新型コロナウイルスに関係する報道やTwitterを見ていると常人には理解できない考え方をする人達がいます。
何故このような考え方をするのだろうと理由を考えていましたが「エリートパニック」を起こしていると考えれば理解はできます。
災害時などに、権力層にあるエリートたちが「一般の人がパニックを起こすのではないか」と恐れ、エリート自身がパニックを起こすという考え方。アメリカのノンフィクション作家レベッカ・ソルニットの著書「災害ユートピア」で紹介された概念で、一般人によるパニックよりも、エリートたちのこうした過剰反応こそが社会に重大な影響を与えるとする。同書では、アメリカのスリーマイル島原子力発電所事故の際、住民のパニックを恐れた行政担当者が、原子炉の危険性を住民に迅速に伝えなかった例などが取り上げられている。
時事用語事典
新型コロナウイルス感染症で見られたエリートパニックを見てみます。
Contents
橋下徹氏
「軽症者は家で寝てろ」という主張に大きなブーメランが返ってきた橋下氏の一連の経緯は以前記事にしました。
橋下氏のエリートパニックと考えられる発言に次のようなものがあります。
橋下徹「なぜ今、日本では新型コロナの検査を拡大してはいけないか」
メディアや国民から「もっと検査をやってくれ!」という声が上がろうが、今の医療機関の対応能力を超えるほどの検査を行ってはならない。これが政治家・トップの全体を見渡した総合判断というものである。「とにかくPCR検査をどんどんやって、陽性か陰性かを確定すべきだ。そして陽性でも無症状だったり、軽症だったりした人は自宅で療養してもらえばいい。国民は、自分が陽性か陰性かわからないから不安になる。陽性だとわかれば、他人に感染しないように注意をすることができるのだから、検査をやった方がいい」というものだ。
しかし、このような意見には重大な認識の欠如がある。それは「人間は陽性反応が出ると、たとえ軽症であっても医療機関に対応を求めてくるものだ」という医療現場の切実な認識についてだ。
このような無症状や軽症の陽性反応者が病院に殺到してくると、院内感染のリスクが高まる。
PRESIDENT Online 2020年3月23日
政治家・トップの総合判断として無症状や軽症の陽性者が病院に殺到すると医療崩壊が起こることを恐れ、「検査を拡充するな」という主張になっています。
実際には無症状や軽症の陽性反応者が病院に殺到することはありませんでした。(保健所が検査を制限し、病院が診察を拒否していたためでもありますが)
軽症者はホテル等の設備で隔離することにすれば病院に殺到するということは無いのですが、パニックを起こした橋下氏はそのような考えには至らなかったようです。
専門家会議
新型コロナウイルス 37.5度以上の発熱4日で相談を ハイリスクは2日に
HUFFPOST 2020年02月17日
新型コロナウイルス感染による肺炎が国内でも広がっていることを受けて、厚労省は2月17日、医療機関の受診の目安を発表した。37.5度以上の発熱が4日以上続く場合などは、各都道府県の「帰国者・接触者相談センター」に相談した上で、センターが指定する医療機関で受診するよう求めている。
基礎疾患をもつ方や高齢者の方はもう少し早く相談をということも示されていましたが「37.5度以上の発熱が4日以上続く場合」という目安が何度も報道されることになりました。
受診の目安として「 37.5度以上の発熱が4日以上続く場合」というルールによって次のようなケースが報告されています。
厚労省が2月17日に新型コロナウイルス感染症の相談・受診の目安として発表した「37.5度以上の発熱が4日以上続く」というルール。これによって、4日間の自宅待機中に容態が悪化して亡くなるケースが報道され始めている。世田谷区の社員寮で遺体で発見された単身赴任中の男性の場合、保健所に電話をかけてもつながらず、発熱から6日後にようやくPCR検査を受けたものの、陽性と判定されたのは死後だった。
ハーバー・ビジネス・オンライン 2020.05.04
新型コロナウイルスに感染した有名人に片岡篤史氏がいます。
その時の様子を動画で公開しています。
4日間も待っていると人によっては命にかかわる危険性があることがよくわかります。
「37.5度以上の発熱が4日以上続く場合」というルールに批判が集まりましたので削除する方向に動いています。
PCR検査の相談目安変更へ 「37.5度」削除も検討
朝日新聞 2020/05/05
新型コロナウイルスに感染したかどうかのPCR検査の必要性を判断する相談センターへの相談の目安について、政府の専門家会議は、重症化しやすい人は風邪の症状が「2日程度」続いた場合としていた日数をなくし、すぐ相談しやすくなるよう目安を変更する方針を固めた。「37・5度以上」が4日以上としていた発熱の目安も削除することを検討している。
「37.5度以上の発熱が4日以上続く場合」というルールを作成した理由
「37.5度以上の発熱が4日以上続く場合」というルールを作成した理由は明確にはされていません。根拠としては次のようなものがあったのでしょう。
【識者の眼】「新型コロナウイルス感染症:軽症者の早期受診を推奨すべきでない」山本啓央
日本医事新報社 2020年03月14日
重症群は上気道症状が5〜7日程度あり、その後に肺炎に進展することが報告されており、これは普通感冒やインフルエンザといった比較的、有症状期間が短い感染症をスクリーニングする上で有用となりうる。COVID-19の検査前確率を上げる意味でも、37.5℃以上の発熱が4日以上持続するという厚生労働省の目安は妥当と考えられる。
「37.5度以上の発熱が4日以上続く場合」というルールの根底にあるのは医療崩壊に対する恐怖
PCR検査の相談目安変更へ 「37.5度」削除も検討
朝日新聞 2020/05/05
専門家会議が2月17日にまとめた目安では、軽症者が医療機関に殺到して医療崩壊するのを防ぐといった狙いから、風邪の症状や37・5度以上の発熱が4日以上続いた場合に帰国者・接触者相談センターに相談することとされた。
上のスライド図はクラスター対策班、押谷仁氏によるもの(COVID-19への対策の概念 2020年3月29日暫定版)です。
「病院や検査センターに多くの人が密集し、さらに一部の人は興奮して大声をあげるような状況になるのは容易に想像できる」 とあります。
実際には病院や検査センターに患者が殺到し、パニックを起こすようなことは起こっていません。(保健所が検査を制限し、病院が診察を拒否していたためでもありますが)
軽症者をホテル等で隔離することで医療崩壊は防げます。
徹底的な検査、隔離を行うことで感染経路不明の感染者を減らし、全体の感染者を減らすことは医療機関の負担軽減につながります。
ところがパニックを起こした人達による専門家会議では、このような考えには至らなかったようです。
仁坂吉伸氏の怒り
政府の方針に反して徹底的に検査、隔離を行っている和歌山県知事、仁坂吉伸氏は怒りをこめてメッセージを発信しています。
新型コロナウィルス感染症対策(その21) 全国知事会と怒り
知事からのメッセージ 令和2年4月30日
この関係で大変怒っていることが1つある。和歌山では医者に行かずコロナで亡くなった方が発生した。和歌山県では国の方針に逆らい、クリニックにお願いをして早期発見システムを作っている。それにより今まで重症化を防いできた。
しかし、国は4日間は医者に行かないようにと言い、テレビでもそればかり放送している。もし仮に、あの方がテレビを見て医者に行かずコロナで亡くなったとしたら国の専門家の罪は重い。
医療崩壊が発生したのならば医者に行かないというのはしょうがない。しかし医療崩壊が発生していない県では、医者に行き早期発見した方が医療崩壊を食い止めることが出来る、これは論理的に明らかな話ではないかと思う。
エリートパニックを起こしている人達の考え方は論理的に考えると理解できないとの意見です。
エリートパニックが原因で引き起こされた珍説
PCR検査をする意味は無い
現在、新型コロナウイルス感染症の確定診断の手段としてはPCR検査以外はありません。
徹底的な検査と隔離が収束のための有効な手段であると考えられます。
ところが、PCR検査をする意味が無いとまで主張する人もいます。
根底には検査を拡充すると患者が病院に殺到し、医療崩壊が起こるという考えがあるのでしょう。
橋下徹氏
橋下氏は、「はっきり言って10歳から40歳くらいの元気な人は、普通の風邪のような感じで家で寝とけって政府がバシっと言えばいいんですよ。全員PCRなんかやらなくていいんですよ。やれやれやれやれって不必要なこと煽るからおかしくなる。いらないんです。だって、やったってどうするんですか?」と私見を述べた。
サンスポ 2020/2/29
C病院感染症内科・地域ケア科 T医師
問7 軽症のうちに診断した方が重症化が予防できるのでは?
琉球新報 2020年3月6日
いいえ、早めに受診しても重症化を予測することはできませんし、軽症の段階から使用できる治療薬もありません。
たしかに、重症患者に対して使われている薬剤(カレトラ、アビガンなど)はあるのですが、これら薬剤の効果については、まだ明確ではありません。風邪薬や抗菌薬などと比べると副作用の強い薬です。軽症者が内服することのメリットはありません。
「検査で陰性とされた感染者はリスクの高い行動、例えば、人との接触や外出などの行動を取ってしまう可能性が高くなる」
まるでテンプレートが配布されているかのように多くの専門家、識者が主張していました。
この意見を主張している人達は検査の拡充に反対で、PCR検査の感度は70%程度で当てにならないと考えています。
ところがこの人達は検査感度が低い検査で陰性であると伝えられた患者がリスクの高い行動を取りやすいと考えています。
常人には理解できない思考法ですが、根底には検査を拡充すると患者が病院に殺到し、医療崩壊が起こるという考えがあるのでしょう。
K大学教授 B氏
PCR検査の感度が低い弊害は明らかである。検査で陰性とされた感染者はリスクの高い行動、例えば、人との接触や外出などの行動を取ってしまう可能性が高くなる。
JCER 2020/04/15
県立Sがんセンター感染症内科 I医師
現在行われているPCR検査の精度には限界があります
MEDLEY 2020年2月28日
検査が陰性だった患者さんの中に一部存在する感染者が、心の油断から症状があっても外出し、感染を拡大させてしまう可能性があること
C病院感染症内科・地域ケア科 T医師
問1 PCR検査の精度はどのぐらいですか?
実は、新型コロナウイルス感染症に対するPCR検査の感度は高くありません。諸説ありますが、おそらく70%以下だと思われます。
問5 軽症でも検査で診断すれば、外出自粛などの予防につながるのでは?検査をして陰性であれば、皆さん、自分は大丈夫だ、ただの風邪だと思ってしまいますよね。そうやって、外出を自粛せずに仕事をしたり、遊びに行ったりするかもしれません。
琉球新報 2020年3月6日
H総合診療科科長 K氏
新型コロナウイルスのPCR検査の感度はそれほど高くない(おそらく70%を下回る…確定の数字ではない)ため、結果が陰性だった患者が新型コロナウイルス感染症ではないと思い、自宅療養を続けずに職場などで感染を増やすリスクが増す。
日本医事新報社 2020年3月2日
皆さんPCR検査の感度は70%程度とされています。にもかかわらず患者がリスクの高い行動を取るかもしれないという珍説を披露されています。
現在日本で行われているPCR検査の感度は非常に高いと考えられますので、そもそもの前提が間違っています。
エリートパニックを起こしている人達を見分けるには?
厄介なのはエリートパニックを起こしている人達の主張が全て間違っているわけではないということです。
一部には正しい意見もあります。
見分ける方法は簡単です。
論理的に考えましょう。必ず矛盾が見つかります。