定は現実的ではありません。

シミュレーションモデルの初期値が高すぎます。
日本の実情には合っていないでしょう。

このシミュレーションモデルも濃厚接触者の調査、検査、隔離は組み込んでいませんので実際に必要な検査数はもっと少ないと考えられます。

藁人形論法

画像診断医k氏は感染制圧のためのシミュレーションでは無く、日本の実情にも合致しないシミュレーションの結果をそのまま日本に適用し、「感染制圧には国民全員に3日おきの検査が必要」と主張します。
また「感染症拡大モデルにおける行動制限政策と検査隔離政策の比較」の論文から「感染制圧のためには国民全員に毎日検査する必要がある」と解釈しているようです。

画像診断医k氏がどんな解釈をしようと自由ですがPCR検査拡充論者が自身と同じような解釈していると考えているのでしたら間違いです。

PCR検査拡充論者が国民全員に頻回検査を要求しているかのような主張は藁人形論法であり、詭弁です。

コロナ収束に必要なPCR検査の数と頻度

佐野先生が日本の実情に合致したシミュレーションモデルを提案しています。
このシミュレーションモデルも濃厚接触者の調査、検査、隔離は組み込んでいませんので実際に必要な検査数はもっと少ないと考えられます。

https://sites.google.com/view/covid-19-scientific-info/%E3%83%87%E3%83%BC%E3%82%BF%E5%88%86%E6%9E%90%E6%95%B0%E7%90%86%E3%83%A2%E3%83%87%E3%83%AB/%E3%82%B3%E3%83%AD%E3%83%8A%E7%B5%82%E6%81%AF%E3%81%AB%E5%BF%85%E8%A6%81%E3%81%AApcr%E6%A4%9C%E6%9F%BB%E3%81%AE%E6%95%B0%E3%81%A8%E9%A0%BB%E5%BA%A6

感染蔓延地域の東京23区、大阪市、名古屋市について感染収束に必要な検査数を調べてみます。

実効再生産数について

上記の式を見てわかるように実行再生産数が1未満の場合、検査間隔日数はマイナスになってしまいます。
ここでは以下の6通りについて検証します。

実効再生産数1.01、PCR検査感度70%

人口検査間隔日数1日に必要な検査数
東京23区968208835027663
大阪市26910003507688
名古屋市22960003506560
合計41911

実効再生産数1.01、PCR検査感度90%

人口検査間隔日数1日に必要な検査数
東京23区968208845021515
大阪市26910004505980
名古屋市22960004505102
合計32597

実効再生産数1.1、PCR検査感度70%

人口検査間隔日数1日に必要な検査数
東京23区968208835276631
大阪市26910003576885
名古屋市22960003565600
合計419116

実効再生産数1.1、PCR検査感度90%

人口検査間隔日数1日に必要な検査数
東京23区968208845215157
大阪市26910004559800
名古屋市22960004551022
合計325979

実効再生産数1.5、PCR検査感度70%

人口検査間隔日数1日に必要な検査数
東京23区968208871383155
大阪市26910007384428
名古屋市22960007328000
合計2095584

実効再生産数1.5、PCR検査感度90%

人口検査間隔日数1日に必要な検査数
東京23区968208891075787
大阪市26910009299000
名古屋市22960009255111
合計1629898

当たり前のことですが感染が蔓延してから検査を拡大するようでは莫大な数の検査が必要になります。
実効再生産数1.01の場合、必要な検査数は感度70%でも1日4万件程度ですので現実的な数字です。
それと1日4万件を未来永劫続ける必要はありません。
感染状況が収束に近づくほど必要な検査数は減ります。

このようなシミュレーション結果からも、さっさと検査を拡充すれば良いと思うのですが未だに足を引っ張ろうとするPCR検査抑制論者は一体何を考えているのでしょうか?

この記事が気に入ったらフォローして下さい